記事2『腎移植の手術方法・費用・ドナーの適応条件とは? 腎移植はどのように行われるのか』では、腎移植の具体的な方法などをご紹介しました。本章では、腎移植によってドナーとレシピエントそれぞれが抱えるリスク、予後の経過についてご説明します。昭和大学病院 腎移植センター 講師の加藤容二郎先生にお話を伺いました。
記事1『腎不全とは? ステージ分類と治療法、腎移植について』でご説明したように、腎臓は左右対称に2つあり、腎移植ではドナーから片方の腎臓を摘出します。腎機能が2つの腎臓を合わせて100だとした場合、1つを摘出すると50にまで下がるかと思われますが、多くの方の場合、残った腎臓がもう少し頑張ることで60〜70に保たれます。
腎臓摘出には手術が必要なため、全身麻酔、疼痛、手術創痕などの一般的な手術のリスクが発生します。また腎機能が60〜70になるため、片腎提供後のドナーは腎臓への負担を軽減するために塩分摂取量を控えめにすることが勧められます。生体腎移植ドナーガイドラインの基準を満たす方から腎臓を提供していただいた場合、腎臓が1つになっても生涯透析が必要になることはまずありませんが、腎臓を提供した影響で将来的に透析治療を必要となるリスクも完全には否定できません。
移植された腎臓を異物と判断し、免疫反応によって排除しようとすることがあります。これを移植後の拒絶反応と呼びます。拒絶反応は、反応のスピードや時期によっていくつかの種類にわけられます。
<拒絶反応の種類>
(例)
・超急性拒絶反応:移植した直後より24時間以内に移植腎内の血が固まり、血栓ができ移植腎壊死に至る
・促進型急性拒絶反応:移植後1週間以内に起こる比較的強い拒絶反応で、徐々に尿量が減ることもある
・急性細胞性拒絶反応:移植後1週間から3か月の間に好発する細胞性拒絶反応で、治療に反応することが多い
・慢性拒絶反応:移植後3カ月以降に、長い期間をかけて徐々に腎機能が低下していく
腎移植後には、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。以前は免疫抑制剤の種類も少なく、拒絶反応や感染症などの合併症が多かったのですが、免疫抑制剤の種類も増え、それらを組み合わせることにより、長期生着率(透析を再導入せず、移植腎が機能している割合)が改善してきています。
また、以前はABO血液型不適合の腎移植場合、血漿交換後に脾臓(ひぞう)を摘出してから腎移植を行うことで拒絶反応を抑える方法が主流でしたが、近年、リツキシマブという薬剤を使用することより、血液型の異なるドナーからの移植でも脾臓を摘出せずに腎移植を行えるようになってきました。
記事2『腎移植の手術方法・費用・ドナーの適応条件とは? はどのように行われるのか』でご説明したように、レシピエントは腎移植後、拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を飲み続ける必要があります。免疫抑制剤を使用することにより、通常はあまりかかることのない、サイトメガロウイルス感染やニューモシスチス・カリニ肺炎などといった感染症のリスクが高まります。また、免疫抑制剤を使用することにより、一部の悪性疾患(腎癌など)の罹患率が一般の方より上がるという報告もあります。
現在、腎移植後の免疫抑制剤が不要となる免疫寛容の研究が世界中でされており、米国や日本では、生体腎移植での臨床研究も行われています。この方法が実用化されれば、移植後に免疫抑制剤を飲み続ける必要がなくなり、同時に免疫抑制剤による感染症や発癌のリスクも低下します。つまりこの研究が成功すると、腎移植のデメリットだった部分が解消されるのです。
移植した臓器が、その後に機能している割合を生着率といいます。生体腎移植・献腎移植の生着率を比べると、血縁者からの提供もある生体腎移植に比べて、献腎移植は生着率が若干低い傾向にあります。なかにはプライマリー・ノンファンクションといって移植後に全く機能しない状態もありえます。
しかし2000年以降、免疫抑制剤の種類が増えたこと、免疫抑制剤の使い方の変化によって、生体移植・献腎移植ともに生着率が格段に向上しています。国内での2010年〜2014年の調査では、5年生着率が生体腎移植で94.6%、献腎移植では87.5%でした。(出典:臓器移植ファクトブック2016)今後もさらなる生着率向上が予測されています。
2010年以降、レシピエントの5年生存率は生体腎移植で97.2%、献腎移植では93.4%と高い数値を保っています*。今後はさらにレシピエントの腎移植後生存率がさらに向上していくものと予想されます。
記事1『腎不全とは? ステージ分類と治療法、腎移植について』でお話ししたように、末期腎不全(腎臓の機能が著しく低下)に陥ると、何らかの方法で腎臓の機能を補う必要があり、その方法として腎移植と透析の2種類があります。
腎移植には前述の通り、生体腎移植(健康な人からの腎臓提供)と献腎移植(心停止、脳死の方からの腎臓提供)の2つの方法があります。2015年末のデータでは、12,825名の献腎移植登録者数(献腎移植を希望する患者さんの数)に対し、実際に献腎移植が実施されたのは167例でした*。つまり、献腎移植を希望する患者さんに対して1.3%ほどしか実施例がないのです。2015年に献腎移植を受けられた方の平均待機期間は、12.7年となっています*。このように、日本では献腎移植ドナーが圧倒的に不足しており、この状況は腎臓に限らず、肝臓や心臓など他の臓器移植に関しても同様です。
臓器移植ファクトブック2016より
生体腎移植のレシピエント・ドナーの年齢について調査した結果、どちらも60歳以上の方が増加傾向にあります。このなかには、定年を迎えた後に、夫婦間で腎移植を行うケースも見受けられます。背景には、免疫抑制剤の進歩によって夫婦間の腎移植でも拒絶反応が起こりにくくなったことや、鏡視下にドナー(提供者)の腎臓摘出が可能になったことにより、腎移植へのハードルが下がったことも考えられます。
「臓器提供意思表示カード」の存在をご存知でしょうか。ほとんどの健康保険証、免許証、マイナンバーカードなどの裏面には「臓器提供意思表示欄」があります。
移植に関する考え方や取り決めは、国によって異なります。日本では臓器提供意思表示カードの認知度・活用度が低いため、臓器提供の数がまだまだ少ない現状があります。
臓器移植という話題は多くの方々にとって、身近ではないかもしれません。しかし、自分の家族や友人が腎不全や肝不全などの患者さんで、臓器提供を待つ立場であることを想像すると、以前より親身に考え、身近に感じられることでしょう。
臓器移植を行うためには、ドナー(提供者)が不可欠です。臓器のご提供が少ない現状で、臓器移植を心待ちしている患者さんが数多くいることを、少しでも知っていただけたら嬉しく思います。
昭和大学医学部 外科学講座 消化器・一般外科部門 講師、昭和大学病院 腎移植センター 講師
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