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インタビュー

人工血管内シャントと人工血管移植術――透析患者さんの命綱をつくる手術

人工血管内シャントと人工血管移植術――透析患者さんの命綱をつくる手術
加藤 容二郎 先生

昭和大学医学部 外科学講座 消化器・一般外科部門 講師、昭和大学病院 腎移植センター 講師

加藤 容二郎 先生

腎不全の患者さんが血液透析を受けるにあたっては、血液を大量に出し入れするため、血液透析用の血管を作るか、もしくは血液透析専用のカテーテル(管)を留置する必要があります。これらをバスキュラーアクセスといい、血液透析患者さんになくてはならないものであることから、「透析患者さんの命綱(ライフライン)」とも呼ばれています。

バスキュラーアクセスには複数の種類があり、ほとんどの患者さんは自分の血管で内シャントを作製していますが、近年では人工血管を用いた内シャントの割合が増えてきています。

人工血管内シャントの造設には、人工血管移植術という手術が必要になります。では、人工血管移植術はどのような患者さんに適応となり、どのようにおこなわれるのでしょうか。人工血管移植術について、昭和大学病院 腎移植センター 講師の加藤 容二郎先生にお話しいただきます。

血液透析(血液を体外に取り出し、体内の老廃物を浄化する治療法)をするためには1分間に100-250mlほどの大量の血液が必要です。しかし、腕の静脈からはそれほど大量の血液を持続的に取り出すことが難しいため、専用のバスキュラーアクセスを透析治療の開始前に作る必要があります。

長期間使用できるバスキュラーアクセスには、主に自己血管内シャント・人工血管内シャント・動脈表在化・そしてバスキュラーカテーテルの4種類があります。

※シャント…短絡路の意。

人工血管シャフトの割合
出典:日本透析医学会わが国の慢性透析療法の現況 2008年12月31日現在
http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2009/p050.pdf

上図のように本邦における透析患者さんのうち約90%が自己血管内シャントを作製しており、人工血管内シャントが7%、動脈表在化は1.8%で、ほとんどの方は自己血管内シャントを用いています。しかし、適切な表在する静脈がないなどの理由で自己血管内シャントが作れない場合、人工血管内シャントが導入されます。人工血管内シャントの割合は、1998年時点では4.8%でしたが、近年では透析歴の長期化の影響もあり、人工血管内シャントを作る患者さんが少しずつ増加しています。

表在する静脈が細かったり閉塞していたりして、自分の血管で内シャントを作成するのに適切な静脈が表在にない場合、人工血管内シャントの作製が検討されます。

たとえば病院で採血がうまくできなかったり、点滴が刺しにくいといわれたりしたことがある方は、自己血管での内シャント造設が難しい可能性があります。

ただし、人工血管内シャントはすべての方に適応となる方法ではなく、下記の条件を満たしている必要があります。

  • 心臓の機能が良好な方(心機能が悪い場合、大量の血液が流れると心不全をきたす可能性があるため)
  • 膿瘍や発熱を伴うような細菌感染をきたしていない方

心機能の悪い方は、動脈表在化(上腕動脈を皮膚のすぐ裏まで持ってくる方法)によるバスキュラーアクセスの適応となります。動脈表在化により動脈への穿刺や透析後の止血がしやすくなり、誤って神経を損傷する可能性も少なくなります。

人工血管移植術は、人工血管内シャント作製のための手術です。一般的には、上図のように人工血管で動脈と静脈をつなぐことが多いです。最初に人工血管を移植する位置に関しては、前腕が望ましいとされています。しかし、何かしらの理由で人工血管移植に適さない場合は、肘より肩側の部分、すなわち上腕で人工血管内シャントを作製することもあります。

人工血管内シャフト

血液透析の際はこの人工血管に穿刺を行います。

人工血管を穿刺する際、同じ部位ばかり刺しているとその部分が損傷し、仮性瘤ができたりすることがあります。人工血管の損傷を予防するために、毎回穿刺する位置を変更することが勧められています。

損傷を起こした人工血管のイメージ

上肢で作成した人工血管内シャントが何かしらの理由で閉塞し、治療で改善できない場合、前回作製した箇所よりも少し中枢側(肩側の)部分で再び人工血管移植術を行うことがあります。

これを繰り返し、人工血管と吻合できる静脈が両腕でなくなってしまった場合、腋下静脈や鎖骨下静脈、大腿動静脈に人工血管移植術を行う場合もあります。

時間が経つと、人工血管と吻合した静脈が狭窄し、人工血管が閉塞することがあります。人工血管内シャントの一次開存率(何も処置せずシャントが流れている割合)は術後1年で60%という報告があり、経皮的血管形成術(PTA:詳細は記事2『狭窄した内シャントや人工血管を拡張させる「経皮的血管形成術(PTA)」とは?』をご参照ください)などの処置を加えることで二次開存率(何かしらの手術や処置を行いつつシャントが流れている割合)が術後1年で80%、3年で60%、5年で40%まで改善するという報告もあります2011年版 社団法人 日本透析医学会「慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン」より)

現在日本で用いられている人工血管の素材はいくつかありますが、主に2種類あり、それぞれ特徴が異なります。

e-PTFEの最大の特徴は、人工血管が周囲組織と癒着することです。軽度の人工血管感染の場合、感染が局所に抑えられ、部分的な修復手術と抗菌薬投与で治療できることがあります。ただ、周囲組織と癒着するのには時間が必要で、初回穿刺を行うまで手術後約2週間待つことが多いです。その短所を補うため、近年、ePTFEの人工血管壁にシリコーン層を加え、術後24時間以内に穿刺可能なグラフトも発売されました。

ポリウレタンの人工血管の場合、従来のe-PTFEグラフトと比べ術後早期に穿刺可能で、さらに血清腫(人工血管から漏れ出た血漿がたまってできるこぶ)ができにくいことが特徴として挙げられます。一方で、ポリウレタンは周囲組織と癒着しないため、人工血管が感染した際には、感染が人工血管移植部全体に容易に広がり、人工血管の全抜去が必要になることがあります。

人工血管内シャントは自己血管内シャントに比べて感染が起こりやすいので、穿刺前にはよく消毒し、滅菌手袋を使用して穿刺するなど、感染対策が非常に重要になります。

人工血管の周囲をひっかいたり傷つけたりしないよう注意が必要です。

人工血管周囲に発赤や痛みが現れてきた場合、人工血管感染を起こしている可能性があるため、放置せず、早急に手術をしてくれた医療機関を受診してください。放置すると、38度以上の発熱をきたし、敗血症になり、致死的になることがあります。

人工血管が感染すると、入院の上、手術で一度人工血管をすべて取り除き、数週間かけて全身状態が落ち着いてから再度人工血管の移植手術をするような長期間の入院が必要になることがあります。

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