概要
重症複合免疫不全症とは、体の中の免疫細胞がうまくはたらかない乳幼児に発症する病気です。免疫とは体を守るしくみです。免疫細胞は通常、外敵(細菌やウイルス)を見つけて取り除くことで感染症を防いでいます。
免疫細胞は主に
- 好中球
- T細胞
- B細胞
- NK細胞
といったリンパ球に分類されます。
この病気の場合、T細胞やNK細胞といった複数のリンパ球(複合)が何らかの原因でうまくはたらくことができません。そのため、簡単に細菌やウイルスなどの病原菌に感染し、体中に炎症が起きやすくなります。この病気のほとんどは、生まれつき(先天性)タンパク質を作る設計図(遺伝子)に異常があることが原因です。この病気は子どもに遺伝する可能性があり、日本人では“X連鎖型劣性遺伝”と呼ばれるタイプが多く、男の子に多く発症します。免疫がはたらかないために感染症にかかりやすくなりますが、抗生物質や抗真菌薬といった治療薬は、効果を発揮することができません。乳児期に繰り返す感染症で死に至ることもある重篤な病気ですが、造血幹細胞移植を行うことで、ドナー由来の免疫細胞を作り出し、根治を目指すことが可能です。
原因
重症複合免疫不全症は、先天的なタンパク質の設計図(遺伝子)の異常により、免疫細胞の一種であるT細胞やB細胞、NK細胞といった複数のリンパ球の機能が低下することが原因で発症します。異常が起きる遺伝子ごとに別の病名がつけられており、症状の重症度が異なります。
- X連鎖型重症複合免疫不全症
- アデノシンデアミネース欠損症
- JAK3欠損症
- RAG欠損症
上記のうち、約半数がX連鎖型重症複合免疫不全症であり、約4~7.5万人に1人の割合で発症しています。免疫細胞を活性化するのに必要なタンパク質の刺激を受ける受け皿に問題があるため、複数のリンパ球がうまくはたらくことができません。
症状
生後3~6か月頃から細菌やカビの仲間である真菌といった感染症の症状が出はじめます。
自覚症状としては、
- 発熱
- 咳
- 呼吸困難
- 皮膚の痛みや腫れ
- 下痢
- 血便
- 腹痛
- 成長が遅くなる
などがあります。
このような自覚症状が表れにくい患者さんもいます。また、抗生物質や抗真菌薬といった治療薬を投与しても症状の改善が認められないことが多いです。この場合、何度も肺炎や皮膚炎を繰り返すことで病気が判明することがあります。また、腹痛や下痢が数週間続いた場合もこの病気の可能性があります。全身に感染症が広がる“敗血症”と呼ばれる合併症が起きた場合には、治療が困難になり重篤になることもあります。
検査・診断
重症複合免疫不全症を診断するための検査は、血液検査、画像検査、遺伝子検査の3つがあります。
血液検査
血液に含まれる免疫細胞を調べます。きちんと外敵を倒すはたらきが機能しているかどうか確認します。特にリンパ球と呼ばれるT細胞やB細胞、NK細胞の数を調べ、正常に外敵を攻撃できるのかを詳細に調べます。また、感染症に合併する炎症や貧血、タンパク質の異常などについてもわかります。
画像検査
肺炎や腸炎、皮膚炎などが考えられる場合、感染源を特定するために画像検査を行います。放射線を使って体の中を調べるレントゲンや、CT検査が一般的です。CT検査で針を刺して確認することもありますが、この場合針は刺さないので、身体にかかる負担は小さいです。
遺伝子検査
リンパ球の機能が低下していた場合や、家族内にこの病気を発症した人がいる場合には、血液細胞のDNAを抽出してどのような遺伝子異常があるか調べます。複数の遺伝子異常があり、どの遺伝子異常があるかによって重症度が異なるため、治療の選択が大きく変わります。
治療
治療の目的は感染症のコントロールですが、抗生物質や抗真菌薬といった治療薬では対応が難しいため、免疫細胞を再構築する必要があります。そのため、免疫細胞の根源となる造血幹細胞をほかの人(ドナー)から提供してもらい、患児の骨髄に移植する造血幹細胞移植を目指します。早期に病気を発見し、重症な感染症が発症する前にこの治療を行うことが理想的です。
造血幹細胞移植療法は、唯一、重症複合免疫不全症を完全に治すことのできる治療であり、基本的には全例がこの治療を目指します。HLA(組織適合性抗原)という型が一致するドナーから提供された造血幹細胞を移植することで、血液の根本の細胞を入れ替える治療です。大量の抗がん剤や放射線を用いて、はたらけなくなった骨髄内の免疫細胞と、正常の血液細胞まですべて破壊します。その後、ドナーから提供された造血幹細胞を移植し、それらが患者さんの骨髄にうまく適合してドナー由来の正常な免疫細胞ができてくるのを待ちます。
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