腎がんの治療法には、手術療法、放射線療法、薬物療法があります。腎がんの治療ガイドラインを参考にしながら、一人ひとりの患者さんのステージ(病期)や希望、医師の経験などからもっとも適した治療法を決定します。また、医師と患者さんがコミュニケーションをとり、寄り添いながら治療を進めていくことが大切です。
今回は、獨協医科大学病院泌尿器科主任教授の釜井隆男先生に、それぞれの治療法の内容や手術後の生活について、お話しを伺いました。
腎がんの治療法には、手術療法、放射線療法、薬物療法があります。
腎がんの手術療法の術式には、腎摘出術と腎部分切除術の2種類があります。腎摘出術とは、腫瘍のできた腎臓を丸ごと摘出する手術で、腎部分切除術は、腫瘍のできた一部分だけを切除する手術です。
基本的には腹部を切開、または、腹腔鏡*を用いて腎摘出術を実施します。しかし、早期で腫瘍が小さい場合などは、腎機能を残すために腎部分切除術を実施することもあります。特に、腎機能が低下している患者さんは、腎部分切除術がより適しています。
また、腎部分切除術では、ロボット支援下手術*が適応になることもあります。腹腔鏡下手術とロボット支援下手術は腹部切開よりも術後の傷跡が小さいという特徴があります。そのため、術後の回復が早く、術後早期からの社会復帰が期待できます。また、手術中の出血などのリスクも低くなると考えられます。
腹腔鏡…腹部の表皮から腹部の内臓がおさまっている所に入れる内視鏡器具。
ロボット支援下手術…3D画像をみながら、ロボットアームを遠隔作業しながら行う手術。
腎がんに対して実施される放射線療法の目的は、症状の緩和やがんの進行を抑えることです。特に骨への転移など、患者さんのQOL(生活の質)を悪化させる症状がある場合に実施されます。
(腎がんの症状について詳しくは、記事2『腎がんの症状 初期は自覚症状がほとんど出ない』をご参照ください)
腎がんに対して実施される薬物治療には、分子標的治療と免疫療法の2種類があります。どちらも、腫瘍を小さくし、進行を抑えることが目的です。分子標的治療とは、がん細胞の表面にある特定の分子を目印にして、効率よく攻撃する治療です。しかし、一般的な抗がん剤とは違った、分子標的薬に特有な副作用が出現することがあります。
また、免疫療法は、免疫を司っている細胞の活動を活発にさせることで、がん細胞を攻撃しがん細胞の活動を抑制する治療法です。2018年現在は、がん細胞自身が上手く立ち回り、本来がん細胞を攻撃するはずのTリンパ球の働きを抑制している機序が分かってきたことで、その抑制機序を阻害する(遮断する)ことで、Tリンパ球に本来の力を発揮させ、がん細胞を攻撃させる免疫チェックポイント阻害薬なども使われています。
ステージ1または2では、腹腔鏡、または腹部を切開し、腫瘍が小さく部分切除が可能な場合は部分切除、それ以外は腎摘除術の適応となります。また、リンパ節*転移と遠隔転移*があるステージ3の場合は、腎摘除術に加えリンパ節郭清(がんの周囲にあるリンパ節を切除すること)を実施し、術前に薬物治療を行います。それ以降のステージの患者さんは、基本的に薬物治療や放射線治療などの姑息的治療*の適応となります。局所療法は、腫瘍が小さく高齢のために手術に耐えることが難しい患者さんや、手術を希望しない患者さんに対して行われます。
なお、個々の患者さんの状態や希望、医師の経験から、ガイドライン上では手術が推奨されていないステージであっても、手術で腎臓を摘出するケースもあります。
リンパ節…リンパ節とはリンパ管に存在する免疫器官の1つで、ウイルスや腫瘍細胞、細菌がないかを調べる働きをしている。
遠隔転移…腫瘍が発生した臓器から、遠い距離にある臓器へ転移すること。
姑息的治療…病期を治すためではなく、症状を緩和させることや延命を目的とした治療。
腎がんの手術による合併症*としては、以下のものが挙げられます。腎がんの手術を受ける際は、万が一手術中に合併症が起こったとしても、病院内でさまざまな診療科が連携し、すぐに適切な処置を行える施設を選択することをお勧めします。
合併症…ある病気や手術や検査が原因となって起こる別の症状
腎臓の周囲には、腎動脈・腎静脈といった大きな血管が通っています。そのため、手術中にそれらの血管を傷つけてしまった場合は、大量の出血が起こり輸血が必要になることがあります。
腎臓の周囲にある臓器(脾臓、胆嚢、腸、膵臓など)を手術中に損傷する恐れがあります。
手術の際に腸管が癒着し、術後に腸閉塞を起こすことがあります。腸閉塞とは、腸管が塞がり、内容物が詰まる病気です。腸閉塞になった場合は、治療に手術が必要となることもあります。
腎部分切除を実施した際、しっかりと縫合できていなかった場合は縫合不全を起こす場合があります。縫合不全とは、手術で縫合した組織が十分に癒着しないことです。
腎がんの術後の生活では、特別に制限すべきことはありません。そのため、普段通りの生活を送ることが可能です。ただし、規則正しい生活を心掛け、食事はバランスよく摂取することが大切です。
腎がんの治療法は日々進歩しており、手術療法、薬物療法、放射線治療などを組み合わせながら 、患者さんにとって、もっとも適した治療方法を追及していきます。
私がまだ医師としての経験が浅かった時代、ある1人の腎がん患者さんの主治医となりました。その患者さんは、肺や骨にも転移があり、根本から完全に治すことは難しい状態でした。
患者さんから「娘の卒業式をみるために、1日でも長く生きたい」という望みを打ち明けられ、医師として、この患者さんの望みに寄り添うためにはどうしたらよいか、さまざまな治療法を試みました。
しかし、最終的に何も打つ手がなくなってしまい、そのことを患者さんに告げると「残りの時間は自宅に戻り、家族と共に暮らしたい」と、在宅での治療を希望されました。
その後、患者さんは自宅に戻り、少量の薬物で症状を和らげつつ、ご家族と一緒に生活をしながら、望んでいた娘さんの卒業式を見届けることもできました。
私はこのような経験から、腎がん患者さん一人ひとりに適した治療法を模索し、提供することが重要だと学びました。
そして、患者さんと医師がコミュニケーションをとり、寄り添いながら治療を行うことがもっとも大切なことなのだと考えるようになりました。
また、何よりも腎がんは早期発見・治療が重要です。早期発見できるかできないかによって、治療法や予後は大きく左右されます。そのため、定期的にエコー*やCT*などの画像検査を受け、腎臓の様子を確認することが重要です。
エコー…超音波を身体にあてて、身体内部を映像化する検査。
CT…エックス線を使って身体の断面を撮影する検査。
獨協医科大学病院 泌尿器科主任教授
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