概要
子宮復古不全とは、妊娠によって大きくなった子宮が出産を終えて元に戻る過程である“子宮復古”に異常が起き、通常の子宮収縮が認められない病態です。子宮内に胎盤の一部が残っている場合や、母体疲労によるものなど原因は多岐にわたります。
子宮は筋肉でできており、妊娠中は胎児や羊水によって大きく引き伸ばされた状態となっています。子宮の筋肉は出産を終えると収縮を繰り返して4~6週間ほどで元のサイズに戻り、出産時に大きなダメージを受ける子宮内膜(子宮の内部を覆う粘膜)も6~8週間で回復していくのが通常です。
このような子宮復古の過程には、子宮を妊娠前の状態に戻すはたらきもありますが、出産時に生じた子宮内の出血を止めるはたらきもあります。このため、子宮復古不全を起こすと出産後に生じる子宮からの出血が止まりにくく、血液が混ざった悪露(産後に子宮から排出される分泌物)が長く分泌され続けるといった症状が見られます。また重度の場合には大量出血を引き起こして命の危険に晒されることもあるため、産後に注意すべき病態のひとつとなっています。
原因
子宮復古不全の原因は大きく分けて次の二つのタイプがあります。
子宮自体の異常によるもの
子宮復古不全の原因としてもっとも多いのは、胎盤や卵膜などの胎児付属物の一部が子宮内に残っていることとされています。通常、分娩時は胎児が娩出されると胎盤や卵膜などが続いて娩出されますが、これがうまく排出されないと子宮の収縮が正常に生じないため子宮復古不全を引き起こします。
また、ほかにも子宮筋腫や子宮内の感染などは子宮の収縮力を弱める原因になるため、子宮復古不全を引き起こすことがあります。
子宮の収縮機能の異常によるもの
子宮は出産が終了すると、一時的に急激な収縮を生じて出血を止める仕組みを持っています。その後も収縮を繰り返して4~6週ほどかけて妊娠前のサイズに戻っていきますが、子宮が収縮する機能自体に異常が生じると子宮復古不全を引き起こすことがあります。
具体的な原因として、多胎妊娠や巨大児、羊水過多により子宮の筋肉が過剰に引き伸ばされたり、切迫早産治療のため長期間にわたり子宮収縮抑制剤を使用したりした場合などが挙げられます。また、微弱陣痛や母体疲労、産後の過度な安静が子宮収縮を妨げる原因になることも少なくありません。
さらに、産後は授乳することによって脳からオキシトシンと呼ばれるホルモンが分泌されるようになります。オキシトシンには子宮収縮を促す作用があるため、授乳せずにミルクで育児をする場合は、頻回に授乳を繰り返す場合よりも子宮復古不全が起こりやすいとされています。
症状
正常な子宮復古が生じると、子宮は分娩直後に急激な収縮を生じ、おへそと恥骨の中間あたりに硬い子宮底(子宮の先端)が触れるようになります。その後、いったん収縮が和らぐため子宮のサイズが大きくなりますが、産後2日目にはおへそよりやや下の位置に触れるようになり、徐々に小さくなっていきます。しかし、子宮復古不全を起こすと子宮のサイズの戻りが悪くなり、産後日数に対して柔らかく大きな子宮を触れるのが特徴的な症状となります。
また、子宮収縮が弱いことで子宮からの出血が止まりにくくなり、分娩直後から子宮収縮が極めて弱い場合は大量出血を引き起こすことも少なくありません。その場合は子宮内膜の回復も遅れるため、通常であれば産後3週間ほどで目立たなくなる悪露がいつまでもだらだら続くといった症状も現れます。
さらに、子宮内に悪露がたまると細菌感染を起こしやすくなり、子宮内膜炎などを合併することがあります。そして子宮内の炎症が子宮収縮を妨げ、さらに子宮復古不全が悪化するという悪循環に陥る場合もあります。
検査・診断
子宮の触診や出血などの症状から子宮復古不全が疑われる際には、経腟超音波で子宮の大きさ、子宮内部に胎盤や卵膜などの遺残がないか、血流があるかなどを確認する検査が行われます。また、子宮復古不全の診断自体は超音波検査で行うことが可能ですが、出血による貧血の有無や細菌感染の可能性を調べるため、一般的な血液検査も行われるのが一般的です。
悪露の停滞による子宮内の感染を合併した場合は、血液検査のほかにも子宮内にたまった悪露を採取して感染の原因菌を調べるための培養検査が行われます。
治療
子宮復古不全の治療の進め方は発症原因によって大きく異なります。
子宮内の胎盤や卵膜などの残存が原因の子宮復古不全に対しては、できるだけ早く子宮内に残ったものを取り除く処置が行われます。このような処置を行っても子宮収縮が十分でない場合や子宮収縮機能自体に異常が生じている場合は、麦角アルカロイド製剤、オキシトシンなどの子宮収縮剤の投与が行われます。また、そのほかにも子宮収縮を促すため適度に動くこと、授乳することなどがすすめられており、子宮を刺激して収縮を促す“子宮底マッサージ”を行う医療機関もあります。
一方、子宮内に何らかの感染が生じていることが疑われる場合は、原因菌に合わせた抗菌薬の投与が同時に行われます。
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