糖尿病性腎症は、糖尿病に伴って起こる腎臓の病気で、糖尿病性腎臓病と呼ばれることもあります。病気が進行するにつれてさまざまな症状が現れ、重症化した場合は透析治療が必要となります。しかし、その透析治療を遅らせるために、いくつかの予防法があります。今回は秋田大学医学部付属病院の山田祐一郎先生に、糖尿病性腎症のメカニズムや症状、および重症化予防についてお話しいただきます。
糖尿病になると全身の細い血管に異常が起こります。特に腎臓は細い血管が集中しているため、糖尿病によってさまざまな血管の障害が起こり、腎臓の働きがだんだん弱っていくのが糖尿病性腎症です。
血糖コントロールがよければ多くの糖尿病の患者さんは発症することはありませんが、血糖コントロールを放置した状態が続くと、5~10年ほどで糖尿病性腎症が起こってくるといわれています。治療途中の段階で何名の糖尿病の患者さんが糖尿病性腎症を起こしているかの具体的な統計はありませんが、最終的には糖尿病性腎症で年間1万人以上の方が新たに透析治療となっています。
腎臓は血液で余分なものをろ過し、尿として排出する役割を持っています。血糖値が高いと糸球体というろ過装置のろ過機能が低下し、やがてろ過をしなくなると体にとって有害な物質を尿として外に出すことができなくなります。これが、糖尿病性腎症です。
糖尿病性腎症は1~5期に分類され、病気によって異なる症状が現れます。
・1期
ほとんど正常で糖尿病を発症して間もない時期です。尿蛋白(尿にたんぱく質が含まれる)なども出ません。
・2期
尿中にアルブミン(血液中に存在し血液中のさまざまな物質を運んだりする働きを持つたんぱく質)が少し出てきます。多くの場合は症状がなく、腎臓の働きはまだ正常に近い状態です。
・3期
アルブミンが2期よりも多く出るようになります。また、特に下肢、すねのあたりにむくみがあらわれます。
・4期
むくみが強くなります。腎臓の働きが低下しているので、体にとって悪い物質を出すことができなくなり、かゆみが強く現れる場合もあります。
・5期
自分の腎臓では体の悪い物質を取り除くことが十分にできないので、透析治療が必要です。
1期、2期は目にみえて変化する時期ではありません。しかし、3期になるとどんどん腎臓の働きが落ちてきて最終的には透析治療となります。ですから、ほとんど症状がない1期、2期のときからいかに治療していくかが重要となり、この時期から治療ができれば透析治療になることは少ないと考えられています。
たとえば1年後に透析治療に移行するほど、糖尿病性腎症が悪化している患者さんに対して治療を行い、透析導入を1年半後や2年後に遅らせることはできるかもしれませんが、完全にストップすることはなかなかできない方が多いことが現状です。
糖尿病性腎症の検査方法には血液検査と尿検査があります。
尿検査では尿中のアルブミンや蛋白を調べます。日本糖尿病学会でも尿検査の実施を強く推奨しており、糖尿病性腎症の早期診断のためには尿検査が最も重要になってきます。
1期または2期の方は、3か月~6か月に1回は尿検査をして、アルブミンを計測し、少し病期が進んできたら蛋白を測ります。
しかし、あまり尿検査をしていない施設があるのが現状です。
また、腎臓は糖尿病のみが原因で悪化するわけではないと考えている場合もあります。血尿や網膜症などの症状がみられないのに腎臓の悪化がみられる場合は、腎生検(腎臓の組織の一部を採取し、顕微鏡で観察する)を行うこともあります。
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