機能が失われた腎臓の一つを他人の健康な腎臓と入れ替えることで、腎臓の機能を取り戻す治療法である腎臓移植。前編では、ドナーとレシピエントの条件、移植の手順についてご説明しました。今回の後編では、ドナー・レシピエントの移植後の生活、移植のメリットやデメリット、移植の費用などについてご説明します。
ほとんどの場合、移植した後は腎臓の機能が回復します。しかし、移植された腎臓はあくまで他人の腎臓であるため、拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤という免疫を抑える薬を一生飲み続ける必要があります。
生体腎移植では、健康なドナーにメスを入れる事になります。よって、生体腎移植を行うかどうかの判断は慎重に行わなければいけません。
「腎臓を提供することで健康なドナーにその後生涯にわたって、身体的にも心理的にも社会的にも不利益があってはならない」ということが前提条件になるため、医学的に問題がないかどうかの確認はもちろん、本人の自発的な意思の確認、社会的・精神的にも問題がないかどうかの確認が必要です。
ドナーの手術は、腹腔鏡を用いて行うことが多く開腹手術に比べ、出血量、痛み、入院期間などの面で優れています。手術時間は4時間程度で、手術による合併症は少ないと言われています。医療機関により異なりますが手術後の入院期間は1週間程度です。
移植後は、ドナーの腎臓が1つになるため、残った方の腎臓にかかる負担が大きくなり、高血圧になったり、蛋白尿(腎臓の機能が悪くなることで、尿中に正常以上のタンパクが出てくること)が出てきたりします。よって、塩分制限を行うなど、腎臓にあまり負担をかけないように気をつけていく必要があります。
基本的に、移植後のドナーの腎臓機能が悪くなることはないとされていますが、腎臓が1つになるため、十分な腎機能評価、禁煙、体重・血圧管理、耐糖能、脂質などを含めた総合的評価を行う必要があります。
ドナーにとってもレシピエントにとっても幸せな移植となるよう、定期的に通院を行い、レシピエントだけでなくドナーもきちんとフォローアップを受けるようにしましょう。
透析治療などの他の腎代替療法と比べた、移植のメリット・デメリットをまとめました。
腎臓移植後は、規則正しい生活、免疫抑制剤の服用をきちんと行い、再発や拒絶、感染などがなければ十分な腎臓機能を保つことができます。よって、社会復帰はもちろん、妊娠、スポーツなども問題なく行うことが可能です。また、寿命の面でも透析治療などと比べて優れています。
レシピエントが免疫抑制剤を一生飲み続ける必要があること、ドナー・レシピエントともに手術が必要なことが欠点として挙げられます。
特に生体腎移植に関しては、健康なドナーにメスを入れなければならないことが大きな欠点と言えるでしょう。
以下の表も参考にしてください。
移植した腎臓が正常に機能する確率のことを生着率といいます。腎移植での生着率は、免疫抑制剤の進歩に伴って、年々改善されています。
上のデータによると近年では、移植から5年後で9割以上、10年後で8割以上のレシピエントの腎臓が正常に機能しています。
最近は免疫抑制剤が進歩してきているので、ドナーとレシピエントでABOの血液型が異なっていても、移植を行うことができます。(その場合、予めレシピエントに存在する抗体の除去(血漿交換・吸着)、免疫抑制療法、抗凝固療法等を行います。)
生体腎移植の場合の費用は、移植前の検査や血漿交換、免疫抑制剤などの種類によっても異なります。
術前に検査したことにより正式に移植が成立した場合は、移植準備などでかかった医療費(保険適応外の部分は除外)が払い戻されます。ただし、何らかの理由で移植が成立しなかった場合は払い戻しがありませんのでご注意ください。また保険適応外の部分の検査に関しては戻ってきませんので医療機関によく聞いてください。
高額医療費の長期特定疾病制度(透析を行っていない患者さんの場合は高額療養費払い戻し制度限度額適用認定証)、身体障害者手帳、自立支援医療、心身障害者医療費助成などの助成制度が利用できます。ただ住所地により利用できる助成制度が異なり、また加入している健康保険によっても内容が大きく異なるため、医療機関や住所地の障害福祉担当窓口までお問い合わせください。
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記事2:腎臓移植とは(前編)—ドナーとレシピエントの条件、移植の手順について
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医療法人社団善仁会 中田駅前泉クリニック 院長、医療法人社団ときわ 理事、横浜市立大学腎臓高血圧内科 客員研究員
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本高血圧学会 会員
全人的総合的腎不全医療(Total Renal Care:TRC)を推進・普及させるためにアウトリーチ活動を行っている。一人ひとりの腎不全患者が自己管理や行動変容を実現するための教育というミクロなアプローチから、腎不全患者自身がさまざまな治療の選択肢を持てるようにするための社会システム全体の構築というマクロなアプローチも積極的に行っている。
上條 由佳 先生の所属医療機関
石橋 由孝 先生の所属医療機関
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