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二分脊椎に伴う下部尿路機能障害——治療プランを立てるために大切なこと

二分脊椎に伴う下部尿路機能障害——治療プランを立てるために大切なこと
佐藤 裕之 先生

東京都立小児総合医療センター 泌尿器科 部長

佐藤 裕之 先生

目次
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生まれつきの背骨の形成異常によって、本来背骨の中にあるべき脊髄(せきずい)(脳からの命令を伝える中枢神経)が障害を受けている二分脊椎。二分脊椎では多くの方に下部尿路機能障害(蓄尿や排尿に関する障害)がみられ、導尿や手術治療が必要となることがあります。しかし、単に病気の状態だけで治療法を決めることはできず、患者さんの希望や家庭的・社会的環境をふまえて、患者さんに合わせた治療プランを検討していくことが求められます。

今回は、東京都立小児総合医療センター 泌尿器科 医長である佐藤(さとう) 裕之(ひろゆき)先生に二分脊椎に伴う下部尿路機能障害の症状や治療についてお伺いしました。

二分脊椎とは、生まれつき脊椎(背骨)の一部分が2つに分かれており、そこから脊髄が外に飛び出してしまっている状態を指します。二分脊椎は病態によってさまざまな種類に分類されますが、どのような二分脊椎にも共通して起こりうるのが下部尿路機能障害です。

私たちが普段特に意識せずに行っている排尿は、自律神経のはたらきによってコントロールされており、蓄尿機能(膀胱に尿をためること)と排尿機能(膀胱から尿を出すこと)の絶妙なバランスによって成り立っています。

しかし、二分脊椎のお子さんの場合には、神経が障害を受けているためにこれらのバランスをうまく取ることができません。そのために、尿を膀胱に十分にためられない“蓄尿障害”や尿を思うように出すことができない“排尿障害”がみられます。これらの障害を総称して、下部尿路機能障害と呼びます。

蓄尿障害は、膀胱が硬くなることによるものと、尿道括約筋(尿道を締める筋肉)の機能が低下して緩んでしまうことによるものの主に2つのタイプに分かれます。これによって膀胱内に十分に尿をためることができずに、失禁(尿が漏れてしまうこと)などの症状が生じます。

排尿障害は、膀胱排尿筋がうまく縮まないことによるものと、尿を出そうとすると膀胱の出口の筋肉が閉まってしまうことによるものの主に2つのタイプがあります。これによって、尿をうまく出すことができなくなってしまいます。

二分脊椎に伴う下部尿路機能障害には、一概に決まりきった治療法というものはなく、患者さん一人ひとりの状況に合わせて治療目標を立て、それに向けた治療プランを考える必要があります。

そもそも二分脊椎自体にさまざまな病態があり、排尿に関する症状の程度も大きな個人差があります。また、症状の感じ方も患者さんによって違います。たとえば、少しの失禁でも気になる方もいらっしゃれば、まったく気にならない方もいらっしゃいます。

さらには、患者さんを取り巻く家庭的・社会的環境も異なります。治療の目標を決める際には、これらの要素を複合的に考えて、治療プランを立てていく必要があるのです。

治療を考えるうえでもっとも重要なことは、腎臓の機能を守ることです。尿をうまく出せない状態が続くと、膀胱の中の圧力が高くなって尿が腎臓へ逆流したり、尿が腎臓にたまってしまったりすることがあります。これによって、腎臓の機能が悪化する恐れがあり、重症なケースでは腎臓移植が必要となる可能性もあります。

腎臓の機能を守るための治療が必要と判断された場合には、たとえ1歳未満の赤ちゃんであっても手術などの積極的な治療を行います。

治療を決める際には、今後起こりうることを先回りして考えて、将来的にお子さんやご家族が困らないように、長期的なスパンで治療プランを立てていくことも大切だと考えています。

尿をうまく出せないお子さんの場合、導尿(カテーテルという管を尿道から挿入して尿を出すこと)が必要となる場合があります。これは、尿がうまく出せないことによる膀胱内の高圧化を防いだり、失禁を防いだりする目的で行われます。膀胱や神経の状態を見定めて、将来的に導尿が必要だと考えられる場合には、なるべく小さいうちから導尿を開始するようにしています。

なぜなら、いざ導尿が必要となったとき、お子さんに「今日から導尿をやりましょう」と言ったところで、なかなかスムーズにはできないからです。必要になったときにしっかり導尿ができているようにするためには、小さい頃からの習慣化が大切なのです。

また、小さいうちに導尿を始めてみることで、家庭的・社会的な問題(両親の仕事の都合など)で続けていくことが難しいことが分かる場合もあります。その場合には、早い段階で導尿以外の治療プランを探ることができます。

症状が出てから治療を行うのではなく、将来的な問題を見越した先回りの介入が大切なのです。

佐藤 裕之先生

お子さんが成長して自分の意思がはっきりしてきたら、お子さんの希望を聞いて治療プランを考えることも重要です。

お子さんによっては、「少しくらい尿が漏れてもよいから絶対に導尿はしたくない」という方もいます。導尿をやめることによる医学的なリスクがない場合には、ご本人とよく相談しながら導尿以外の治療方法を検討することもあります。

排尿に関してご本人が困っていない限りは、あまり極端に介入するのではなく、医学的に必要な最小限の介入にとどめておくことが大切だと考えています。お子さん自身としては、周りの大人に気を使われすぎることが、かえって大きなストレスとなることもあります。気にかけてあげることはもちろん必要ですが、ご本人の意思を尊重しながら見守ることも大切です。

二分脊椎による下部尿路機能障害の治療法にはさまざまなものがありますが、ここでは代表的な薬物治療や手術治療についてお話しします。

薬物治療では、膀胱の収縮を防いだり、膀胱の過活動を抑えたりする薬を処方します。いずれも蓄尿障害を改善させるための薬で、排尿障害に対しては子どもに有効な薬はありません。

ボツリヌス毒素膀胱内局所注入療法とは、筋肉の緊張を和らげる“A型ボツリヌス毒素(ボツリヌス菌が作り出すタンパク質)”という薬を膀胱内に注入する治療法です。膀胱の緊張が和らいで膀胱が大きくなったり、過活動状態が抑制されたりすることで、膀胱にためられる尿量の増加が期待できます。

方法としては、尿道から膀胱鏡を挿入し、そこから細い針でA型ボツリヌス毒素を20か所注入します。治療時間は1時間ほどで、全身麻酔が必要となります。

治療後は症状の経過をみるために1泊していただき、問題なければ翌日には退院可能です。また膀胱に針を刺すことによって血尿が出ることがありますが、注射針ほどの細さの針ですので、大出血を起こすことは基本的にはありません。

膀胱が小さく十分な尿をためられないお子さんに対しては、腸を使って膀胱を大きくする膀胱拡大術を行います。身体的負担が大きい手術のため、患者さんやご家族とよく相談のうえ、将来的に腎臓の機能が悪くなってしまうことが考えられる場合などには積極的に実施を検討します。術後は、時間をかけてだんだんと膀胱が大きくなっていきます。ただし、きちんと尿を出さないと必要以上に膀胱が大きくなってしまうこともあるため、導尿などで排尿管理をしっかりと行う必要があります。

そのほかの手術治療として、失禁を改善させるために膀胱の頸部(けいぶ)を補強する膀胱頸部形成術や、尿道からの導尿が難しい場合にはおへそから導尿できるようにする腹壁導尿路増設術などを行うこともあります。

佐藤 裕之先生

お子さんをサポートする際には、本人がどうしたいのかを一番に尊重して、お子さんをしっかり見ながらサポートしてほしいと思っています。お子さんがハンディキャップを持っていることに対して、無理に正常な状態に近づけるような治療を望まれる方もいらっしゃいますが、必ずしもそれがよい治療とは限りません。お子さんが望んでいないのに無理な治療を行うことは、結果的にお子さんを苦しめてしまうこともあります。お子さんをしっかり見て、自分にはどのようなサポートができるのかを考えていくようにしましょう。

ご自身の病気をしっかりと受け止めてもらうことは大切ですが、あまり深刻に受け止めすぎないようにしてください。日常生活の中で制限しなければならないことは特にありませんし、二分脊椎であっても、結婚して家庭を築いている方も多くいらっしゃいます。

やりたいことがあれば、それができるようなサポートを私たち医療者はしていきたいと思っています。自分がどのような治療や状態を望むのか、遠慮なく主治医の先生や周りの大人に伝えていただければと思います。

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