概要
新生児乳児消化管アレルギーとは、新生児期や乳児において見られる病気であり、食べ物に対してのアレルギー反応を起こす結果、嘔吐、血便、下痢などの消化管症状を呈するようになる病気を指します。体重増加不良といった成長障害をきたすこともあります。なお、新生児乳児消化管アレルギーは正式な医学名ですが、一般通念として使用される「食物アレルギー」との混同を避けるために、「新生児乳児食物蛋白誘発胃腸炎」と呼ばれることもあります。
生後1か月以内に症状を認めることが多く、現在知られているアレルギー疾患の中ではもっとも若い年齢で発症する病気です。日本においては難病指定を受けた病気の一つであり、年間2,000人以上が発生していると報告されています。診断は必ずしも容易ではなく、原因となる食物摂取と症状の出現の関係性を確認することが必要です。成長発達過程にある小児に発症する病気であるため、適切に診断を行い、必要十分な食事摂取を確立できるような介入が必要不可欠な疾患です。
原因
新生児乳児消化管アレルギーの原因は、食物に対するアレルギーです。原因となる食物としては、牛乳由来のミルクが大半を占めています。また、新生児乳児のうち20%ほどにおいて、母乳が原因となることも報告されています。そのほかの原因としての頻度は下がりますが、米、大豆、卵なども原因となりえます。
食品が原因となり症状が引き起こされるのは、一般通念で認知されている「食物アレルギー」と同じですが、アレルギー反応を引き起こす生体反応様式が両者では異なっています。食物アレルギーでは「IgE」と呼ばれる抗体がアレルギー反応に関与していることが多いですが、新生児乳児消化管アレルギーではIgE抗体の関与は重要でありません。
食物アレルギーでは原因となる食物に対してIgE抗体がすでに血液中に循環をしています。したがって、アレルギーを誘発する食物を摂取すると、数分後から2時間までの短時間の間にアレルギー反応が生じることになります。
しかし、新生児乳児消化管アレルギーでは、IgEの存在は重要ではなく、T細胞と呼ばれる白血球の一種類が病気の発症に関与しています。原因となる食物とT細胞が遭遇してから、アレルギー反応を生じるようになるまでにはいくつものステップが必要です。これらの反応は短時間のうちに完了することはなく、新生児乳児消化管アレルギーに関連した症状が出現するまでには、数時間から数日の時間がかかります。
症状
新生児乳児消化管アレルギーでは、原因となる食品を摂取してから数時間から数日の時間を経てから症状が出現します。病気に関連した症状は新生児期から出現することもあります。また、成長障害を呈することもあります。症状の組み合わせによっていくつかの種類に分類されていますが、新生児乳児消化管アレルギーは基本的には消化器症状(嘔吐、血便、下痢)が主体となる病気です。
通常言われる「食物アレルギー」では、じんましんや呼吸障害を食物摂食後から数分以内に呈することもあります。しかし、新生児乳児消化管アレルギーではこうした症状は認めず、嘔吐や下痢、血便などの消化管に関連した症状が主体になる点が両者の違いです。
検査・診断
新生児乳児消化管アレルギーでは、リンパ球が原因食物に対して反応を示すアレルギー疾患です。原因食物(特に牛乳)に対してのアレルギー反応を試験管の中で観察することを目的として、血液を用いた「アレルゲン特異的リンパ球刺激試験」と呼ばれる方法が選択されます。さらに、リンパ球の中でもT細胞に対してはたらきかける「TARC」と呼ばれる物質は、本疾患において血液中で上昇することがあります。このことを確認するための血液検査が行われることもあります。
また、白血球うち、好酸球が増殖する病気であり、血液・便中に多く見られます。したがって、血液中の好酸球数の数を確認したり、便検査で好酸球が多く出てきていないかを確認したりします。
新生児乳児消化管アレルギーの診断は、実際に原因となりうる食事を負荷する「負荷試験」が行われることもあります。負荷試験を通して自覚症状の変化や便中の好酸球の変化などを確認します。
その他、内視鏡にて腸粘膜の異常を確認することもありますが、新生児・乳児の内視鏡に習熟した医師が行うことが求められます。
治療
新生児乳児消化管アレルギーの治療の原因は、原因となる食物を避けることです。牛乳由来のタンパク質に対してアレルギー反応を起こしていることが多いため、まずは人工乳を中止し、母乳を開始することで症状の変化を見ることになります。母体が乳製品を摂取すると、それに呼応する形でお子さんに症状が出現することもあるため注意が必要です。母乳にはカルシウムが不足しがちですので、カルシウムサプリメントも補給することがあります。
母乳が使用できない場合、もしくは母乳でも症状が出現する場合などには、よりアレルギー反応が出現しにくいように処理してある「加水分解乳」や「アミノ酸乳」が使用されることになります。しかし、これらの中にはビオチンを始めとした一部必須栄養素が不足しているため、とうもろこしでんぷんやサプリメントなどの形で別途補充する必要があります。
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