概要
酸素がない状況下で生息する細菌を嫌気性菌と呼びます。特に空気に含まれている程度の酸素でも生息できない菌を偏性嫌気菌といいます。嫌気性菌には芽胞と呼ばれる形態へと変化できるものと、できないものがあり、後者を無芽胞菌と呼びます。無芽胞嫌気性菌感染症とは、嫌気性菌のなかでも無芽胞菌によって引き起こされる感染症のことです。
無芽胞嫌気性菌は消化管や口腔、膣など体の中で広く常在菌として生息しています。しかし、栄養失調状態や嚥下機能が低下している状態、手術後などにおいては無芽胞嫌気性菌を原因とした感染症を発症することがあります。
無芽胞嫌気性菌は体の深くにおいて膿を形成することも多いため、ドレナージ処置をとることも大切です。また、一種類の菌が原因となって感染症を起こしているとは限らないため、患者さんのバックグラウンドや感染症の発症状況を加味した上で適切な抗生物質を選択することも重要です。
原因
無芽胞嫌気性菌感染症とは、嫌気性菌のなかでも芽胞を形成しない無芽胞菌によって引き起こされる病気です。具体的には、Peptostreptococcus、Bacteroides、Fusobacterium、Veillonella、Actinomyces、Propionibacterium、Lactobacillusなど実に多種多様な菌が無芽胞嫌気性菌として分類されています。なお、芽胞を形成するタイプの嫌気性菌のことを芽胞形成菌と呼びますが、Clostridium属が臨床上、重要です。
無芽胞嫌気性菌は、人の体の中に常在菌叢として広く生息しています。具体的には口腔内や腸内、膣内などにおいてみられます。嫌気性菌は酸素の存在下ではうまく増殖できません。そのため、酸素の乏しい環境下で定着していることが特徴です。
体の中に常在菌として存在する無芽胞嫌気性菌ですが、ときに感染症を引き起こすことがあります。たとえば、嚥下機能が低下していると口腔内の無芽胞嫌気性菌が肺に流れ込んでしまうことがあり、誤嚥性肺炎の原因となることがあります。誤嚥性肺炎は、高齢者や脳梗塞後において遭遇することの多い感染症の一種です。
また、無芽胞嫌気性菌は消化管内にも広く生息します。そのため、胆道感染症や消化管穿孔(穴があくこと)による腹膜炎などと関連することも知られています。また、膣にも生息しているため、たとえば女性臓器の手術が感染症の原因となることもあります。
症状
無芽胞嫌気性菌感染症は、感染症を発症している臓器に関連した症状が出現します。たとえば誤嚥性肺炎であれば、咳や痰、息苦しさなどといった呼吸器関連の症状をみますし、胆道感染症や腹膜炎では腹痛や発熱が起こります。
無芽胞嫌気性菌は、敗血症を引き起こすこともあります。この場合には、頻脈や頻呼吸などの症状もみます。全身状態が非常に不安定になり、意識レベルの変容や血圧の低下、尿量低下、手足の冷感なども伴うことがあります。病状が進行すると最悪の場合には死につながることもあります。
検査・診断
無芽胞嫌気性菌感染症の診断は、血液や感染局所から得られた膿などを用いた培養検査を行うことでなされます。嫌気性菌は酸素の存在下ではうまく増殖できないため、こういった細菌の特性を加味した特殊な培養検査を行います。血液培養の嫌気ボトル、膿などの場合は、嫌気ポーターに採取します。
無芽胞嫌気性菌感染症では、感染症を引き起こしている臓器に関連づけた検査を行うことも重要です。誤嚥性肺炎であれば、胸部単純レントゲン写真や胸部CTなどによる肺炎状況の評価や血液ガスによる呼吸状態の評価などが重要です。
胆道感染症であれば、胆石や胆道系のがんが原因となっていることがあるため、エコーや腹部CTなどの画像検査が重要になります。
その他、肝臓や骨盤内部に膿瘍形成を来すこともあるため、同じく画像検査によって評価することになります。
治療
無芽胞嫌気性菌感染症では、抗生物質による治療が中心となります。抗生物質の選択に際しても嫌気性菌に対して効果のあるメトロニダゾール、アンピシリン/スルバクタム、セフメタゾール、クリンダマイシンなどを選択することになります。重症の場合は、ピペラシリン/タゾバクタム、カルバペネムなども選択肢になります。無芽胞嫌気性菌のなかでもどの菌が原因となっているか、感染症を引き起こしている臓器はどこか、患者さんの状態はどうか、などの情報をもとにして、適切な治療薬を選択することになります。また嫌気性感染症では、複数の菌が原因となることも多く、想定される菌をカバーする治療を行うことがあります。
無芽胞嫌気性菌感染症では、膿を形成することもまれではありません。膿が形成されている場合には抗生物質だけでの治癒を望むことは難しいため、ドレナージを行って、物理的に菌量を減らして、感染巣をコントロールすることも重要な治療となります。
無芽胞嫌気性菌は、基本的には体内にもともと持っている菌です。感染症を引き起こしたきっかけが潜在的に存在していることもまれではないため、そのきっかけに対しての治療を行うことも大切です。たとえば、嚥下機能の低下が誤嚥性肺炎の発症につながっている場合には、嚥下リハビリテーションを行うことや食事形態を工夫することも大切です。
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