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混合型脈管奇形

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概要

混合型脈管奇形とは、毛細血管、静脈、リンパ管、動静脈のうち、2つ以上の成分が混じり、それぞれの脈管奇形が組み合わさった状態のことをいいます。組み合わせによりさまざまな病気があり、包括して混合型脈管奇形と呼びます。代表的な病気として、クリッペル・トレノネー症状群が知られています。なお、脈管奇形とは、血管やリンパ管が生まれつき、もしくは後天的に異常に肥大したり、変形したりするものです。

病気の原因として、血管やリンパ管の形成に重要な役割をもつ遺伝子の異常や、その異常が引き起こす伝達経路の異常活性が関わっていることが分かってきています。しかし、明確な原因はまだ明らかではありません。なお、国内での患者数は約数千人と推定されています。

病変の部位や奇形が現れている脈管の種類などにより、病変部の変色や出血、腫れ、痛みなどのさまざまな症状がみられます。クリッペル・トレノネー症候群では、足や腕が大きく膨らみ、特に片側に肥大がみられることがあります。

治療法は、症状を考慮して選択されます。主な治療は、弾性ストッキングなどを用いた圧迫療法や、痛み止めなどの薬物治療です。場合に応じて、病変部分を切除したり、病変がある脈管を固めるための薬剤を注入したりします。

種類

混合型脈管奇形は、複数の脈管成分が混じった状態であるため、組み合わせによりさまざまな種類があります。代表的な病気として、以下のようなものがあります。

クリッペル・トレノネー症候群

もっとも有名な混合型脈管奇形です。毛細血管奇形、静脈奇形リンパ管奇形がみられ足や腕に過度の成長がみられます。足が片側だけが肥大することにより、足の長さに違いがでて、歩行や姿勢に支障が現れることも少なくありません。また、自覚症状として痛みを感じたり、炎症や感染を引き起こしたりする場合もあります。病変が大きい場合には、血栓ができやすくなります。

パークス ウェバー症候群

毛細血管と動静脈に奇形がみられ、クリッペル・トレノネー症候群と同様に、手足の過度な成長がみられます。動脈に奇形がみられることから皮膚に熱さを感じ、疼痛(とうつう)リンパ浮腫が生じる場合があります。重症の場合には心不全を生じることもあります。

なお、クリッペル・トレノネー症候群とパークス ウェバー症候群の鑑別が難しいことから、「クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」と1つにまとめた名称で呼ばれる場合があります。指定難病や小児慢性特定疾病ではこちらの名称が使われています。

その他の種類としては、スタージ・ウェバー症候群、マフッチ症候群、クローブス症候群などが知られています。

原因

混合型脈管奇形の原因として、さまざまな遺伝子の突然変異がみつかっています。

たとえば、クリッペル・トレノネー症候群においては、新しい血管の形成や細胞の増殖を調節する重要な役割を果たす遺伝子(PIK3CA)の異常が関与しているといわれています。PIK3CA遺伝子の異常は、細胞内の伝達経路(PI3K/AKT/mTOR経路)の過剰な活性化の原因となります。近年では、PIK3CA遺伝子異常に関連する病気を、PIK3CA関連過成長症候群として総称することもあります。

ただし、混合型脈管奇形の全ての発症要因が解明されているわけではなく、引き続き研究が進められています。

症状

症状は、病変がある部位や奇形がみられている脈管の種類、重症度などによりさまざまな形で現れます。病変部の赤いあざのような変色や出血、腫れ、痛みのほか、発熱や周辺の組織が圧迫されることによる症状などがみられます。

代表的な病気であるクリッペル・トレノネー症候群では、上記の症状のほかに、足や腕の過成長がみられることがあります。片側にのみ変化が起こることにより左右の足の長さに差が生じ、歩行困難や姿勢の影響などの問題を引き起こすこともあります。また、生まれつき手や足の指に合指症や多指症などがみられることもあります。

検査・診断

混合型脈管奇形が疑われる場合には、患部の観察や触診、血液検査などが行われます。加えて、超音波検査やCT、MRI検査、血管造影検査などの画像検査により、病変の広がり、深さ、形などが確認されます。診察や画像検査で診断が困難な場合には、組織を切り取って病理検査が行われ、細胞や組織の形を確認する場合もあります。これらの検査結果に、年齢や病気の経過などを考慮したうえで、総合的に診断が行われます。

なお、診断後も検査は継続的に行われ、血栓の確認のために血液検査を、足の長さの左右差をみるためにX線検査を行うことがあります。

治療

治療は、病気の種類や症状、重症度に応じて選択されます。クリッペル・トレノネー症候群では、以下のような治療や処置が行われ、必要に応じて組み合わせて治療されます。重症例の場合、生涯にわたり継続して症状をコントロールしていくことになります。

保存療法

弾性ストッキングや着圧サポーターを用いて、血流やリンパ液の流れを促し、滞りを減らすための圧迫療法が行われます。痛みを緩和させ、血栓を防止することが期待できます。

装具の使用や矯正手術

左右の足の長さに差が生じて歩行に支障がある場合は、補装具(下肢補高装具など)の使用や外科的矯正手術が検討されます。外科的矯正手術には、成長中の骨を一時的に抑える方法(骨端線成長抑制術)や、骨をゆっくりと延長させる方法(骨延長術*)などがあります。

*骨延長術:人工的に骨を切り、骨の再生に合わせて少しずつ延長させる方法。長管骨(腿や脛、腕などの長い骨)の変形や、先天性の成長障害などに対して行われることがある。

外科的切除・レーザー療法

外科的切除は、メスを使って病変を切り取る方法です。患部の大きさや病変の部位などを考慮して選択されます。しかし、クリッペル・トレノネー症候群やパークス ウェーバー症候群などでは病状が広範囲に及ぶことが多く、完全な切除が困難なため部分切除にとどまることがあります。また、正常な組織も併せて切除せざるを得ない場合もあるため、病変の範囲や位置を考慮して手術を実施するかどうか判断します。レーザー療法は、レーザー光を用いて組織を破壊し皮膚病変を治療する方法です。

硬化療法

病変に注射針を刺し、硬化剤(OK-432、モノエタノールアミンオレイン酸塩、無水エタノールなど)と呼ばれる薬剤を注入する方法です。脈管を固めたり塞いだりする目的で行われます。切除術と比べると根治は難しいものの、病変がある部位の機能に影響をあたえる可能性が低く、体への負担が少ないため繰り返し行うことも可能です。なお、2025年5月現在はOK-432による治療のみ医療保険が適用されます。

薬物療法

痛みに対しては、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの鎮痛薬が使用されます。出血に対しては止血薬、血栓の治療または予防を目的として抗凝固薬が使用される場合があります。

また、シロリムスという内服薬を混合型脈管奇形の患者に使用することで、病気の進行が抑えられ、症状が改善したとの報告があり、2024年に治療薬として承認されています。シロリムスは、PIK3CA遺伝子の異常によって起こる体内の伝達経路の過剰な活性化を抑える働きがあると考えられています。

最終更新日:
2025年06月30日
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2025/06/30
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