子どもが動物に噛まれたとき、動物の種類によって注意する点が異なります。また、動物の持つ細菌やウイルスから感染症を起こす可能性があります。東京都立小児総合医療センター救命集中治療部救命救急科の萩原佑亮先生にお話をお伺いしました。
口腔内には数多くの雑菌が存在します。そのため、動物に噛まれたとき最も問題になるのは細菌感染です。特に、猫に噛まれた場合は、非常に高確率で傷口が感染するといえます。犬に噛まれた場合は、野良犬でなければ感染の確率は猫ほど高くありません。また、子ども同士がけんか等をして、相手を噛んでしまうこともあり、この場合も感染に注意が必要です。
繰り返しになりますが、動物に噛まれた傷は細菌感染を起こす可能性が高いことを知っておくとよいでしょう。よほど傷口が浅い場合は問題ありませんが、動物の歯が皮膚を貫通した場合は、皮膚の中に雑菌が入ったと考えられます。病院を受診し、医師の指示に従いましょう。
また、動物に噛まれてもアナフィラキシー(重篤なアレルギー反応)になることがあります。噛まれた後、全身にじんましんが出たり、苦しそうに呼吸していたり、噛まれた箇所が大きく腫れてきた場合も同様に病院を受診してください。
子どもが動物に噛まれた場合は、まず噛まれたところを流水でしっかりと洗い流しましょう。記事1『子どもが怪我を負ったとき緊急処置が必要になるケースとは』で述べた傷の対処法と同じく水道水でかまいません。
応急処置として、傷口から毒を絞り出す方法もありますが、親御さんが自分の口を使い傷口から毒を吸い出すという処置は、絶対にしないでください。出血がある場合は、ガーゼやタオルなどで圧迫して止血します。腫れているときは、氷や濡れたガーゼなどで冷やすと痛みが和らぎます。
マムシなどの毒蛇に噛まれたときは、可能な限りすぐに病院の受診が必要であり、救急車を呼んでかまいません。病院での処置はヘビの種類によって変わる場合があり、蛇の写真や蛇を捕まえられれば有用な情報になります。しかし、蛇を追いかけて親御さんが噛まれると大変な事態を招くため、絶対に無理はしないでください。
動物に噛まれた場合に限らず、すべての怪我によって破傷風(はしょうふう)という感染症にかかる可能性があります。破傷風とは、破傷風菌が傷口から入って体の中で増殖し、筋肉をけいれんさせる毒素を大量に出すために起こる重症疾患です。通常であれば子どもは4種混合ワクチンを打ち、破傷風菌に対する免疫をつけています。しかしワクチンを接種してから長年経過していると、破傷風菌に対する免疫が低下していることがあるため、医師の判断によっては、破傷風菌ワクチンを追加で打つ場合があります。
狂犬病については、現在の日本では飼い犬のワクチン接種が義務化されており、それほど心配はいらないといわれています。しかし、最近は狂犬病ワクチンを接種していない飼い犬も増えているようであり、今後狂犬病にかかる患者さんが現れないか心配なところです。
また、海外では、野生のコウモリやアライグマなどに噛まれても狂犬病を発症することが知られています。原因になるのはイヌだけではありません。
よほど浅い傷であれば様子をみても問題ないかもしれません。例えば、ペットの猫にごく軽く表面をひっかかれたなどの浅い傷であれば、多くの場合重症にはならないでしょう。しかし、動物に噛まれた傷は感染する可能性が高いため、判断がつかず心配であれば一度医師に相談することをお勧めします。
前述のとおり動物に噛まれた傷は感染しやすいのですが、全ての方に抗菌薬が必要となるわけではありません。傷の状況によって医師が判断するため、医師の指示に従いましょう。
子どもに対して動物を飼ってはならない、触ってはならないというのは無理な注文でしょう。子どもにとって動物との触れ合いは大切な経験です。飼い犬や飼い猫に噛まれた子どもは、東京都立小児総合医療センターの救急外来にもたくさんいらっしゃいます。
むやみに警戒しすぎる必要はありませんが、日頃から大人が子どもの安全に注意してあげましょう。また、子どもには4種混合ワクチン(破傷風ワクチンを含んでいます)をしっかりと接種させ、犬を飼っていれば犬には狂犬病ワクチンを打ち、感染症の予防をしましょう。
「こどもの様子がおかしい」と思ったときは、日本小児科学会が運営する「こどもの救急(ONLINEQQ)」も参考にしてみてください。
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