腎臓には、主に血液中の老廃物をろ過したり、体内の水分量を調節したりする役割があります。この腎臓の機能が低下して腎不全となると、血液透析の導入が必要となります。血液透析を行うためには、血液透析用の血管である「内シャント」を作製しますが、この内シャントが何らかの原因で狭くなったり、閉塞したりしてしまうことを「透析シャント狭窄・透析シャント閉塞」といいます。
今回は、透析シャント狭窄・閉塞について解説します。
腎不全の患者さんに対しては、「血液透析」という治療が行われます。血液透析とは、血液を体の外に取り出して老廃物や余分な水分を除去したあと、再び体内に戻す治療法です。
血液透析では、1回あたり3〜4時間の治療時間で大量の血液を体の外に取り出す必要があります。しかし、静脈からでは大量の血液を持続的に取り出すことはできず、動脈からでは止血に難渋してしまいます。
そこで、静脈と動脈をつなぎ合わせることで静脈の血流を増やし、効率的な血液透析を行うために作られる血管が「内シャント」です。内シャントは、透析患者さんにとって「命綱」ともいえる血管です。
シャントが、何らかの原因によって狭くなったり、閉塞したりしてしまうことがあります。これを、「透析シャント狭窄」「透析シャント閉塞」と呼び、主に静脈側に起こります。
透析シャント狭窄・閉塞を引き起こす原因のひとつとして、静脈に高い動脈圧がかかることが挙げられます。動脈はもともと血流量も多いため頑丈にできていますが、静脈は動脈に比べて脆弱です。その静脈に、動脈から速いスピードで血液が直接流れ込んでくるため、当然静脈にとっては大きなストレスとなってしまいます。このストレスに耐えきれず、シャントが狭窄したり、閉塞したりしてしまいます。
また、穿刺によるストレスも透析シャント狭窄・閉塞を引き起こす原因となります。通常、血液透析は週に3回行われ、その度に血液を抜くための脱血用の針と、血液を戻すための返血用の針を静脈に穿刺します。繰り返される穿刺が静脈にとってストレスとなり、透析シャント狭窄や閉塞が起きてしまうことがあります。
透析シャント狭窄・閉塞がどのくらいの期間で起こるかは、患者さんによって異なります。しかし、透析シャント狭窄・閉塞が起こることは決して珍しいことではありません。文献によって異なりますが、シャント作製後の一次開存率は約60%1)という報告もあります。
透析シャント狭窄・閉塞が起こると、血液透析中に痛みを感じることがあります。
また、聴診器でシャント音を確認すると、シャント音が小さくなる、狭いところを血液が流れるために高調音になる、音が途切れて聞こえるなどの異変がみられることがあります。毎日、患者さん自身で聴診器を使いシャント音を確認する中で、これらの異変に気付く方もいらっしゃいます。
また、シャントの血流量が減少するために、シャント部分の盛り上がりやハリがなくなってくることもあります。シャントが硬くなってきた場合も、透析シャント狭窄・閉塞を疑います。
透析シャント狭窄・閉塞が起こると、シャントの中を血液が流れにくくなります。そのため、血液がうまく回収できなくなる、血液を体に戻すときの圧力が高くなるなどして、透析時間が本来よりも長くなってしまいます。
また、狭窄や閉塞が起きている場所によっては、「再循環」といって、一度ろ過した血液を再び回収してろ過してしまうこともあります。たとえば、上図のように返血部の先に狭窄が生じている場合、返血された血液が行き場を失い脱血部のほうへ逆流することで、再び体外でろ過されてしまいます。この循環を何度も繰り返すために、透析効率が非常に悪くなります。
また、シャントが完全に閉塞してしまうと、シャントを使った血液透析ができなくなります。
透析シャント狭窄・閉塞が起こると、先ほどお話しした通り血液透析の効率が悪くなったり、血液透析ができなくなったりしてしまいます。そのため、透析シャント狭窄・閉塞が生じた場合には、狭窄・閉塞したシャントを内側から広げる血管内治療、もしくはシャントを新しく作り直す手術を行います。
透析シャント狭窄・閉塞の第一選択の治療法は、「VAIVT:Vascular Access Intervention Therapy」です。VAIVTとは、カテーテルを使って狭窄・閉塞したシャントを内側からバルーン(風船)で広げる血管内治療法です。
VAIVTができない場合には、シャントを新しく作り直す手術を行います。シャントを新しく作り直した場合、そのシャントを使えるようになるまでは、通常約2週間かかります。
そのため、シャント再作製となった場合には、2週間ほど入院し、その間は足の付け根にある大腿静脈に管を挿入するなどして血液透析を行います。
シャントを新しく作り直す治療は、長い入院が必要となるなど患者さんにかかる負担が大きくなってしまいます。
また、シャントは心臓に近づくほど心臓への負担が大きくなるため、シャントはできるだけ心臓から遠い位置(手首付近)に作られますが、2回目以降に作製したシャントは、どうしてももともとあったシャントよりも心臓に近い側になってしまいます。そのため、シャント再作成後に心機能が悪化してしまう患者さんもいらっしゃいます。
このように、患者さんにかかるさまざまな負担を考慮して、VAIVTができる場合には原則VAIVTによる治療を行います。
シャント再作成を回避するために大切なことは、透析シャント狭窄・閉塞をなるべく早期に発見することです。狭窄や閉塞が生じてから長い時間が経過してしまうと、VAIVTができないことが多くあります。そのため、なるべく早期にみつけて治療につなげることが重要です。
透析シャント狭窄・閉塞を早期発見するためにもっとも重要なことは、血液透析を担っているスタッフがシャントに起きている異常をいち早く察知することです。
また、血液透析がきちんとできていても、実は狭窄や閉塞が起きている場合もあります。たとえば、脱血部と返血部の間が狭窄していても、血液透析はできるため、発見が遅れるケースがあります。このような、発見されづらい透析シャント狭窄・閉塞があるということを、医師だけでなく血液透析にかかわる看護師や臨床工学技士が知っておくことも大切です。
シャントに関する情報を患者さんに向けてしっかりと発信することも、血液透析にかかわるスタッフの役割だと考えています。シャントとはどのようなものか、狭窄や閉塞が起きたときにどのような症状が現れるのかなどを患者さんに伝えることで、透析シャント狭窄・閉塞の早期発見につなげることができます。患者さんと医療従事者が共にシャントを触ったり、聴診器で音を確認したりして、異常がある場合にはなるべく早期に治療につなげられるようにしましょう。
1)2011年版 社団法人日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」
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