概要
新生児壊死性腸炎とは、消化管への血流が障害される結果、腸管が壊死をきたす病気です。新生児壊死性腸炎は、消化管の発達が未熟であることを発症の根本原因としており、妊娠週数32週以下の早産児や出生体重1,500g未満の極低出生体重児において見られることが多いです。
腹部膨満や胆汁性嘔吐などの症状から始まり、ショック状態から死に至ることもある病気の一つです。病気の発症を早期に行うことが重要であり、腸管安静のための絶食や抗生物質、手術などで治療介入がされます。
原因
新生児壊死性腸炎は、消化管への血流障害などによる粘膜傷害を原因として発症する病気です。極低出生体重児に発症することが多く、消化管や免疫の未熟性、腸内細菌叢の乱れが発症に深く関わっています。
出生後の腸管栄養確立には、母体内で一定レベルまで成長を経ることが非常に重要となります。しかし、予定日よりも早く産まれる早産児や、出生体重が小さい子どもは、消化管や免疫機能が「未熟な」状態で出生してしまいます。
また、早産児や低出生体重児は出生時に低酸素や血圧低下といった大きなストレスを受けることがあります。さらに、出生後も母体外の環境にすぐに順応できず、血圧が充分保つことができなかったり、低酸素が持続したりすることもあります。それに加えて、サーファクタント(肺から分泌される。肺がつぶれないようにはたらく物質)の不足を原因とする呼吸窮迫症候群(RDS)や、動脈管開存症と呼ばれる病気を発症することも多く、これらすべてが低酸素や低血圧といったストレスにつながります。このようなさまざまな因子を原因として、需要に見合うだけの血液や酸素が消化管に供給されなくなり、消化管の粘膜が障害されて、発症すると考えられています。発症のリスクとしては、消化管内の正常な腸内細菌叢が抗生物質投与などで乱れていること、母乳ではなく人工ミルクの使用があります。
症状
新生児壊死性腸炎は、病気の進行に応じて症状が変化します。低出生体重児や早産児は、NICUにて集中治療を受けており、チューブを胃の中に留置して栄養を投与していることも多いため、胃の中に残存する栄養の量をチェックすることが可能です。新生児壊死性腸炎の発症初期には、消化管の動きが悪くなるため胃の中に栄養が多く残存していることが確認されるようになります。お腹の中のガスも動かなくなるため、お腹も張るようになります。また、体温が一定しない、無呼吸発作が増える、脈の変動が普段よりも大きくなる、などの変化がある場合もあります。
さらに病気が進行すると、お腹の張りはよりいっそう強くなり、胃の内容物に胆汁も混じるようになります。新生児壊死性腸炎では消化管からの出血も生じるため、便に肉眼でわかるほどの血液が混じることもあります。症状が進行し重症になると、血圧が下がりショック状態となったり、腸の壊死が進行し消化管が破れ(穿孔)て腹膜炎を生じたりする場合もあります。この状態まで進行すると、場合によっては命に関わることもあります。
検査・診断
新生児壊死性腸炎の診断は、症状に加えて、腹部単純レントゲン、CTなどの画像検査をもとにして行われます。病初期には、消化管内のガスが増えた像が確認されます。病気が進行すると、消化管内にガスを認めるのみではなく、消化管の壁の内部にもガスを認めます。消化管の血液は、「門脈」と呼ばれる血管を通して肝臓へと運ばれますが、消化管壁内のガスが門脈中へと移行している状況も見られます。
新生児壊死性腸炎の末期には、消化管が破れる「穿孔」という状況に至ります。この状況になると、消化管内のガスが、完全に消化管外の腹腔内へと漏れていることが確認されます。
治療
新生児壊死性腸炎の治療は、絶食、抗生物質、手術療法にて行われます。早期であれば、栄養を投与し、消化管に負担をかけることを避けます。新生児壊死性腸炎の発症には、酸素や血液の需要が充分でないことが関係しているため、消化管への負担を少しでも軽減するために絶食を行うことになります。
また、消化管の粘膜が傷害されると、消化管の中の細菌が血流に乗って敗血症になることがあり、また、消化管にいる病原性の高い細菌を減らす可能性があるため、抗生物質を使用することがあります。
しかし、これら内科的な治療を行っても新生児壊死性腸炎の病状が進行することもあります。その場合には、手術的に病変となっている腸を切除します。広範な腸管が必要となることもあり、のちに短腸症候群を発症することもあります。この場合には、適切な栄養補給を行えるように、食事摂取方法の工夫や点滴による栄養などが求められます。
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