概要
先天性QT延長症候群とは、遺伝子異常により生まれつき心臓の電気活動に異常がある状態です。発症率は報告によっても異なりますが、2,000~5,000人に1人とされています。自覚症状がない一方、突然死につながりうる重篤な不整脈をきたすこともあります。
これまで数多くの遺伝子異常が同定されており、どの遺伝子異常に関連したものかによって突然死のリスクも異なることがわかってきました。
原因
心臓は血液を全身に送り出すため、一定のリズムで電気信号を発して収縮・拡張を繰り返しています。心臓が発している電気活動は心電図で確認でき、それぞれPからUまでのアルファベットで名前が付けられています。
先天性QT延長症候群のTとは、心電図検査で同定可能な電気活動の波の名称で、このQとTの間隔が通常より長く、心筋細胞の電気的な回復に時間がかかる状態をQT延長症候群と呼びます。
QT延長症候群は、遺伝子異常などによる先天性(生まれつき)のものと、薬剤(抗生物質、高脂血症薬など)や、電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症など)などによる後天性のものがあります。
このうち先天性QT延長症候群には、明らかな遺伝子異常を認めるものと、遺伝関係が確実に同定できない原因不明の特発性QT延長症候群があります。
遺伝性のもののうちRomano-Ward症候群は、常染色体優性遺伝で約1万人に1人程度、Jervell and Lange-Nielsen症候群は、常染色体劣性遺伝で約100万人に1人程度の発症率です。常染色体優性遺伝という遺伝形式では、両親いずれかが因子を持つ場合、理論的には50%の確率で子供にも遺伝します。
先天性QT延長症候群の原因として同定される遺伝子異常は、心臓の電気活動に関与するものです。2017年時点では少なくとも15個の遺伝子が同定されています。なかでも、KCNQ1、KCNH2、SCN5Aの三つの遺伝子異常が、もっとも発症頻度が高いとされています。
症状
不整脈による失神や、重篤な場合は突然死にいたることもあります。しかし、先天性QT延長症候群の全例で不整脈を起こすわけではありません。
先天性QT延長症候群は、原因遺伝子によってタイプが分類されています。1型は運動中、2型では交感神経の興奮(目覚まし時計で突然起きたときなど)、3型では交感神経が落ち着いている状況と、発作(不整脈)が生じやすい状況に違いがあります。
また、Jervell and Lange-Nielsen症候群では、こうした症状のほか、先天的な聴力障害を伴っていることも特徴です。
検査・診断
健診などの心電図検査で、QT時間の延長を指摘されるケースが多く見られます。後天的にQT延長を来す薬剤や電解質の異常の有無も確認したうえで、失神発作の既往や家族歴、心電図のT波の波形など総合的に判断します。
先天性QT延長症候群の可能性が高い場合には、運動負荷を始めとした負荷心電図や、24時間心電図の記録ができるホルター心電図、遺伝子異常の有無を確認するための遺伝子検査などを行います。
治療
先天性QT延長症候群では、リスクに応じて治療方針を決定します。延長が軽度で家族歴などからリスクが低いと判断できる場合には、年に1回程度の心電図検査で経過観察をします。中等度以上に延長していたり、失神の既往があったりする場合には、β遮断薬、ナトリウムチャネル遮断薬、カルシウム拮抗薬などを使用します。
3型のQT延長症候群では、安静にしていて脈が遅くなったときに発作が生じやすくなるため、ペースメーカーを使用することもあります。また、いずれのタイプにおいても突然死のリスクを伴うため、植込み型除細動器を使用します。
生活指導も行われます。1型では、運動による発作リスクが高まるため運動制限を、2型では、急激な緊張を起こさないよう目覚まし時計を避けるなどの指導をします。女性の場合出産前後の発作管理などが必要になります。
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