概要
網膜動脈閉塞症とは、網膜の内層を栄養する網膜動脈のなかでも網膜中心動脈が閉塞した状態をいいます。閉塞した部分が一部のみの場合は、網膜動脈分枝閉塞症とよばれます。網膜動脈閉塞が発症したのち、網膜の虚血状態が長時間(約100分程度)持続すると、不可逆的かつ急激な視力低下・視野欠損をきたすため、迅速な診断と治療が必要です。
原因
網膜動脈が栓子、動脈血栓、動脈れん縮により閉塞することで発症します。網膜動脈閉塞症は糖尿病、高血圧、脂質代謝異常症などによる動脈硬化、加齢性変化が原因のことがほとんどです。血栓や栓子が内頸動脈閉塞、不整脈、心臓弁膜症で形成され、網膜動脈を閉塞させます。外傷、高度の眼圧上昇、血液透析、心臓カテーテル検査が誘因となることがあります。若年者の場合は、高齢者と異なり動脈硬化の関与は少なくなり、膠原病、血管炎、血液凝固障害などが原因となることが少なくありません。
症状
症状の特徴は片眼性の急激な視力低下・視野欠損です。疼痛はありません。一瞬で発症するため多くの場合、いつ・なにをしているときに発症したかはっきりと覚えています。前兆として、一過性の視力・視野障害を自覚していることがあります。
検査・診断
視力検査、眼底検査、蛍光眼底造影検査、網膜電位図、全身検査などを行います。
視力検査
網膜動脈分枝閉塞症の場合は視野の一部のみが欠け、視力には影響がない場合もありますが、視力に重要な部分に発症した場合や網膜中心動脈が閉塞した場合、著しく視力が低下します。視力検査で使用するランドルト環がみえなくなるほど視力は低下し、指数弁(目の前の指の本数がわかる)、手動弁(目の前で手をふっているのがわかる)、光覚弁(光がわかる)程度まで低下します。
眼底検査
虚血となった網膜の内層は浮腫を起こして、白濁してきます。網膜外層のみで形成される網膜の中心部分の黄斑部には変化がありませんが、周囲の網膜内層が白濁するため、相対的に黄斑部の赤みが強くなったようにみえます。これをcherry red spot(桜実紅斑)といいます。網膜の白濁やcherry red spotは発症直後すぐにはでてきませんので、網膜動脈閉塞を疑って眼底検査を行い、網膜の白濁やcherry red spotを指摘できなかったとしても網膜動脈閉塞症ではないといいきれません。
網膜動脈分枝閉塞症の場合、閉塞部位に栓子を確認できることがあります。不完全閉塞の場合は網膜の白濁はなく、軟性白斑が散在します。視力障害も比較的軽度で、改善することがあります。
蛍光眼底造影検査
網膜・脈絡膜の循環動態を調べる検査です。網膜動脈が閉塞すると、動脈への色素の流入の欠損や、遅延がみられます。網膜動脈圧の低下のため、静脈から血液が逆流することがあります。網膜動脈閉塞を発症しても、その後閉塞が解除され、正常な蛍光眼底造影検査の結果がでることもあります。
網膜電位図
網膜電位図を使用することでどの血流が障害されているか鑑別することができます。
全身検査
採血や超音波検査で網膜動脈閉塞を発症させる疾患がないかどうかの全身検査が必要です。全身疾患が指摘されればその治療も必要となります。
治療
網膜動脈閉塞後、約100分で不可逆的な変化がでてくるため、診断がつき次第、早急に治療を開始します。
医療機関での緊急処置
眼球マッサージは迅速かつ簡便にできるため、眼科のない医療機関で網膜動脈閉塞が疑われた場合も施行が可能です。方法として以下があります。
1) 1分間に約100回程度、両手の人指し指で眼瞼の上を交互に圧迫します(5分間継続)。2) 眼瞼の上から眼球を15秒間圧迫し、急に手を離して除圧。これを10回程度繰り返します。
眼球マッサージを行うことで、網膜動脈の拡張や、眼圧を低下させて血栓の移動、血流量の増加を期待します。また前房穿刺やアセタゾラミドを内服すると眼球マッサージよりも確実に眼圧がさがります。これらの緊急処置を行ったあと、入院下での治療を継続することになります。
入院後の処置
血管拡張薬の点滴、星状神経ブロックで血管の拡張、高圧酸素療法により血中酸素分圧の上昇、線維素溶解療法での血栓溶解を図ります。特殊な設備や技術を必要とし、合併症も起こる可能性が高い治療になるので、治療施設の設備や患者さんの状態にあわせた治療が選択されます。
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