腎臓移植には、生体腎移植と献腎移植の2種類があります。生体腎移植は生きている方(ご家族の方)の腎臓を片方採取して患者さんに移植する方法で、献腎移植は亡くなった方から腎臓を提供していただく方法です。現在の日本では生体腎移植の割合が圧倒的に多いのですが、ここに日本の移植体制の問題が残っているといわれます。臓器移植の今後の課題について、東京都立小児総合医療センター 臓器移植科医長の佐藤裕之先生にお話しいただきました。
日本移植学会の腎臓移植のページでは、『小児の腎不全には透析療法を経ない「先行的腎移植」が最善、最良の治療法となります。』と明記されており、子どもの場合は移植が活発に行われているとされています。しかし実際のところ、日本では生体腎移植(生きている方から臓器の一部を採取して患者さんに移植する方法)ばかりが行われているゆえにこのような結果が出ているのだと考えられています。
生体腎移植ならば、子どもの腎移植の場合であればそのご家族が提供する可能性が十分考えられます。しかし、成人になるとご家族が高齢となり、ご家族から臓器を提供していただくケースは少なくなります。
つまり、海外のように献腎移植(脳死などで亡くなった方から臓器を提供していただく方法)ができれば、本来このような生体腎移植を勧めることは少なくなるでしょう。日本では小児の献腎移植が少ないことが問題であり、今後解決されなくてはならない点であると考えています。
移植手術は亡くなった方から臓器を提供される献腎移植を基本とし、生体腎移植はその次の手として考慮するのが本来あるべき姿だと考えます。
生体腎移植では他の方の腎臓を採るため、必然的に健康な大人に手を加える手術が行われます。よって、生体腎移植が移植の種類として最善の方法だととらえられてしまうことは問題です。
もちろん、生体腎移植をすることによるメリットも多く存在します。たとえば子どもであれば、近しい家族から臓器をもらう生体腎移植のほうが、他人から臓器をもらうことになる献腎移植より拒絶反応が起こりにくい可能性も高いです。さらに移植腎臓も良い状態で移植ができるため、移植腎をより長持ちさせられますし、生着率も生体腎移植のほうが高くなります。
移植腎を長く持たせ、将来的に再手術をする回数を減らすことは、子どもにとってもちろん良いことであり、条件が合うのであれば生体腎移植はお勧めされるべきといえます。つまり、その方その方に合わせて移植の方法を選択するのが本来のやり方であり、誰に対しても生体腎移植を適応するのは正しいとはいえないということです。
献腎移植がなかなか行われにくいという状況下をなんとかしたいという思いから、現在の生体腎移植の技術は進歩してきました。しかし、2016年現在、日本で献腎移植が行われた数は年に100例程度ととても少ない数にとどまっています。一方、生体腎移植は年に1000例以上行われているのです。このような生体腎移植ばかりが行われる状況が、本来のコンセプトと合わないと感じることもあります。
献腎移植がもっと積極的に行われるようになれば、子どもから子どもへ腎臓を移植する可能性も出てきます。つまり、大人の腎臓を移植できないような小さな子ども(体重が8㎏以下の子ども)でも移植ができるようになるかもしれないのです。実際、海外では小さな子どもから臓器提供があるため、たとえ体重が3㎏でも腎移植が可能になっています。
「大人の臓器を入れるスペースが無いから移植はできない」という前提があることが、日本の小児臓器移植体制の混乱を招いているように感じます。
本来、世界的には患者さんが小さくても移植手術を行っていますし、移植を必要としている小さな子どもはたくさんいます。小児臓器移植全体のシステム整備が、今の一番の課題となっており、腎臓専門医はこのことをふまえて日本の腎移植のあり方を考えていく必要があるでしょう。
東京都立小児総合医療センター 泌尿器科 部長
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