透析治療には血液透析と腹膜透析の2種類があることはご存知ですか? 施設で行う血液透析は、週3回の通院で行う透析治療です。その血液透析について、以下に詳しくご説明します。
腎臓には、体内の不要な老廃物や余分な塩分・水分を尿として体の外に捨てる働き、ミネラルバランスの調整・pH(体の中の酸性・アルカリ性のバランス)の調整・血圧の調整をする働き、血液をつくるホルモン・骨に関わるホルモンを作る働きがあり、体全体のバランスを整えています。しかし、病気により腎臓の機能が落ちると、老廃物や水分がたまったり、全身のバランスをとることが難しくなったりします(腎不全といいます)。
そしてこの腎不全が進行すると、腎臓の機能を補う治療である腎代替療法が必要になります。腎代替療法の一つが「透析治療」であり、これは“腎臓の代わりに体内の不要な老廃物や余分な水分を体の外に捨てる”という治療です。治療ではあるのですが、一方で透析というものは、これまでと同じ生活を続けていただくために、食事でとった老廃物をトイレに毎日行って捨てるのと同様に、生活の一部として行っていただくものになります。よって、患者さん・ご家族にもその内容をしっかり理解していただく必要があります。
透析治療には、「血液透析」と「腹膜透析」の2種類があります。血液透析にはご自宅の近くのクリニックで行う「施設血液透析」と自宅で行う「在宅血液透析」があります。まずは施設血液透析についてお話しします。
血液透析では、腕の血管に針を刺し(埋め込んだチューブから行う方法もあります)、血液ポンプを使って血液を体の外に取り出して、透析器(とうせきき:ダイアライザともいいます)に通します。そして、透析器で血液から不要な老廃物や余分な水分を取りのぞいた後、きれいな血液をまた腕の血管に戻します。
この一連の治療を病院で週3回受けることになります。 よって、血液透析では、週3回決まった時間に病院へ行く必要があります。1回の治療には3~5時間かかります。
透析器には、直径約0.2mmの細い管を約1万本束ねた管が通っています。その管の中を血液が、その周りを透析液(とうせきえき)が流れます。透析膜にある小さい穴を通して、血液の中の老廃物や水分が透析液に移動し、血液をきれいにします。
血液透析では、1分間あたり1カップ程度(個人差があります)の血液を透析器に送り出すのですが、これだけの量の血液を送り出すためには太い血管が必要になります。
そこで、血液透析治療を始める前に、腕の動脈と静脈をつなぎ合わせて、人工的に太い血管を作り出す手術(内シャントといいます)を行います。この手術は、遅くとも血液透析治療を始める2~4週間前に行います。
手術に伴う主な合併症としては、以下が挙げられます。
これらが起こると、場合によっては再手術が必要になることもあります。
上で述べたように、透析治療には、血液透析・腹膜透析の2種類があります。そして、血液透析の合併症には、血液透析に特有の合併症・透析治療に共通した合併症の2種類があります。それぞれについて以下に詳しく見ていきましょう。
1.不均衡症候群(ふきんこうしょうこうぐん)
透析をして老廃物がとれることにより、血液と脳の組織との間で、尿毒素やミネラル成分のアンバランス(不均衡)がおこり、一時的に脳に水が溜まることが原因で起こる副作用です。透析中~透析終了後12時間以内に起こり、吐き気、嘔吐、頭痛などの症状が起こります。透析を始めて間も無い段階では最も多い副作用です。
ゆるやかな条件で透析を始めることで、予防が可能です。
2.血圧低下
血圧低下は、血液透析で最も多い副作用で、吐き気、嘔吐、頭痛、動悸、冷や汗、あくびなどの症状が起こります。原因としては、体の中の水分量が減ること、透析の間の体重増加が大きい(水分を引く速度が速い)こと、心臓に何かしらの問題があること、貧血が強いこと、などが挙げられます。
3.その他
以上のような合併症も起こり得ます。
1.貧血
腎臓では赤血球をつくるホルモンをつくっています。よって、腎不全患者さんでは、このホルモンが不足することや、鉄分などの材料が不足することにより、貧血が起こります。
疲れやすい、息切れ、めまい、動悸などの症状が起こります。材料やホルモンの補充により治療が可能です。
2.骨が弱くなる
体内のカルシウムやリンなどのバランスが壊れることが原因で、骨が弱くなってしまい、骨折しやすくなったり、骨・関節の痛みが生じたりします。
3.心臓血管系の合併症
透析患者さんの生命予後(あとどのくらい生きることができるか)を左右する一番の問題は心臓血管系の合併症です。動脈硬化や水分過剰、高血圧、貧血、カルシウム・リン等の調整が重要です。
高齢化社会により透析を始める患者さんは年々高齢化しており、最も割合が高い年齢層は75〜80歳、透析導入時の平均年齢は男性が68歳、女性が70歳となっています。ご自身で通院ができない場合は家族の協力や通院サービスの利用が必要となり、クリニックによっては送迎サービスを無償で提供しているところもあります。通院の負担や合併症が多い患者さんはご自宅で透析を行う選択肢もあります。
残っている腎臓の機能を守ることや合併症を防ぐこと、また体調を良好に保つためにも、塩分や蛋白質、カリウムなどの食事制限は必要です。高齢の方は低栄養状態になりやすいので極端な制限をするより、積極的に食事をとる工夫も大切です。
シャントで透析を行っている方は、透析当日は入浴を避けてください。透析当日でなければ入浴をしても大丈夫です。
透析治療を始めることになったら、まずそれぞれの医療保険の窓口で「特定疾病療養受療証」(とくていしっぺいりょうようじゅりょうしょう)の交付手続きをしましょう。これにより、月1万円(所得や保険によっては2万円)までの自己負担で透析治療を受けることができます。
ただし、同じ月でも入院と外来はそれぞれに医療費が発生し、またかかる医療機関ごとの自己負担となります。
記事1:血液透析患者さんは海外旅行できる?―その準備、注意点について
記事2:腎臓移植とは(前編)—ドナーとレシピエントの条件、移植の手順について
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記事4:透析治療を受けている人はどのような食事をとればいい?
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記事7:腎臓移植とは(後編)ー移植後の生活、移植のメリット・デメリット、費用について
記事8:腎臓を守るためには減塩が大切!(前編)—慢性腎臓病における減塩の重要性について
記事9:腎臓を守るためには減塩が大切!(後編)—慢性腎臓病における減塩の重要性について
記事10:慢性腎臓病(CKD)とは—腎臓が悪くなると、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる?
医療法人社団善仁会 中田駅前泉クリニック 院長、医療法人社団ときわ 理事、横浜市立大学腎臓高血圧内科 客員研究員
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本高血圧学会 会員
全人的総合的腎不全医療(Total Renal Care:TRC)を推進・普及させるためにアウトリーチ活動を行っている。一人ひとりの腎不全患者が自己管理や行動変容を実現するための教育というミクロなアプローチから、腎不全患者自身がさまざまな治療の選択肢を持てるようにするための社会システム全体の構築というマクロなアプローチも積極的に行っている。
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石橋 由孝 先生の所属医療機関
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