潰瘍性大腸炎は腸に繰り返し炎症が起きやすいため、炎症のたびにサイトメガロウイルスが活性化し治療が非常に難渋する病気です。万が一、サイトメガロウイルス腸炎を合併した場合難治性は高くなります。札幌医科大学医学部消化器・免疫・リウマチ内科学講座教授の仲瀬裕志先生にお話をうかがいます。
潰瘍性大腸炎は、サイトメガロウイルスが「再活性化した(炎症を起こした)状態」です。その炎症が広がり「感染症を起こした状態」がサイトメガロウイルス腸炎です。つまり、潰瘍性大腸炎にサイトメガロウイルス腸炎が合併した状態は難治性が高くなってしまいます。潰瘍性大腸炎の治療過程において、ステロイドや免疫抑制剤を使用し続けることはサイトメガロウイルスを増やす(炎症を広げる)ことにつながりますので、抗炎症性治療中にサイトメガロウイルスの再活性化によって腸炎自体が悪化した場合、免疫抑制作用を有する薬剤、特にステロイドを減らしていくのが基本的な考え方です。
現在、サイトメガロウイルス腸炎が合併した際に有効な治療と考えられているのは、生物学的製剤です。記事2で、サイトメガロウイルスは「炎症」をえさにして増えると述べました。そのえさとなる物質を「TNFa」といいますが、これは炎症を増大させる働きのあるサイトカイン物質です。生物学的製剤はこの「TNFa」をブロックする働きがある阻害剤です。サイトメガロウイルス自体もTNFαの刺激により増殖することから、本薬剤の使用により潰瘍性大腸炎の活動性とサイトメガロの増殖の両者を制御することができると考えられます。
もし生物学的製剤だけで炎症が抑えられない場合、抗ウイルス剤を併用する必要があります。その理由は、TNFaへの制御だけで炎症が抑えられない場合、サイトメガロウイルスの働きも止める必要があるからです。では、「いつ」抗ウイルス剤を使用するかですが、これが現在もっとも議論されている課題で完全に確立された臨床データがまだ存在しません。サイトメガロウイルスは、増殖の過程で次々に腸の細胞に感染していきます。細胞が増えるだけならば良いのですが、不思議なことにサイトメガロウイルスに感染された細胞はTNFaのような炎症を起こす物質(炎症性サイトカイン物質)を自ら出すようになってしまいます。これが前述した「感染症」の状態であり、炎症の力は倍以上に膨れ上がって手がつけられない状態となってしまいます。
TNFaとサイトメガロウイルスの両方を抑えることで消炎効果が高まることは研究でも明らかになっています。そこで今私たちが取り組んでいるのは、抗ウイルス薬を投入するのにもっとも適したタイミングの研究です。大腸の粘膜の中にサイトメガロウイルスの遺伝子がどのくらい増殖しているのかを調査し、「ウイルスがどのくらいまで増えたら抗ウイルス薬を投与すれば良いか」その限界値を判断するためのデータを積み重ねています。今後もっとも重要なデータになると考えています。
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
札幌医科大学附属病院 消化器内科 教授
日本炎症性腸疾患学会 副理事長日本消化器免疫学会 理事日本小腸学会 理事日本高齢消化器病学会 理事日本内科学会 評議員・総合内科専門医・指導医日本消化器病学会 財団評議員・消化器病専門医・消化器病指導医・炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン作成委員会副委員長・北海道支部 幹事日本消化器内視鏡学会 社団評議員・消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医
炎症性腸疾患の病態研究における第一人者の一人。炎症性腸疾患とサイトメガロウイルスの関連などの研究のみならず、消化器内科分野における外科、放射線科、化学療法部との密接な協力体制により患者さんのよりよいQOLのための高度先進医療を目指す。
仲瀬 裕志 先生の所属医療機関
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