概要
腹壁瘢痕ヘルニアとは、開腹手術や外傷によってできた傷あと(瘢痕)の箇所で、縫い合わせた腹壁(お腹の筋肉や腹膜など切り開いた組織)が弱くなり離れる病気です。腹壁が離れた部分(ヘルニア門)から腸などの臓器が皮膚の下に飛び出し、盛り上がって見えることがあります。
開腹手術では、手術後に腹壁を縫合します。このとき、縫合した部分での感染や、肥満、喫煙、薬剤の使用などが背景となり、腹壁瘢痕ヘルニアを発症することがあります。
目立った症状がないこともありますが、痛みを生じる場合もあります。また、腹壁の中に臓器が戻らない状態(嵌頓)となると、臓器の血流障害につながることもあります。
手術創の部位が膨らんで見える場合でも、皮膚自体はしっかり閉じているため、患者さんによっては「太っただけなのか」「術後はこういうものなのか」「もしかして、がんが再発したのではないか」と不安を抱くこともあります。
自然に治癒することはなく、必要に応じて手術による治療が行われます。
原因
腹壁瘢痕ヘルニアが生じる背景には、さまざまな要因が挙げられます。手術に関連する要因のほか、ほかの病気、過去の治療や使用している薬剤、患者さんの状態などが影響するといわれています。
手術に関連する要因
手術に関連する要因としては、縫合した部位での感染、縫合の方法、手術時間などが挙げられます。中でも、縫合部の感染は発症に大きな影響を与えるといわれています。また、手術での切開が大きい場合も発症しやすくなるとされています。
ほかの病気
肝硬変や慢性閉塞性肺疾患、さらにコントロール不良の糖尿病の患者さんでは、ヘルニアを発症しやすいといわれています。
過去の治療、使用薬剤
過去に放射線療法や化学療法を受けたことがある患者さんや、免疫抑制剤やステロイド薬、抗凝固薬を使用している患者さんでは、発症しやすくなるといわれています。
患者さんの状態
症状
腹壁瘢痕ヘルニアの典型的な症状は、手術の傷あと部分に生じる膨らみです。この膨らみは、立ち上がったり咳をしたりするなど、腹圧がかかる際に顕著になります。仰向けになったりお腹の力を抜いたりすると、元に戻ることが多いとされています。痛みや違和感を伴うこともありますが、無症状のまま経過するケースも少なくありません。
自覚症状がない場合でも、ヘルニア門が徐々に大きくなり、症状が強くなることがあります。さらに、腹壁の中に臓器が戻らなくなる嵌頓の状態になると、強い痛みが生じるほか、臓器の血流障害や腸閉塞が生じることもあります。嵌頓は危険な状態であり、緊急での手術が必要になることもあります。
検査・診断
腹壁瘢痕ヘルニアが疑われる場合には、まず医師による問診と身体診察(視診、触診)が行われます。立ち上がったり腹圧をかけたりして、腹部の膨らみの有無やその変化を確認します。経過観察のため、初診時にヘルニア門の位置を皮膚表面からマーキングし、写真撮影を行うことがあります。
加えて、正確な診断のためには、超音波検査やCT検査などの画像検査により、腹壁や臓器の状態を確認する必要があります。
治療
腹壁瘢痕ヘルニアの根本的な治療としては、手術が行われます。手術を受けることができない場合や、症状が軽度な場合には、保存療法が選択されることもあります。
保存療法
ヘルニアバンドと呼ばれる装具を使用して、弱くなった腹壁を補助します。そのうえで、悪化につながる要因を避けるなどの生活指導が行われ、定期的な経過観察を行います。
手術
離れている筋肉や筋膜を再び縫い合わせる手術が行われます。その際、再発を予防するために、“メッシュ”と呼ばれる人工膜を留置します。近年では、腹腔鏡を用いて、患者さんの負担が少ない方法で行われることが増えています。
手術の方法はいくつもあり、患者さんの状態や希望などを踏まえて選択されます。手術にかかる時間や合併症の頻度などが異なることもあるため、事前に担当の医師とよく相談するとよいでしょう。手術経験が豊富な施設ほど、術後成績がよいという報告もあります。しっかりと納得してから手術を受けることが大切です。
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