透析治療には血液透析と腹膜透析(ふくまくとうせき)の2種類あることはご存知ですか? 腹膜透析は、自宅で行うことができ、日常生活やお体への支障が少ない透析治療です。その腹膜透析について、以下に詳しくご説明します。
腎臓には、体内の不要な老廃物や余分な塩分・水分を尿として体の外に捨てる働き、ミネラルバランスの調整・pH(体の中の酸性・アルカリ性のバランス)の調整・血圧の調整をする働き、血液をつくるホルモン・骨に関わるホルモンを作る働きがあり、体全体のバランスを整えています。しかし、病気により腎臓の機能が落ちると、老廃物や水分がたまったり全身のバランスをとることが難しくなります。(腎不全(じんふぜん)といいます。)
そしてこの腎不全が進行すると、腎臓の機能を補う治療である腎代替療法(じんだいたいりょうほう)が必要になります。腎代替療法の一つが「透析治療」であり、これは“腎臓の代わりに体内の不要な老廃物や余分な水分を体の外に捨てる”という治療です。治療ではあるのですが、一方で透析というものは、これまでと同じ生活を続けていただくために、食事でとった老廃物をトイレに毎日行って捨てるのと同様に、生活の一部として行っていただくものになります。よって、患者さん・ご家族にもその内容をしっかり理解していただく必要があります。
透析治療には、腹膜透析と血液透析の2種類があります。今回は、腹膜透析についてご説明します。
参考記事:血液透析とは?―そのしくみ、合併症、生活上の注意について
腹膜透析は、自分の「腹膜」(ふくまく:お腹の中の内臓を覆っている薄い膜)を使って、体内の不要な老廃物や余分な水分を排出し、血液をきれいにする治療法です。自宅で行える透析治療で、通院は月に1〜2回程度で済みます。
腹膜には毛細血管(もうさいけっかん:小さい血管のこと)が張り巡らされており、腹膜透析ではこの毛細血管を利用します。
具体的には、お腹の中に透析液をいれることで、体内の老廃物や水分が毛細血管から透析液へ移動します。そして、この透析液を身体の外に取り出すことで、血液がきれいになるのです。
腹膜透析にはCAPD(ツインバック)とAPDの2種類があります。
腹膜透析では、体内の老廃物や水分がたまった透析液を取り出して、新しい透析液と交換するという作業が必要になるのですが、この2種類にはそれぞれ以下のような特徴があります。
患者さんの生活スタイルに合わせ生活の中に組み込める、アレンジが効く、透析液・排液バッグ・接続用機器(使う方のみ)があればどこでもできる、重力の差を用いた自然な注排液ができる、などのメリットがあります。
ただし、回数が増えた場合は日中に時間がとられることになります。そのような場合は、APDという方法を用いることができます。
基本的には夜寝る時間などを利用するため、日中を自由に使えるなどのメリットがあります。また、夜間のトイレなどで起きた場合は一度切り離しをすることが可能です。
CAPDとAPDの治療成績の違いとして明確なものは出ていません。生活スタイルや腎臓の機能(残腎機能:ざんじんきのう といいます)、カテーテルや注排液の状態、など患者さんに合った方法を医師と相談して決めましょう。
まず腹膜透析を始める時に、透析液を出し入れするためのチューブ(カテーテルといいます)をお腹に埋め込む手術を行います。手術時間は1時間程度で、患者さんには“盲腸の手術+α程度の手術”と説明することが多いです。局所麻酔で行うこともありますが、カテーテルをしっかりとした位置におくために腰椎麻酔や全身麻酔を用いることが多いです。
※1:局所麻酔(きょくしょますい):麻酔をかけたいところに直接麻酔薬を注射することで、部分的に麻酔をかける方法。
※2:腰椎麻酔(ようついますい):腰に針をさし、背骨の中に麻酔薬を注射することで、みぞおちから足あたりに麻酔をかける方法。
※3:全身麻酔(ぜんしんますい):麻酔薬により意識をなくし、痛みを感じないようにする方法。
入院期間は、数日から数週間です。(医療期間での教育プログラムによっても異なります。)ただし、血液をさらさらにする薬を飲んでいる方は、手術の1週間ほど前から入院して(薬によって異なります)薬を変更することになるので、少し入院期間が長くなります。
上で述べたように、CAPDの場合は、透析液を取り出して新しい透析液を注入するという作業(バック交換といいます)をご自身で行って頂く必要があります。ただし、このバック交換は決して難しい作業ではなく、医療従事者の指導を受ければ、どなたでもできるようになります。また、高齢者、身体が不自由な方、視力障害者の場合はサポートを受けることができますので、ご安心下さい。
上で述べたように、腹膜透析は自宅で行える透析治療で、通院は月に1~2回で済みます。そのため、バック交換の時以外は日常生活を問題なく送ることができ、学校、仕事、旅行なども可能です。
透析治療は特定疾病療養費(とくていしっぺいりょうようひ)という制度の対象となっており、手続きを行えば医療費の自己負担が月1〜2万円となり、腹膜透析で使用する機器のほとんどがその中に含まれます。その他にも様々な助成がありますので、医療従事者に相談してみましょう。
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医療法人社団善仁会 中田駅前泉クリニック 院長、医療法人社団ときわ 理事、横浜市立大学腎臓高血圧内科 客員研究員
日本内科学会 総合内科専門医・内科指導医日本透析医学会 透析専門医・透析指導医日本腎臓学会 腎臓専門医・腎臓指導医日本高血圧学会 会員
全人的総合的腎不全医療(Total Renal Care:TRC)を推進・普及させるためにアウトリーチ活動を行っている。一人ひとりの腎不全患者が自己管理や行動変容を実現するための教育というミクロなアプローチから、腎不全患者自身がさまざまな治療の選択肢を持てるようにするための社会システム全体の構築というマクロなアプローチも積極的に行っている。
上條 由佳 先生の所属医療機関
石橋 由孝 先生の所属医療機関
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