腎機能が低下した状態である腎不全は、記事1『腎不全とは? ステージ分類と治療法、腎移植について』でご紹介したようにいくつかの方法で治療が可能です。なかでも腎移植は、腎臓本来の機能を取り戻せる唯一の方法です。腎移植のメリット・デメリットやドナーの適応条件、腎移植の方法について、昭和大学病院 腎移植センター 講師の加藤容二郎先生にお話を伺います。
記事1『腎不全とは? ステージ分類と治療法、腎移植について』でもお話ししたように、腎移植の最大のメリットは腎臓本来の機能を取り戻せることです。また腎移植後は、基本的に食事・飲水制限がなくなるため、日常の食事を楽しむことができます。それに加えて、定期的に通院・透析行程を必要とする透析と異なり、外出や旅行への制限がなく、患者さんのQOL(生活の質)を高く保てることもメリットです。ただ、基本的に食事制限がないとは言っても、高血圧、糖尿病、高脂血症などある方は、それに応じて食餌療法が必要ですのでご注意ください。
腎移植には大きなメリットがありますが、その一方で移植による拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤を1日に2回飲み続ける必要があります。そして免疫抑制剤はその名の通り免疫機能を抑制するため、服用により、サイトメガロイウイルス(体内に潜伏しあらゆる臓器に症状を引き起こすウイルス)などによる感染症にかかることがあります。しかし近年は数種類の免疫抑制剤をバランスよく使ったり、予防投与を行ったりすることで、以前と比べると、感染症のリスクが低下しつつあります。
また腎移植のためには、まず腎臓の提供者(ドナー)が必要不可欠です。生体腎移植の場合、親族内で提供を希望される方が必要で、諸検査、入院、手術などの負担がかかります。それとは別に、献腎移植登録をすることで、献腎移植を受けられますが、現在のところ、献腎移植を希望する患者さんに対して、脳死もしくは心停止後の臓器提供希望者の数が少なく、日本では10年以上の待機期間が見込まれております。この献腎登録後の待期期間が長い現状はデメリットの1つといえます。
腎移植には、生体腎移植(健康な人からの腎臓提供)と、献腎移植(心停止もしくは脳死の人からの腎臓提供)の2種類があります。さらに生体腎移植には、血縁者間腎移植(血のつながった親子、兄弟、祖父母など)と非血縁者間腎移植(配偶者などの姻族)があり、献腎移植には、脳死下腎移植と心停止下腎移植があります。
前述のように腎移植にはドナー(提供者)が必要不可欠ですが、生体腎移植ドナーにはガイドラインが存在します。生体腎移植ドナーガイドライン策定合同委員会によって、以下の通りガイドラインが設けられています。
A. 年齢は20 歳以上で 70 歳以下
B. 以下の疾患、または状態を伴わないこと
・全身性活動性感染症
・HIV 抗体陽性
・悪性腫瘍(原発性脳腫瘍および治癒したと考えられるものを除く)
C. 血圧は 140/90mmHg 未満
D. 肥満がない:BMI は30Kg/m2 以下。高値の際は 25 Kg/m2 以下への減量に努める
E. 腎機能は、GFR(イヌリンクリアランスまたはアイソトープ法、クレアチニンク
リアランスで代用可)が 80ml/min/1.73m2 以上
F. タンパク尿は 24 時間蓄尿で 150mg/day 未満、あるいは 150mg/gCr 未満、またはアルブミン尿が 30mg/gCr 未満
G. 糖尿病(耐糖能障害)はないこと。早朝空腹時血糖値で 126mg/dL 以下で HbA1c(NGSP)値で 6.2%以下。判断に迷う際には O-GTT 検査を行い評価す
ることが望ましい。
H. 器質的腎疾患がない(悪性腫瘍、尿路感染症、ネフローゼ、嚢胞腎など治療上の必要から摘出された腎臓は移植対象から除く)
※出典:生体腎移植のドナーガイドライン
この基本ガイドライン基準に合致しない際は、医師の判断によってこれまでの腎移植成績を考慮した「マージナルドナー(Marginal donor)」基準を適応し、許容範囲を拡大することがあります。
A. 年齢は 80 歳以下とするが身体年齢を考慮する
B. 血圧は、降圧薬なしで 140/90mmHg 未満が適正であるが、降圧薬使用例では130/80mmHg 以下に厳格に管理され、かつ尿中アルブミン排泄量が 30mg/gCr未満であること。また、高血圧による臓器障害がないこと(心筋肥大、眼底の変化、大動脈高度石灰化などを評価)
C. 肥満があっても BMI は 32 Kg/m2 以下。高値の際は 25 Kg/m2 以下への減量に努める
D. 腎機能は、GFR(イヌリンクリアランスまたはアイソトープ法、クレアチニンクリアランスで代用可)が 70ml/min/1.73m2 以上
E. 糖尿病は、経口糖尿病治療薬使用例では HbA1c が 6.5%(NGSP)以下で良好に管理されていること。インスリン治療中は適応外である。アルブミン尿は30mg/gCr未満であること
F. 臨床的に確認できない腎疾患(検尿異常のない IgA 腎症など)は器質的腎疾患に含めない
G. 評価開始時は上記基準を満たさないが、血圧管理、糖尿病管理、BMI 是正などにより上記基準に達すれば生体腎移植ドナー候補者とすることができる
H. この Marginal donor 基準を逸脱する生体腎移植ドナー候補者から強い腎提供希望があったとしても、腎提供後にドナーに不利益な腎障害などの出現する可能性がきわめて高いことを十分に説明し、腎移植が行われないように努力する必要がある。
※出典元:生体腎移植のドナーガイドライン
腎移植ではまずドナー(提供者)から腎臓を摘出します。腎臓摘出手術には直視下・鏡視下の2種類があります。どちらも通常は3時間ほどの手術時間を要し、ほとんどの方で輸血は必要としません。
直視下腎臓摘出手術では、腎臓のある背中側からへそ下付近までを切開し、腎臓を摘出します。直視下腎臓摘出手術のメリットは、鏡視下手術では困難な癒着が強い方などにも対応できる一方で、デメリットは、手術の傷が大きいことです。
鏡視下腎臓摘出手術には、背中側からとお腹側からの2種類のアプローチがあります。基本的にはどちらもそれぞれ小さく切開して、内視鏡と手術器具を挿入して腎臓を摘出します。鏡視下腎臓摘出手術は下着で隠れる部分を切開するため、患者さんの心理的負担を大幅に軽減できることが最大のメリットです。
おへそ付近の創から手を入れて行う鏡視下手術のメリットは、手術中に万が一出血が起きたときにも即座に止血の対応ができることです。また、おへそ周辺の傷は時間経過とともに半分ほどの大きさに縮む傾向にあり、目立ちにくくなる方が多いです。
腎臓は左右対称に2つありますが、ドナー(提供者)の腎臓摘出手術では基本的に左腎を摘出します。なぜなら下図のように、左腎から下大静脈へつながる腎静脈が、右腎に比べて長く、血管吻合をする際に手術がしやすいためです。
しかし右腎の動脈に狭窄がある・左腎よりも右腎が明らかに小さい、といった場合には右腎を摘出することもあります。
腎移植の原則は、ドナーを第一に考えることです。片方の腎臓を移植のために摘出したドナーが将来的に腎不全に陥るようなケースは、回避しなければなりません。
ドナー(提供者)から摘出した腎臓を、レシピエント(腎臓を移植される患者さん)に移植することを、腎移植手術といいます。手術時間は通常およそ3〜4時間を要します。
腎移植手術では多くの場合、お腹の右下を15〜20cmほど切開し、本来腎臓のある部分ではなく、骨盤内(腸骨窩:ちょうこつか)に移植します。移植後に腹腔内で起こりうる合併症を予防するため、腹膜の外(後腹膜)にスペースをつくり、そこに腎臓をおさめます。
腎臓には、腎動脈・腎静脈・尿管という3本の管がつながっており、当院の腎移植手術では通常それぞれ腎動脈を外腸骨動脈に、腎静脈を外腸骨静脈に、尿管を膀胱につなぎます。
腎動脈に関しては、以前は主に内腸骨動脈に吻合していましたが、近年では外腸骨動脈に吻合する方法が主流になっています。なぜなら内腸骨動脈は骨盤内の臓器(膀胱・直腸・子宮など)につながり、血流が減少することで、人によっては移植後に何かしらの支障が出るリスクがあるからです。
移植手術、というと一般的に高額なイメージを持たれている方も多くいらっしゃいます。確かに腎移植を自費で受けると、術前検査・手術・退院までに通常400〜500万円ほどかかりますが、医療保険、障害者等医療費助成、更生医療(障害を除去・軽減するための医療支援制度)の適用などによって、実質負担額は数万円ほどになる可能性があります。
記事3『腎移植のドナーとレシピエント—それぞれのリスクや予後とは?』では、腎移植のドナー(臓器提供者)とレシピエント(臓器を提供される患者さん)のリスクと予後についてご説明します。
昭和大学医学部 外科学講座 消化器・一般外科部門 講師、昭和大学病院 腎移植センター 講師
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