記事1『高齢者に現れるサルコペニアの原因と定義とは?』と記事2『フレイルとは?-身体的・精神的・社会的な脆弱化を指す』では、サルコペニアとフレイル、それぞれの概要と主な治療・予防法についてお話いただきました。どちらもまだ広く知られていない概念であり、予防や治療法の確立には解決すべき課題も多く残っています。今回は、今後の治療法確立に向けた課題と展望について、引き続き、東京大学医学部附属病院老年病科の秋下 雅弘先生にお話しいただきました。
サルコペニアに関しては、一般の診療所レベルでの診断を可能とし治療に介入できる体制が重要となります。そのためには、筋肉量の測定がより簡便に行われる必要があります。例えば、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島 勝矢教授によると、ふくらはぎ周りが男性34センチ未満、女性32センチ未満が筋肉減少の1つの基準と言われています。これはひとつの例ですが、このような簡便な診断方法の確立が今後の診断率の向上につながると考えています。
同様に、フレイルの診断においても、より簡便な基準が必要になるでしょう。まだ診断や治療におけるガイドラインが十分に整備されていない状態なので、簡便な診断の基準や方法を整備する必要があると思います。また、一般の方が簡単にフレイルか否かをチェックできるようなパンフレットやホームページが普及すると、啓発には有効であると考えています。
記事1『高齢者に現れるサルコペニアの原因と定義とは?』や記事2『フレイルとは?-身体的・精神的・社会的な脆弱化を指す』でお話したように、薬物療法は研究段階のものが多いです。今後有効となる薬剤が登場すれば、栄養や運動などの非薬物療法と組み合わせて、より効果が期待できる治療法が確立されるかもしれません。
また、ポリファーマシーといって、悪影響を与える薬を止めることも重要であると考えています。例えば、高齢者に処方されている睡眠薬が筋力を落とす原因になる場合があるなど、薬の副作用が症状を悪化させる場合があります。このような事態を避けるためには、医師による処方の適正化が重要ですが、薬の知識を広めるパンフレットの作成など地道な啓発活動も有効でしょう。
現状では、フレイルよりもサルコペニアの方が有効な治療法が多いと考えられます。それは、記事1でお話したように、筋肉は重症化するスピードも速いですが回復も速いという特徴があるからです。一方、フレイルの症状の1つである認知症状やうつ状態などに関わる脳は、一度重症化してしまうと回復が難しく、その治療は今後の課題と言えるでしょう。
サルコペニア、フレイルともに女性の方が発症率・罹患率が高いと言われています。それは、女性は男性と比較して筋肉量がもともと少ないという身体的な特徴があるからです。さらに、女性は男性よりもうつ病になりやすく、認知機能も低下する傾向にあるため、比率が高くなります。現状では、女性は男性よりも長生きですが、高齢者の増加とともに今後は健康長寿が重要となります。健康な状態で寿命を延ばすためにも、サルコペニアやフレイルの予防は国として取り組まなければならない急務の課題であると言えるでしょう。
また、私は現代の20代、30代の若い女性の健康問題を危惧しています。例えば、海外のデータを見ると、女性の筋肉量は20代、30代くらいから徐々に減少していくことがわかります。一方、日本の同じ年代の女性の筋肉量はもともと少ないために、そこから大きく減少することなくほぼ変わらない数値を保っています。これは、過剰なダイエットなどが理由になっていることが考えられますが、将来の健康長寿に関わる非常に危険な現象です。若いうちから運動をする習慣をつけたり、女性の痩せすぎを防ぐよう美意識を変えることが重要であると思います。
東京大学医学部附属病院 副院長・老年病科科長、東京大学 大学院医学系研究科 加齢医学 教授
東京大学医学部附属病院 副院長・老年病科科長、東京大学 大学院医学系研究科 加齢医学 教授
日本老年医学会 老年科専門医・老年科指導医日本内科学会 内科指導医・認定内科医日本認知症学会 認知症専門医・指導医
東京大学大学院医学系研究科教授(老年病学・加齢医学)。1960年鳥取県生まれ。1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、現職。高齢者への適切な薬物使用について研究し、学会・講演会・新聞・雑誌などで注意を喚起している。日本老年医学会で「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物リスト」を含む薬物療法のガイドラインを中心になって作成。ほかに、老年病の性差、性ホルモンに関する研究。
秋下 雅弘 先生の所属医療機関
関連の医療相談が2件あります
手術するかどうかの判断
手術を受けるべきかどうか悩んでいます。その判断基準についてアドバイスをお願いします。 4月より左足全体に何となく違和感を感じ、5月より痛み始め受診しました。 保存療法が一般的とのことでしたが、6月より痛みが強くなり、鎮痛剤を飲み始め、12日にMRIでヘルニアを確認し同日ブロック注射、28日にヘルコニア注射を受けました。7月下旬より痛みが和らぎ始め、激痛が無くなりまとまった睡眠も取れるようになりました。しかし、ヘルコニア注射後5週間経った現在でも、鎮痛剤を飲まないと、左のお尻から下肢に痛みがあり通常の生活は難しい状態です。8月12日に再度診察にて手術するかどうかを決める事になっており、その時にまだ鎮痛剤が必要なようなら手術をお願いすることになるのかと思っていますが、もし、判断するのに有意義なポイントなどありましたら教えてください。 よろしくお願い致します。
筋肉量の増加
2年前ぐらいから大腿筋の疲れ 階段を昇るのがきつい 従来整形外科にも診断したが異常は見つからない。 年齢の関係とも考えられるが 筋肉量の減少ではないかと自分では思っておりますが 解決方法を教えて頂ければ 有難いです。
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