概要
IgA腎症とは、血尿やたんぱく尿などの症状が現れる慢性糸球体腎炎の一種で、日本人を含むアジア人に多い病気です。日本では小児・成人共に慢性糸球体腎炎のなかでもっとも頻度の高い病気です。日本では約7~8割の患者が、学校や職場などで実施される一般健康診断の尿検査をきっかけに発見されています。
発症初期には自覚症状はほとんどありませんが、治療をしないまま放置すると20年程度で透析治療が必要な腎不全へ至ることもあります。以前は腎不全へ至る割合が高いとされていましたが、近年では早期の段階で適切な治療を受けられる患者が増えており、臨床的寛解(たんぱく尿や血尿などの症状が出なくなった状態)を目指すことも可能になっています。
原因
IgA腎症は、腎臓の糸球体にあるメサンギウムという領域に、免疫グロブリンの1種であるIgAが沈着することで、糸球体に炎症が生じます。IgA腎症の患者では異常なIgA(糖鎖異常IgA)が血液中に増加していることが分かっており、この異常なIgAは糸球体に沈着しやすい特徴があります。異常なIgAが糸球体に沈着すると、糸球体の血管で炎症が起こり、たんぱく尿や血尿が生じます。
また、一部の症例は家族内に発生していることから、遺伝的な要素が発症に関わっていることも想定されています。しかし、発症に関わる特定の遺伝子は発見されておらず、研究が進められています。
症状
IgA腎症の主な症状は、血尿とたんぱく尿です。
IgA腎症では糸球体血管に炎症が起こり、血管壁が傷害されることで赤血球とたんぱく粒子が尿に漏れ出てきます。しかし、分子量が大きい赤血球とは異なり、たんぱく粒子は尿細管というところで再吸収されます。
発症初期では、炎症を起こしている糸球体は全体の一部であるため、血尿のみでたんぱく尿は認められないこともあります。この段階の血尿は肉眼で確認できるものではなく、顕微鏡的血尿といって、顕微鏡で見たときに赤血球が尿中に出てきていることが確認できます。
初期段階では尿の見た目上の変化などの自覚症状がない場合がほとんどで、上気道炎や扁桃腺炎に罹患した後に、ウーロン茶のような色の赤茶~茶褐色の尿(肉眼的血尿)が一過性に数日間出ることがあります。大量のたんぱく尿を呈する患者は手足や顔の浮腫を発症する場合もありますが、IgA腎症では比較的まれな所見です。
また腎機能の低下するスピードは比較的ゆっくりであるため、初期には腎機能も正常です。しかし治療をしないまま症状が進んでしまうと、糸球体の炎症が広がりやがて硬化し、腎機能の低下をきたしてしまいます。
検査・診断
まず、早朝尿や随時尿(任意の時間に採尿される尿)を用いた尿検査が行われます。尿試験紙を用いて、尿中に赤血球やたんぱくが含まれているかを調べます。また、尿中のたんぱく濃度とクレアチニン濃度の比を調べることで1日に漏れ出しているたんぱくの量を推測できます。
異常が認められる場合には、尿検査と血液検査が実施されます。24時間蓄尿による検査ができれば、前述の随時尿を用いた検査と比べ、より正確な情報を得ることができます。また血液検査により、腎機能の障害がどの程度であるかを調べることができます。成人では血液中のIgAが上昇していることもありますが、小児ではまれです。また、血液中のIgAの上昇の所見のみでは診断はつかず、腎生検による腎組織の評価が必要です。
血尿やたんぱく尿を認め慢性糸球体腎炎が疑われる場合には、正確な診断をつけるために腎臓の組織の一部を採取する腎生検を行う必要があります。IgA腎症を含む慢性糸球体腎炎の確定診断は腎生検でしかできません。腎生検により、IgA腎症の診断を下すとともに、重症度を評価し、治療の必要性やその種類、ときにはその後の経過を予測できます。診断時あるいは経過中に腎機能障害がある、または高度たんぱく尿がある場合は腎生検を急ぐ必要があります。また、回復後や悪化時にも腎生検を行い、その後の治療方針を決定します。
治療
IgA腎症の治療方針は成人と小児とで異なりますが、治療の第一目標はたんぱく尿の陰性化です。たんぱく尿が残存すると腎障害は進行するためです。一方、ある程度の血尿の残存は許容されますが、陰性化することが望ましいです。
成人の場合
成人のIgA腎症では、降圧薬(RAS阻害薬)、副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、扁桃摘出術(+ステロイドパルス療法)、抗血小板薬等による治療が行われます。腎生検の所見が重症の場合は副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、扁桃摘出術が選択されます。一方、軽症の場合は、降圧薬(RAS阻害薬)や抗血小板薬が選択されます。
扁桃摘出術は、慢性感染を合併し異常なIgAの発生源となっていると考えられている扁桃腺を摘出する手術です。ほとんどの患者は、扁桃摘出術を行ったあとに、糸球体の炎症を抑制するためのステロイドパルス療法が行われます。ステロイドパルス療法とは、点滴で大量の副腎皮質ステロイド薬を3日間連続投与(1クールと呼びます)する方法であり、さらに症状に合わせ数クールを繰り返します。因みに、扁桃摘出術とステロイドパルス療法を組み合わせた治療では、ステロイドパルス療法単独の治療よりも尿中のたんぱくを減少させる効果が示されています。
IgA腎症は症状が出にくいため、成人患者は検尿などにより早期発見されなかった場合、診断時にすでに慢性腎障害が進行している場合もあります。そのような場合には治療効果が限定的になることもあります。
小児の場合
小児のIgA腎症の場合、軽症例においては降圧薬(RAS阻害薬)や抗血小板薬の内服治療を行います。腎生検の所見が重症の場合は、副腎皮質ステロイド薬(ステロイドパルス療法を含む)と免疫抑制薬、さらに降圧薬(RAS阻害薬)や抗凝固薬/抗血小板薬などの3つから4つの薬剤を組み合わせた多剤併用療法(カクテル療法)が行われます。通常、カクテル療法は2年間にわたって行います。一方、軽症の場合は、降圧薬(RAS阻害薬)や抗血小板薬が選択されます。
小児のIgA腎症に対する扁桃摘出術について有効性を示す科学的な結論は出ていませんが、カクテル療法を行っても改善が見られない場合やカクテル療法後に再発する場合などには、扁桃摘出術(ステロイドパルス療法が併用されることが多い)が検討されます。
小児患者は学校検尿などで早期に発見されることが多く、上記の治療を行えば完治することがほとんどであり、また腎機能低下を残す患者も少なくなっています。
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