インタビュー

ポリオとは - 予防接種の大切さを考える

ポリオとは - 予防接種の大切さを考える

国立成育医療研究センター 小児医療系総合診療部レジデント

津村 悠介 先生

石黒 精 先生

国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教...

石黒 精 先生

この記事の最終更新は2015年06月12日です。

ポリオは日本語で急性灰白髄炎と呼ばれ、“ポリオウイルス”に感染することで発症する感染症で、小児まひ(麻痺)の呼び名でも知られています。ポリオウイルスは、ほかの多くのウイルス性の胃腸炎と同じように、便の中に排出されたウイルスが、手や食物を介して口から入ることで感染します。

ポリオウイルスに感染しても、ほとんどの場合は症状がないか、あっても風邪のような軽い症状で済んでしまいます。一方で、手足に力が入らなくなり、そのまひが生涯続いてしまうこともあります。まひが起こってしまった場合、残念ながら現在の医療では治療法がありません。

そんな恐ろしい病気であるポリオは、かつて日本でも年間1500~6000人の患者が発生しており、社会的な問題となっていました。しかし、1961年にポリオ生ワクチンが導入され、全国で集団接種が開始されて以降は患者数が激減しています。1962年にはその年に新しく発生した患者数が289人まで減少するなど、その効果には目を見張るものがあります。その後も着実に患者数は減少し、ワクチン導入から10年後の1970年代には10人を切るまでに減少しました。日本国内では1980年に1人の発症があったのを最後に、この病気の新しい患者さんは確認されていません。

ポリオウイルスは、感染した人の便の中に排泄され、手や食べ物を介して口から体内に入ることで感染します。乳児に下痢を起こさせるロタウイルスや、冬季の胃腸炎で有名なノロウイルスと同様の感染ルートです、というとわかりやすいかもしれません。

潜伏期間は1~2週間程度で、この間に腸内で増えたウイルスが血液の中に散らばります。感染者の4~8%に、発熱やのどの痛みといった風邪のような症状を呈しますが、これらは数日で治まり、普段通り生活できてしまうことがほとんどです。

しかし、風邪の症状が消えた数日後に再度発熱や嘔吐が出てきて、首や背中の痛み、手足の痛みがあらわれ、「ポリオまひ」といわれるまひが始まるケースがあります。ポリオまひは手足の力が入らなくなる弛緩性まひと言われるまひで、現在の医療では回復させる治療法がありません。まひが呼吸に必要な筋肉に及ぶと、呼吸ができなくなってしまい、人工的に呼吸を助けないと死に至ります。まひまで進行する割合は、感染者全体の0.1%程度と言われています。

最も確実な検査は、腰から針を刺して採取した脳脊髄液中にポリオウイルスが存在するかを確認する「PCR」という検査です。しかし、どこの病院でもすぐにできる一般的な検査ではなく、代わりに便からウイルスを分離してポリオウイルスを同定しています。感染から数週間は便中からポリオウイルスを検出できるとされています。

ポリオウイルスやまひに対して有効とされる治療は現在ありません。呼吸に必要な筋肉のまひが生じると呼吸が困難になってしまうため、人工呼吸器が必要となることもあります。後遺症としてまひが残ったときは、まひにならないで残った身体の機能を最大限に活用して生活を送れるよう、リハビリテーションが行われます。

不活化ポリオワクチンは、初回接種3回、追加接種1回、合計4回の接種が必要です。不活化ポリオワクチンの接種年齢・回数・間隔は、次のとおりです。初回接種(3回)は、標準的には生後3か月から12か月に3回、20日以上の間隔をおいて注射します。追加接種(1回)は初回接種から12か月から18か月後に1回行います。この期間を過ぎた場合でも、生後90か月(7歳半)までの間なら、接種ができます。

ポリオは一旦発症してしまうと有効な治療法がなく、まひが永続的に続いてしまう病気であるため、なによりもまずかからないようにすることが重要です。ポリオは予防接種の効果が非常に高く、日本を含めワクチン接種が制度化されている国では、長期にわたり発症者数がゼロとなっています。ワクチンには“経口生ワクチン”と“不活化ワクチン”の2種類があり、それぞれに長所と短所があります。

日本では、1961年の導入以降、経口生ワクチンの定期接種が行われていましたが、2012年9月に不活化ワクチンに変更されました。経口生ワクチンとは、毒性を弱めた生きたポリオウイルスをワクチンとして口から摂取する方法で行うものです。ウイルスが腸の中で増えることでポリオの抗体が作られ、免疫を付ける仕組みです。通常のポリオウイルスに感染したときと同じ経路で体内に入るため、抗体を作るだけでなく、腸の免疫力も強化できることが利点とされていました。

一方で、毒性が弱められているとはいえ生のウイルスを接種するため、450万件に1件ほどの割合で、ポリオに感染したときと同様のポリオまひを発症してしまうことが大きな問題となっていました。実際に日本国内の調査では、生ワクチンを使っていた時代には、年間0~3例程度の発症者が確認されていました。

ポリオという病気が根絶されている日本では、ごくまれなケースですが、ワクチンを打つことによってまひが生じてしまうことが大きな問題となっていました。しかし、海外に目を向けるとポリオが依然として流行している地域もあるため、定期接種をやめることで、将来的に日本でふたたびポリオが流行してしまう可能性もあります。

そこで、2012年9月より、不活化ワクチンの導入が始まりました。不活化ワクチンは、ポリオウイルスを不活化(=殺した状態)したものをワクチンとして使用しています。つまり、ワクチンを接種してもポリオ麻痺を発症しないことが最大のメリットといえるでしょう。

日本では四種混合ワクチンとポリオ単独の注射ワクチンがありますが、現在は四種混合ワクチンが主流となっています。経口生ワクチンと異なり、腸の免疫は強化されませんが、十分にポリオまひを予防できると考えられています。決められた接種回数を受ければ、まひ性ポリオを予防できる確率は90%以上とされています。

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  • 国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教育部長(併任)/血液内科診療部長(併任)

    石黒 精 先生

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