概要
離人症性障害とは、一時的に自身が感じている現状が現実であるかどうかの現実感が得られず、また、自分の感覚が普段と異なるように繰り返し感じてしまう離人症状といわれる症状が特徴の病気です。解離性障害のひとつに分類されています。
離人症状は、著しい苦痛、また社会的やその他の生活における機能の障害を引き起こしてはいるものの、離人症状が出ている間も現実検討能力(自分の考えなどが現実的、合理的であるかなどの判断をする能力)は正常に保たれているとされます。
離人症性障害は10代から20代での頻度が高いです。
原因
離人症性障害の原因や発生のメカニズムについては、現時点では明確にわかっていません(2018年8月時点)。
しかし、トラウマ(心的外傷)体験がある患者さんも多く、幼少期の虐待体験をもつ方も少なくないことが知られています。強い恐怖を感じたり狂乱したりすることを避けるために離人症が形成されるという説があります。
離人症性障害は分類上、離人症状を認め、その他の明らかな病気に合併しないものとされています。離人症は本障害のように解離性障害のひとつの症状として見られるほか、うつ病や不安障害、パニック障害、強迫性障害、境界性人格障害、統合失調症でもみられます。
また、それ以外にも甲状腺や副甲状腺、膵臓のような内分泌障害、てんかんや脳腫瘍、脳外傷または神経外科手術時の電気刺激や一部薬剤によって引き起こされることもあります。
これらの身体疾患・精神疾患に離人症状が合併する場合は離人症性障害ではなく、離人症の原因となっている主疾患による症状といえます。
ただし、これらの鑑別(見分けること)は必ずしも容易ではなく、うつ病の経過中に離人症状を認める場合や、当初は離人症状のみを認めていたものの経過とともに幻覚妄想が出現し、統合失調症と診断されるケースもあります。
症状
離人症とは、自分自身の意識(自我意識)や自己の感覚、または自己を取り巻く環境や物事について現実感が得られず、疎隔されていると感じる症状を指します。また、自分の意識が体から離れていったり、自分自身を客観的に観察したりするような状態に陥ることもあります。
具体的には、以下のような感覚が挙げられます。
- これまでの自分の感覚が普段と異なるように繰り返し感じる。
- 世界がぼやけてみえ、曖昧に夢を見ているかのように感じてしまう。
- 現実感を喪失し、その意味合いがわからなくなってしまう。
- 自分の身体の大きさや形が違って感じる。
- 見たことのない光景を見たことがあると感じたり(デジャヴ:既視感)、見たことがある光景を見たことがないと感じたりする(ジャメヴ:未視感)
など
また、「自分と世界の間にベールがあり世界がぼやけて感じる」と表現されることもあります。
ただし、離人症状が出ている間は意識状態が混濁していたり、見当識障害が認められたりするわけではなく、現実検討能力は正常に保たれています。
また、離人症は単独で生じることは少なく、多くは解離性障害のその他の症状と共に認めらます。
検査・診断
離人症を診断するための血液検査や脳画像検査、脳波の検査などは現在のところ確立されていません。そのため、患者さんの訴えを医師が問診し、診断基準に基づいて診断されます。
ただし、離人症状が現れる病気は精神疾患に限らず、身体疾患においても多く存在するため、それらを除外するための検査は重要です。
具体的には、神経学的所見や脳波、脳画像検査、血液検査といった検査を用いて、てんかんや脳腫瘍、内分泌疾患などを除外することが検討されます。
離人症状が身体疾患に付随する症状である場合は、その疾患を治療して治癒すれば離人症状は改善します。
治療
離人症性障害の治療薬については、有効なものが確立されていません。しかし、離人症に伴い不安や抑うつ気分が付随する場合が多いため、それらの症状に対し対症療法として抗不安薬や抗うつ薬が用いられて有効なことがあります。
また、カウンセリングや認知行動療法といった精神療法も行われますが、治療が難しいケースが少なくありません。
離人症状に付随する別の精神疾患(統合失調症やうつ病など)や身体疾患が認められる場合は、それらの疾患に対しての薬物療法、その他の治療方法が検討されます。
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