どうぶつこうしょう

動物咬傷

目次

項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

概要

動物咬傷(どうぶつこうしょう)は、動物(哺乳類)に咬まれることでできる外傷です。咬み付かれたあとは、動物がもつ病原体(細菌やウイルス)によって感染症を発症することがあります。また毒を持つ動物に咬み付かれたときには、毒による症状があらわれる場合があります。

動物咬傷のなかでもよく知られるのは、イヌやネコなどの動物に咬まれることで発症する「狂犬病」「パスツレラ症」「カプノサイトファーガ・カニモルサス感染症」や、ネズミに咬まれることで発症する「鼠咬症スピロヘータ感染症」「モニリホルム連鎖桿菌感染症」などです。

また、ネコに引っかかれたり、咬まれたりすることで発症する「猫ひっかき病」というものもあります。病名から引っかかれた場合のみ発症するものと想像される方も多いと考えられますが、引っかかれただけでなく、咬まれた場合にも発症する可能性があるため、注意が必要です。

そのほか、ヒトによる咬傷も報告されることがあります。たとえば相手を殴った際に、拳が相手の歯にあたって受傷する場合などがあります。
 

原因

ペット、野生動物、家畜、動物園などにいる展示動物などと接するときに起こります。イヌ、ネコ、ネズミ、コウモリなど、そしてヒトを含めたさまざまな動物との接触がきっかけになります。

咬まれたあとに感染症をおこした例としては、次のような報告がされています。

  • 海外で犬に咬まれて感染した人が、日本に帰国して発症する(日本)
  • 吸血コウモリに咬まれ狂犬病を発症する(中南米)
  • アジア産サルに咬まれBウイルス病を発症する(北アメリカ)
  • アライグマやスカンクに咬まれて狂犬病を発症する(北アメリカ) など

すべての動物が感染症を引きおこすウイルス・細菌をもっているわけではありません。また咬まれる深さによっても感染症を発症するかどうかは変わってきます。さらにペットなどは予防接種を受けた動物が多いことから、咬まれた場合でも感染リスクは低くなります。

また、動物咬傷による感染症の起こりやすさは、国や地域によって大きく変わります。

たとえば日本は、以前まで多くの犬が狂犬病と診断され、咬まれた人の感染例・死亡例が報告されていました。しかし1950年に狂犬病予防法が制定され、犬の登録、予防注射、野犬の抑留が徹底されたことで、狂犬病は撲滅されました。一方で、日本の周辺国を含む多くの国で依然として狂犬病が発生しています。このように国や地域によって、動物咬傷による感染症がおきやすいかどうかは変わってきます。
 

検査・診断

どのような症状があらわれるかは、動物がもつ病原体や毒の種類によってさまざまです。

たとえば、狂犬病ウイルスをもつイヌなどの動物に咬まれて「狂犬病」を発症すると、このような症状があらわれます。

  • 発熱
  • 食欲不振
  • 咬まれた部分の痛みやかゆみ
  • 神経症状(不安感、恐水・恐風症状※、麻痺、幻覚、精神錯乱など)
  • 昏睡
  • 呼吸障害 など

狂犬病は命に影響をおよぼす疾患です。発症してしまうとほぼ100%死亡すると考えられています。通常は1~3カ月の潜伏期間があります。初期症状は発熱といった風邪に似た症状があらわれ、咬まれた部分に痛みやかゆみなどがあります。その後さまざまな神経症状があらわれ、その数日後に呼吸麻痺で死に至るケースが多いといえます。

恐水・恐風症状:水や風、そのほか音などの刺激が加わるとけいれんがおきるという狂犬病に特徴的な症状

また、パスツレラ菌をもつイヌやネコなどに咬まれて「パスツレラ症」を発症すると、このような症状があらわれます。

  • 赤い腫れ
  • 痛み
  • 発熱
  • 咬まれた部分に近いリンパ節の腫れ
  • 咬まれた部分に近い関節の炎症(関節炎)
  • 咬まれた部分に近い骨の炎症(骨髄炎)
  • 重症例では敗血症や骨髄炎 など

早ければ数時間で咬まれた部位が腫れたり、痛んだりします。免疫機能が低下している方では敗血症や骨髄炎を起こすリスクもあります。

動物に咬まれた患者さんが医療機関を受診されたら、まずは問診によって事故の状況を明らかにします。また咬まれた部分や、炎症がおきている部分の身体所見を確認します。

さらに確定診断には病原体を明らかにする検査をおこないます。

  • 唾液などの検査  
  • 血液の検査    
  • 皮膚・角膜などからの検査 
  • 脳脊髄液の検査 など

こうした検査をおこなうことで、病原体を明らかにすることができます。

治療

動物に咬まれたら、まずはすぐに傷口を洗いましょう。石鹸と綺麗な水でよく洗うことが大切です。

その後の治療は、咬まれた状況やその後の症状によってさまざまです。海外でイヌなどに咬まれた場合は狂犬病の感染が疑われます。傷口を洗った後、速やかに医療機関に向かうことが望ましいです。医療機関では傷の処置と治療、狂犬病ワクチンの接種などをおこないます。狂犬病は命に影響をおよぼす疾患なので、狂犬病の流行する国へ向かう前には、事前のワクチン接種が奨められます。

一方、一般の家庭で飼われているイヌやネコなどのペットに咬まれることで感染することは少ないです。しかしまれに病原体を持っていることがあるので注意が必要です。

イヌやネコに咬まれた患者さんが医療機関を受診する場合には、感染症を予防するために幅広い菌種に網羅的に効果がある抗菌剤を投与することがあります。また一般的に、ネコは歯が尖っているため、イヌによる咬傷よりも傷が深くなりやすいです。傷が深いと考えられる場合には抗生剤を予防的に投与することが考慮されます。
感染症が重症化して敗血症が起こる場合には、血症交換療法などのさまざまな対症療法がおこなわれます。また、咬まれた部分に壊死や筋膜症がおきている場合には手術がおこなわれます。

動物による咬傷の場合には「破傷風(はしょうふう)」の予防を考えることも重要です。破傷風とは、傷口から入り込んだ「破傷風菌」という細菌の毒素によっておこる感染症のことです。発症するとさまざまな神経障害を起こし、重症例では呼吸ができなくなり命に危険を及ぼす可能性があります。予防の処置としては、患者さんのこれまでの予防接種歴を確認のうえ、破傷風の予防のためのワクチン(沈降破傷風トキソイド)の接種が行われます。

動物に咬まれたとき、一般の人よりも免疫無防備状態と考えられる方(高齢者、慢性疾患を抱える方など)では、より積極的に医療機関を受診することが大切です。咬まれたときの状況を伝え、医師の判断を仰ぐことが重要といえます。