前のページでは、小児白血病の分類や症状、治療のポイントなどについて解説しました。白血病の治療の流れは、病気のタイプや年齢、リスク群などによって細かく分類されています。本記事では、急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病の治療法について、東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科 湯坐 有希先生にお話を伺いました。
急性リンパ性白血病の治療は、“寛解導入療法”“強化療法(地固め療法)”“維持療法”の3段階に大きく分かれます。
急性リンパ性白血病の標準的な寛解導入療法では、プレドニゾロンまたはデキサメタゾン、ビンクリスチン、L-アスパラギナーゼ、アントラサイクリンの4種類の薬剤を、約5週間かけて投与します。この方法で、体内で残存するがん細胞の量を一気に減らすことにより、寛解状態を目指します。
寛解導入療法によって症状が落ち着いた(寛解)場合でも、そのまま治療を終了すると再発する確率が高いことが知られています。このため、さらに白血球細胞を減少させるために強化療法を行います。強化療法では、寛解導入療法で用いた薬剤にほかの薬剤を組み合わせることが一般的です。それらに加えて、中枢神経系への転移を予防するメトトレキサートを投与する場合もあります。
寛解導入療法および強化療法によって白血球細胞が減少した場合でも、休眠状態で生き残った細胞が再び活性化して再発をきたすリスクはゼロではありません。今日までの白血病治療の歴史の中で、強化療法後の適切な治療に関する研究が重ねられてきました。その結果として2020年1月現在、急性リンパ性白血病は一定期間の維持療法を行うことが推奨されています。
維持療法では、メルカプトプリンおよびメトトレキサートの内服による治療を長期間にわたり行うことを基本にしています。また、リスク群によっては中枢神経への浸潤予防のため、メトトレキサートを含む薬剤の注射を行います。
寛解導入療法と強化療法は入院下で行い、合計8~12か月程度(うち寛解導入療法が5週間程度)の期間が必要です。入院期間が長いように感じられるかもしれませんが、容体が落ち着いていれば、休日および休暇期間に一時退院や外泊が可能です。また、維持療法は最低1年以上継続することが推奨されています。
1歳未満の乳児は、MLL遺伝子再構成という遺伝子変異をきたしているパターンが多く、このタイプは難治例の病型とされます。月齢6か月未満かつ、プレドニゾロンによる治療効果が期待できないまたは白血球数が基準値以上の場合、同種造血幹細胞移植を検討します。MLL遺伝子再構成が陰性の場合は、通常の小児急性リンパ性白血病の治療と同じ方法が適応されます。
急性骨髄性白血病の治療は、“寛解導入療法”“強化療法(地固め療法)”の2段階に大きく分かれます。
基本的な治療の目的は急性リンパ性白血病における治療と同じで、まずは寛解導入療法によって、がん細胞の数を一気に減少させることを狙います。急性骨髄性白血病の場合、基本的にはアントラサイクリンとシタラビンの組み合わせにエトポシドを併用する形で投与します。後述する強化療法でも使用する薬剤の組み合わせは変わりません。
急性骨髄性白血病でも、寛解導入療法によって得られた寛解状態を維持するため、複数回のコースに分けて強化療法を行います。シタラビンとアントラサイクリンを中心にした治療薬を一定間隔ごとに投与して、白血球細胞のさらなる減少を目指します。また、再発リスクの高い高リスク群の患者さんおよび一部の中間リスク群の患者さんには、造血幹細胞移植の適応を検討します。
急性前骨髄球性白血病(APL)は、急性骨髄性白血病の中でも特殊なタイプです。このタイプの白血病では、基本的な急性骨髄性白血病と治療法が異なります。最大の特徴は、トレチノイン(ATRA、ビタミンAの一種)という分化誘導剤を長期的に内服することです。このほかに、アントラサイクリンとシタラビンを併用した寛解導入療法および強化療法を行います。海外では2020年1月現在、トレチノインと亜ヒ酸(ATO、三酸化ヒ素)を基本として、従来の抗がん剤の使用量を抑えた治療が行われつつあります。
ダウン症の子どもは、白血病を発症するリスクが高いことが知られています。
ダウン症の急性骨髄性白血病は、そうでない方の急性骨髄性白血病とは異なる病型で治療反応性がよいといわれ、専用の治療プロトコルに基づいた治療を行います。さらにダウン症の子どもは薬物代謝性が悪く、標準治療と同じ治療を行うと副作用や合併症が強く現れる危険性が高いため、その意味でも一般的な小児急性骨髄性白血病に比べて弱めの治療が行われることが特徴です。
当院の場合、発熱や感染がなく、本人とご家族の希望があれば、白血球数にかかわらず帰宅が可能です。ただし、基本的に体の抵抗力が弱い状態ですので、あくまでご自宅で安静にしていただくことが条件です。人が多く集まる施設などへの外出は原則的に控えていただきます。
復籍のタイミングは、白血病のタイプによって異なります。
急性リンパ性白血病の場合は、寛解導入療法および強化療法が終了し、退院して維持療法に入った段階で復籍していただけます。一方で急性骨髄性白血病の場合は、維持療法を行わないため、基本的には退院する段階で復籍していただけます。
ご本人が帰宅する前日までに自宅を掃除していただき、お家の中を清潔に保ってください。特に意識的に掃除をしていただきたい場所は、カビや菌がたまりがちなエアコンです。
食事内容にも一定の制限があります。当院では、生もの(お寿司、お刺身、生肉、生卵など)はなるべく控えていただくようにお伝えしています。ただし、ご家族の誕生日やお祝い事でお寿司を食べる機会があるなど、特別な事情がある場合は許可をすることもあります。
また、ごきょうだいに風邪をひいている方や感染症にかかっている方がいる場合は、外泊はご遠慮いただきます。患者さん本人が感染症にかかるリスクがあることに加えて、患者さんが外泊から病棟に帰ってきた際に、その感染源を院内に持ち込むリスクがあるためです。
2020年1月現在、小児急性リンパ性白血病の5年生存率(5年間にわたり寛解状態が維持されている状態)は約80%、小児急性骨髄性白血病の5年生存率は約60%といわれています。
治療法の進歩に伴い、近年における白血病の生存率は向上してきているものの、まだ全ての患者さんとそのご家族に納得していただける数字ではないと感じています。
当院はこれからも治療法の研究や診療に取り組み、1人でも多くの小児白血病患者さんを救うために努力を続けていきます。
東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科 部長
東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科 部長
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児血液・がん学会 小児血液・がん専門医・小児血液・がん指導医日本がん治療認定医機構 がん治療認定医日本血液学会 血液専門医・血液指導医日本造血細胞移植学会 造血細胞移植認定医日本輸血・細胞治療学会 細胞治療認定管理師
山形大学を卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院を経て、2010年より小児がん拠点病院のひとつである東京都立小児総合医療センター血液・腫瘍科に入職。2020年現在、同科にて部長を務める。小児白血病治療のさらなる発展を目指し、JCCG(日本小児がん研究グループ)の次期APL臨床試験研究代表者として、現在特定臨床研究開始準備を進めている。
湯坐 有希 先生の所属医療機関
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