概要
小児急性白血病とは、小児期において血液に発生したがんのひとつです。小児期における悪性疾患としては最も頻度の高いものです。小児急性白血病は、遺伝子異常を原因に発生しますが、成人の白血病と比較すると特定できる遺伝子異常や薬物に対する感受性(薬物の効き目)、治療成績などが大きく異なります。
小児急性白血病は、さらに「急性リンパ性白血病」と「急性骨髄性白血病」とに分類されます。それぞれ小児白血病のなかで約70%(年間500例前後の発生例で3~5歳に多い)、約25%(年間180人前後)を占めています。
急性白血病はがんの一種ですが、化学療法や骨髄移植など、近年の治療方法の進歩により、長期生存が強く期待できるようになっています。一方、治療に関連した長期合併症に苦しむお子さんも少なからずいます。さらに、一言に「急性白血病」といっても異なった性格を有するさまざまな白血病が知られています。なかには集学的な治療を行っても根治が難しいこともあります。
長期治癒が期待できるタイプの白血病に対しては治療効果を担保しつついかに毒性を軽減するか、難しいタイプの白血病に対してはどうやって治療成績を向上させるか、といった課題への解が求められています。
原因
小児急性白血病は、「造血前駆細胞」と呼ばれる血液細胞から発生するがんを指します。造血前駆細胞は成長段階で、リンパ球、顆粒球、赤血球、血小板など、特徴的な役割を有するそれぞれの細胞へと変化を遂げます。
造血前駆細胞のなかでも、リンパ球の産生に関連した細胞が白血病化したものを「急性リンパ性白血病」と呼びます。一方、顆粒球の産生に関連した細胞が白血病化することもあり、「急性骨髄性白血病」として知られています。
造血前駆細胞由来の白血病細胞は、骨の中に存在する骨髄にて異常増殖をします。
骨髄は骨に囲まれたスペースであるため空間的な柔軟性には乏しく、白血病細胞が骨髄で増殖する結果、その他の正常細胞の増殖が抑制されてしまいます。正常細胞が適切に増殖できないと、赤血球、白血球、血小板といった血球が産生されなくなってしまい、白血病に関連した症状が現れることになります。
白血病細胞を詳しく調べると、染色体の本数が健康な細胞よりも増えていたり減っていたりしています。また、遺伝子の一部分が正常では存在しない形で切れていたり、くっついたりしていることもあります。さらに、健康な細胞が有する遺伝子と同じであっても、遺伝子の一部分が変異を生じているために、異常なはたらきをするタンパク質が生成されてしまっていることもあります。
これら遺伝子レベルでの変化が白血病の発症に大きく関与していますが、環境因子、ある種の化学物質、ある種の基礎疾患(もともと持っている疾患)が遺伝子変異の発生をもたらすとも推察されています。放射線を浴びると白血病発症のリスクが高くなることは知られていますが、白血病を発症したお子さんにおいてこうした明らかな発症要因を特定できることはむしろまれです。
症状
小児急性白血病の症状は、正常血球が骨髄において増殖・成熟できなくなっていることに起因します。正常血球とはすなわち、白血球、赤血球、血小板のことを指し、それぞれ下記のような特徴的な役割を有しています。
白血球
外部から体内に侵入した病原体(細菌やウイルスなど)と闘うための免疫機能を有しています。したがって、白血病において白血球が少なくなると感染に弱くなり、発熱を来しやすくなる、感染症が治りにくくなる、普段なら問題にならない弱毒な病原体に対しても感染を示す、などの徴候が出現します。
赤血球
全身への酸素運搬に関与しているため、白血病において赤血球が少なくなると貧血症状が出現します。貧血では、少し動いただけでだるくなる、顔色が悪い、めまいがするなどの症状が出現します。
血小板
血小板は、出血をした際に止血をする役割を有します。白血病において血小板が減少すると、口の中の粘膜から容易に出血する、鼻血が出ても出血が止まりにくい、などの症状をみることになります。
検査・診断
小児急性白血病は、骨髄の中で白血病細胞が増殖している病気です。そのため、骨の中に存在する骨髄を詳しく調べるために、「骨髄穿刺」と呼ばれる検査が行われます。腸骨(腰骨の一部)に針を刺すため、眠れるような麻酔をかけながら行うことが多いです。骨髄穿刺は病気の診断のために行うことはもちろんのこと、治療効果を判定するために頻回に行われる検査です。骨髄検査で採取された白血病細胞を顕微鏡で観察して、見た目の特徴を詳しく調べます。
さらに、どのようなタイプの白血病細胞であるのかを調べるために、フローサイトメトリー、染色体検査、遺伝子検査などが行われます。
小児急性白血病は、骨髄を中心に広がる病気ですが、ときに髄液やその他の臓器にも白血病細胞が侵入していることがあります。このことを確認するため、髄液検査や超音波、CT検査などが行われます。
治療
小児急性白血病の治療の中心は各種薬剤を組み合わせた化学療法です。特に発症間もなくからしばらくはとても強力な化学療法を行うことになるため、入院治療にて行うことが多いです。
治療経過で赤血球や血小板の輸血が必要になることも多いですし、感染症を併発して抗生物質が使用されることもあります。また、化学療法では吐き気などの一般的にみられる副作用以外にも、使用する薬剤に特徴的な副作用が出現することがあります。これらの副作用にも適切に対応することが求められます。
小児急性リンパ性白血病では、入院治療が終了した後もしばらくは外来で抗がん剤の内服を継続します。このころには白血病による症状は消失しているため、学校へ通うことも十分可能ですが、薬の副作用が出現することがあります。またなかには白血病が再発することもあるため、定期的に外来を受診して様子をみることが必要です。
小児急性白血病は、化学療法だけでは治癒が難しいこともあります。化学療法による治療効果が期待できない場合には、造血幹細胞移植が選択されることになります。
小児急性白血病は治癒をしても、化学療法に関連した晩期合併症が発生することもあります。さらに、小児期にがんにかかった、という事実から成長と共に悩みを抱えることもあります。こうした面をフォローするためにも、白血病が治った後も、長期的なサポートを行うことが重要です。
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