ジフテリアはコリネバクテリウム・ジフテリア(ジフテリア菌)という細菌が鼻やのどの粘膜に感染しておこる重い感染症です。主な症状はのどの痛み、発熱、唾液腺(つば=唾液を作る場所)の腫れ、倦怠感で、のどの奥に灰色の厚い膜ができ、空気の通り道が狭くなって息が苦しくなります。そして病気が進むと心臓や腎臓、神経にも影響が出るため、治療を受けていても100人に10人が亡くなるという怖い病気です。特に5歳以下や40歳以上の免疫力が弱い年齢の方では100人に20人もの人が亡くなるともいわれています。
ジフテリアの原因となるジフテリア菌は、のどの粘膜の表面で増えます。この菌が感染する経路は、以下の3通りです。
せきやくしゃみで飛んだ小さな飛沫を吸い込むことで感染します。特に人ごみの中などは要注意です。
感染した人の鼻水がついているティッシュを触ったり、コップなどを共有したりすることで菌が伝染します。
おもちゃやタオルから感染する場合があります
症状は下記の通りです。
また、感染しても症状が全くないか、あっても軽いかぜのような症状のみで済む場合があり、ジフテリア菌に感染していることに気が付かずに日常の生活を送ってしまい、周囲の人に菌を伝染させている可能性がありますので注意しましょう。感染力は6週間持続します。
皮膚に感染するタイプのジフテリアもあります。皮膚の痛みと発赤、腫れを伴い、ときに皮膚の表面に灰色の膜を伴う潰瘍ができてしまうことがあります。
皮膚ジフテリアは熱帯の気候にある衛生環境がよくない国でみられることが多いですが、先進国といわれる国でも衛生環境の悪い生活を送っていると発症することがあります。
治療を受けずにいるとジフテリアは悪化し、以下のさらに重い症状(合併症)が現れることがあります。
ジフテリア菌は鼻やのどに感染し、菌と戦った白血球の死骸や菌の死骸などでできた灰色の固い膜を作ります。その膜により空気の通り道が狭くなり、息が苦しくなります
ジフテリア菌が産みだす毒素が血液の流れに乗って心臓まで運ばれ、心臓の筋肉に炎症を起こすことがあります (心筋炎)。重症の場合は心臓の動きが弱くなるため、血液を全身に送り出すことができなくなり、心不全や突然死につながることがあります。
ジフテリア菌の毒素は神経にも影響します。のどの神経が障害された場合は飲み込む力が弱くなります。また手足の神経に影響すると筋力が低下します。呼吸に携わる筋肉が障害されると「呼吸筋まひ」と呼ばれる状態となり、息をすることができなくなります。
こうした合併症から回復するためには、長期間適切な治療を受ける必要がありますが、それでも10パーセントの人は残念ながら死に至ってしまいます。
ジフテリア菌に感染するリスクが高い人は
ワクチンが普及していない発展途上国では現在でもたくさんの人がジフテリアを発症しています。日本やアメリカ、ヨーロッパでの発症は稀ですが、ワクチンを正しく接種していない人や発展途上国の人と交流する機会が多い人は感染のリスクがあります。
ジフテリア菌感染者と接触したことが明らかな場合、また、すでに症状が出てきている場合は、かかりつけ医をすぐに受診してください。また、お子さんのワクチン接種歴が分からないときは小児科を受診してください。またその際、家族がみんなワクチンを打っているかどうか、という情報も感染を広げないために重要ですので、医師に伝えるようにしてください。
息が吸いづらかったり、歩くと息切れや立ちくらみがしたりする場合は、すでに呼吸や心臓の働きが障害されている可能性があるので緊急な対応が必要です。
医療機関を受診する場合、他の患者さんへ感染を広げないために、どの入り口から受診するか、受診を避けた方がよい時間帯がないかなどを電話で各医療機関に問い合わせてください。
母子手帳を持参し、ワクチンを接種した履歴が分かるようにしてください
これまでかかった病気や、アレルギーを起こした食品や薬、現在使用している薬やサプリメントを答えられるようにしてください。
口の中をみて、のどや扁桃を灰色の膜が覆っている場合はジフテリアが疑われます。医療機関では、のどから採取した粘液から、ジフテリア菌が増えてくるかどうかをみて診断します。皮膚に感染している場合(皮膚ジフテリア)は、皮膚にできた潰瘍から粘液を採取することもあります。
※出席停止期間
学校保健法ではジフテリアが治るまでは出席停止とされています。感染が分かったらまずは学校に連絡しましょう。
治療は以下の通りです。
ジフテリアが疑われた場合は、ジフテリア菌の毒素を緩和させる薬を筋肉や静脈に注射する抗毒素療法がまず検討されます。
ジフテリア菌を駆逐するために、ペニシリンやエリスロマイシンなどの抗菌薬を数日間使用します。治療のために入院が必要となることが多いです。ジフテリア菌はワクチンを受けていない人に簡単に感染してしまうので、隔離される場合もあります。
呼吸の苦しさがある場合は、原因となっているのどの偽膜を取り除くことがあります。
発症を予防するために抗菌薬を処方したり、ワクチンの追加接種を行うことがあります。
ジフテリアは昔から小児がよく感染する病気として恐れられていましたが、現在ではワクチンによる予防が可能になっており、適切な予防接種をすればジフテリアにかかる可能性を95%減らすことができると言われています。ジフテリアのワクチンは三種混合ワクチンであるDPT (D:ジフテリア、P:百日咳、T:破傷風)または四種混合ワクチンであるDPT-IPV(IPV:ポリオ)(いずれも定期接種、不活化ワクチン)に含まれています。
混合ワクチンは第1期の初回を生後3~90か月(標準的には生後3~12カ月)の間に3回接種、その後は3回目の接種から12~18 か月後に1回追加します。第2期として11~12 歳にDT (D:ジフテリア、T:破傷風)という二種混合ワクチン接種します。
ジフテリアワクチンは時間とともに効果が薄れていきます。免疫を保つためにはワクチンの追加接種で免疫力を活性化する「ブースター効果」を用いることが必要です。12歳前後に1回、以降は10年ごとに1回ずつ接種することが望ましいといえます。特に、ジフテリア流行地に旅行する場合はぜひ接種することを推奨します。
ジフテリアを発症する人は日本では多くありませんが、現在でも命を落とす危険のある重症な感染症です。ワクチンを接種するだけでほぼ確実に予防することができるので、必ずワクチンを接種しましょう。
国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教育部長(併任)/血液内科診療部長(併任)
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