子どもの腎移植は主に、腎不全のお子さんが将来的な生活を支障なく送ってもらうために行われ、多くの場合は移植を受け入れてもらうために、家族や周囲の支えが必要となります。小児腎移植の目的とメリットについて、東京都立小児総合医療センター 臓器移植科医長の佐藤裕之先生にお話しいただきました。
子どもに腎移植を行う必要があるという場合でも、本人は腎移植を希望していないことがほとんどです。それでは、小児腎移植はなんのために行うのでしょうか。
大人の場合、自分が透析を続けていたり、腎不全の状態になってしまったりした際、そのことに対して不安を覚え、なおかつその状態を改善したいと考えます。このように自分自身が今現在困っているから腎移植手術を行うのです。しかし、子どもの場合は状況が違ってきます。子どもは現在の状態を改善することが第一目的ではなく、腎移植が終わった後、できる限り長く生きてその子が社会にうまく適合できるようになることであり、本来はそれが目的になるべきだと考えています。
腎移植手術の場合も尿道下裂の手術(詳細は記事3『尿道下裂の手術治療と問題点』)と同様、無事に腎移植ができたら終わりではありません。手術をきちんと行うことは前提であり、その後生活に問題が無いようにしていくことがより重要です。
肉体的な負担を考慮すれば、確かに腎移植することにおけるメリットも大きいのですが、子ども自身が腎移植を受け入れられないケースも珍しくありません。
また、乳児や幼児など本当に小さな子であれば体格的な制限があります。現在日本では大人の腎臓提供がほとんどであり、このため8㎏以下の子どもに大人の腎臓を移植することは物理的に不可能です。子どもの腎臓を移植すればよいのではないかとも思われるかもしれませんが、現在の日本で子どもからの腎提供からの子どもへの移植はほとんど行われていません。
世界的に見ても12~18歳の腎移植術の成績が悪いことも課題といえます。国内外を問わずこの年齢層は腎移植の成績が飛び抜けて悪く、その原因としては腎移植を受け入れられなかったり、免疫抑制剤を飲むことを止めてしまったりする点が大きいと考えられています。そのようにご本人が腎移植に抵抗を持っている状況ですから、無理に腎臓を移植させることも難しいでしょう。
もちろん、このような面があるから透析を続けたほうが良い対応であるという根拠はありません。しかし、透析を嫌がっている(もしくはご家族が透析に対して積極的ではない)からといって安易に腎移植をするというのはおかしな話です。
腎移植ができるようであればそのほうが将来的な負担を考慮すればよいとも思えますが、誰にでも絶対に勧められる方法とはいえないでしょう。特に子どもの場合の腎移植に関しては、本人が腎移植を受け入れられるかという部分のほうが大事なのです。
このような観点があるため、腎移植を検討する際はご家族や本人の状況、意思を聴き、両者に合わせつつプランを立てていきます。基本的に腎移植は患者さんに勧めて良い方法だと思っていますが、すべての患者さんに対して先行的腎移植(透析を導入することなく腎移植を行う方法)をするつもりはありません。何よりも患者さんご本人やご家族の気持ちを大事にしてあげることが重要です。
さらに、術後のケアをしっかりとやらなければ、免疫抑制剤をきちんと飲まなかったり、治療に対する抵抗を見せてしまい外来にも来られなかったりします。臓器移植を受けた方は免疫抑制剤を一生飲み続ける必要があるのですが、これをきちんと守れる方はそう多くはありません。
精神的なケアを行ってから、初めてできるのが腎移植です。全体的な面を見て、腎移植ができるかどうかを見極めなければ、目先の状態だけを治すために手術しても意味がありません。何が希望で、何に困っているのかをしっかりと確認していくべきでしょう。
【コラム】
海外の一部の国では骨髄移植を腎移植と同時に行い、免疫抑制剤を飲まなくて済むようにする治療法もあるのですが、今のところこの方法は日本で確立されていません。免疫抑制剤を飲み続けることで伴う問題も出てくるため、改善が求められます。
子どもであれば学校生活などにも支障が出にくくなりますし、身体・精神的に楽になるとも考えられます。
社会に出て仕事を始めるとき、腎不全から回復した状態でスタートを迎えられるようにしてあげるのが我々の役目でもあります。社会に出るというとき、患者さんにとって一番問題になるのは、やはり腎臓の機能面です。就職するとき腎臓の機能が悪いと、どうしても何らかの制限がかかることは免れないでしょう。ですから、なんとかそのときまでには腎機能を限りなく通常レベルに戻してあげたいと考えています。
また女性であれば、妊娠・出産をしたい方もいらっしゃいますし、実際腎移植を受けて治療を行い、出産した方もいらっしゃいます。透析治療を受けている状態ですと、出産はほぼ不可能になってしまいます。とはいえ腎不全が進めばそれも出産の可能性を低下させます。
いずれにしても移植については、成長に合わせて適切なタイミングを設定して、小児期の成長の妨げとならず、いかに移植腎機能を維持した状態で社会人としての生活を迎えられるかが、今一番目標にしなければならない点だと考えています。
東京都立小児総合医療センター 泌尿器科 部長
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