経皮的血管形成術(PTA)とは、血液透析の患者さんに設置された内シャントや人工血管に、狭窄が起こった際に行われる治療法です。狭窄した部分までバルーン(風船)を挿入し、それを拡張させることで狭窄を改善させます。この狭窄は、自己血管内シャントを作成した方だけでなく、人工血管内シャントを作製している透析患者さんにも起こり、必要に応じ最も適切な方法でこの治療は行われています。記事1『人工血管内シャントと人工血管移植術――透析患者さんの命綱をつくる手術』に引き続き、昭和大学病院 腎移植センター 講師の加藤 容二郎先生に、経皮的血管形成術(PTA)についてお話しいただきました。
透析患者さんにとって、自己血管内シャントや人工血管などによるバスキュラーアクセス(詳細は記事1)は命綱であり、閉塞や狭窄により使用できなくなると命にかかわります。
内シャントや人工血管が狭窄してうまく血液が流れなくなってしまった場合、放置すると閉塞してしまうため、皮膚の外から血管に風船(バルーン)を挿入し、内側から拡張させる治療が行われることがあります。この治療を経皮的血管形成術(PTA)といいます。閉塞や狭窄は自己血管内シャント・人工血管内シャントにかかわらず起こりうる問題ですが、人工血管移植術後の患者さんの場合、人工血管―静脈吻合部付近に狭窄病変ができることが多く、経皮的血管形成術(PTA)を受ける頻度が高いといわれています。
そのため本記事では、主に人工血管内シャントの狭窄・閉塞に対する経皮的血管形成術(PTA)についてご説明します。
狭窄率が50%以上であることに加えて、1分間あたりの脱血が180ml以下の状態が続く、50mmHg以上の静脈圧の上昇があるなどの場合は、経皮的血管形成術(PTA)を検討します。
私の場合は、画像所見で血管径が2mm以下まで狭窄した際に、PTAを行う目安のひとつとしています。(通常上肢でのシャント静脈径は4mm前後以上)
経皮的血管形成術(PTA)をする際、バルーンを確実に狭窄部に挿入するためガイドワイヤーを先に通す必要がありますが、血管の狭窄病変によってはこのガイドワイヤーがうまく通らないことがあります。ガイドワイヤーが通らないとバルーンで拡張できません。また、経皮的血管形成術(PTA)を行っても短期間で狭窄してしまう場合、経皮的血管形成術(PTA)を行わず、内シャントを作り直すことがあります。
経皮的血管形成術(PTA)はカテーテルで行われるため、全身麻酔も大きな皮膚切開も不要で、侵襲が低い(患者さんの身体的負担が少ない)ことが最大の特徴です。
また、ガイドワイヤーが通れば施行可能な治療であるため、比較的実施しやすい手技であるともいえます。
昭和大学病院 腎移植センターでは、内シャントの狭窄に対して、通常の経皮的血管形成術(PTA)または超音波ガイド下経皮的血管形成術(超音波ガイド下PTA)の2種類を患者さんに応じて使い分けています。
基本的には造影剤を用いた場合、胸部の血管病変まで確認することができるので、経皮的血管形成術(PTA)を第一選択としています。では、どのような方に超音波ガイド下経皮的血管形成術(PTA)を行っているのでしょうか。
超音波ガイド下経皮的血管形成術は、主に造影剤にアレルギーのある方、エコーで描出困難な中枢側に狭窄病異変の無いことを確認された方を対象としています。
また、超音波ガイド下経皮的血管形成術(PTA)の場合、カテーテルを挿入してバルーン拡張修了後、リアルタイムで血管破裂の有無を確認することができるため、合併症が起こったとき速やかに対処ができるというメリットもあります。
超音波ガイド下経皮的血管形成術(PTA)のデメリットとして、透視下血管造影に比べ同時に映し出せる範囲が狭いことや、病変を見やすく描出する操作に熟練を要することが挙げられます。
局所麻酔後、血管造影を行い狭窄した部位を確認します。狭窄部位を確認できたら、血管内にシース(外筒)を留置し、ガイドワイヤーを進め、狭窄病変を通過させます。次いでガイドワイヤーに沿わせるような形でバルーンカテーテルを進め、狭窄病変をバルーンで拡張させます。このとき患者さんが痛みを感じることがあるので、適宜局所麻酔を追加します。
バルーンでしっかりと血管を拡張したら、カテーテルを抜き、血管造影で血管の拡張、血管破裂の無いことを確認します。問題がなければガイドワイヤー、シースを抜去し、止血操作の後、手術終了となります。
一概に述べることはできませんが、早い場合は止血時間を除いて10~15分程度、長い場合でも30分程度で完了することが多いです。比較的短時間で終了する処置のため、日帰り手術で行ったり、一泊入院で行ったりすることもあります。
術前の血管の状態が非常に悪く、血管にガイドワイヤーがようやく通るくらいの病変の場合、経皮的血管形成術(PTA)中に血管が閉塞することがあります。
何かしらの理由で患者さんの血管が脆くなっている、もしくは狭窄病変が固くなっている場合、バルーンを膨らませた際に血管が損傷し破れてしまうことがあります。
血管閉塞や血管損傷・破裂が起こった場合は、血栓除去術、ステント留置、止血術などの緊急手術が必要になることがあります。
その他にも、稀ですが、動脈穿刺部位、シース留置部位の術後出血や血腫、疼痛、神経障害といった合併症が起こる可能性もあり、場合によっては手術が必要になることもあります。
経皮的血管形成術(PTA)は狭窄病変そのものを取り除く治療ではないため、時間の経過とともに再び血管が狭窄してくることがあります。しかし再狭窄するまでの期間には個人差があり、経皮的血管形成術(PTA)をした後、しばらく狭窄しない方もいれば、比較的早期に狭窄してしまう方もいます。この狭窄するまでの期間に個人差がでる原因はまだよくわかっておらず、一概に狭窄するペースを述べることは困難です。
血栓ができやすい方に対しては、抗凝固剤や抗血小板薬を使用し、血栓の形成を予防することがあります。生活習慣によっては動脈硬化が進み、血管内腔が徐々に狭くなることもあるため、主治医に食事療法や運動療法、薬物療法の必要性につき適宜ご相談ください。
人工血管や内シャントが閉塞した際には、病院へ連絡の上、直ちに病院へきてください。時間が経ってしまうと血栓が除去できず、シャントそのものを別の場所で作り直す手術が必要になることがあります。
自分自身の命を守るためにも、日々ご自身で、聴診器を用いるなどし、人工血管や内シャントの状態を確認することをお勧めします。
昭和大学医学部 外科学講座 消化器・一般外科部門 講師、昭和大学病院 腎移植センター 講師
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