「子どもに怪我はつきもの」ともいわれますが、子どもが実際に怪我をした場合はどのように対処すればよいのでしょうか。子どもの傷の最初の応急処置について、東京都立小児総合医療センター 救命集中治療部救命救急科の萩原佑亮先生にお伺いしました。
まず、傷が治るメカニズムについてご説明します。
体に傷ができてしばらく経つと、傷からさらさらした液体(滲出液)が染み出てきます。この中には「細胞成長因子」という傷を治す成分が含まれています。つまり傷は、自分の治癒能力で治癒するのです。
傷を早く治すためには、滲出液で傷が保湿されている状態を保つと効果的です。このように滲出液を傷口に留めて治療する方法は「湿潤療法(しつじゅんりょうほう)」と呼ばれます。最近は湿潤療法をご存じの親御さんも多くいらっしゃいます。
傷が乾燥しないためには、市販の湿潤環境を保つ絆創膏(傷用バッド)や、ラップ材による皮膚の被覆がよいと考えられています。ただし、ラップは医療品ではないため、あくまで応急処置と考えましょう。
市販の傷用バッドは使用してよいと考えますが、商品の種類によっては粘着力が強く、傷口からはがれにくいものもあります。また、傷用バッドを長期間貼付し続けていると、絆創膏のなかで感染を起こしてしまう可能性もあります。
最初のうちは傷口からの滲出液が多いため、1日1回程度の交換が必要かもしれませんが、時間が経つと浸出液の量も減少します。しかし、可能であれば3日に1回は絆創膏を剥がして傷口に感染が起きていないかを確認しましょう。
このペースはあくまでも私の経験上の目安です。日数に明確な指標があるわけではありません。(商品によっては5日から1週間貼付するように指示している絆創膏もあります)
以前から行われてきた一般的な処置の流れは以下のとおりでした。
・しみても我慢して消毒液を塗る
・傷薬を塗布する、絆創膏を貼る
・傷口をなるべく乾燥させる
しかし現在は、この処置を行うとかえって治癒までの期間が延びたり、傷跡が残りやすくなったりするといわれています。
東京都立小児総合医療センターでは、ほとんどの傷に対して消毒液は使用せず洗浄のみで十分と考えています(もちろん、傷の状況によっては消毒液を使用したほうが良い場合もあります)。傷口がしみることを我慢してまで消毒液を使用する必要はありません。まずはご家庭で、シャワーや流水で確実に汚れを流すことを心がけましょう。
親御さんのなかには、恐怖感から傷口をまったく触らない方もいます。しかし、何も処置せず放置してしまうと、傷口が乾燥してしまったり、傷口に付着した汚れから細菌感染を起こしてしまい、傷の治りを遅くしてしまったりすることがあります。
なるべく早く治すためにも怖がらずに傷口をみて、水で汚れを流しながら傷口が潤った環境を維持しましょう。
傷口の洗い方は、可能であれば優しく撫でるようにします。これで表面の汚れがたいぶ取れます。
個人差はありますが、子どもは傷口を触られると痛がったり拒否したりします。触ることが難しいならば、最初は最低限、傷口の表面を水で流すようにしましょう。怪我をしてから3~4日経過すると痛みも軽減するので、子どもが痛がらなくなったら表面を優しく撫でるようにして洗浄します。
「痛み」には2種類あります。怪我をして最初に感じる痛みと、時間が経ってから生じる痛みです。
後者は、ひりひりした痛みや、腫れによる痛みなど様々な痛みがあります。例えば、ひりひりした痛みは、傷口に空気が接触することで痛みを感じます。先述した湿潤療法で、この痛みはだいぶ改善されます。
腫れによる痛みに対しては、冷やすことが効果的です。ただし、ある程度の痛みは対処のしようがない面があります。「時間薬(じかんぐすり)」という言葉があるように、治療には時間の経過が一番大事です。私は「数日間は痛みを感じますが、必ず良くなるので心配しすぎないでください」と子どもや親御さんに伝えています。
ここまでご説明したことから、傷ができて最初に行う応急処置のみをまとめると以下のようになります。
上記の処置を行った後は、毎日あるいは数日に1回、同様の処置を繰り返します。この際、傷口が感染していないかどうかを観察しましょう。感染のサインとしては、傷の赤みや膿の出現などが特徴です。
自宅には包帯・滅菌ガーゼ・テープなどを常備しておくと便利でしょう。しかし実は、医療用の道具以外(タオルやラップ材)でも自宅で応急処置が可能です。臨機応変に対応しましょう。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
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