概要
中毒性表皮壊死症とは、主に薬剤や感染が引き金となって、皮膚や粘膜に特徴的な症状が現れる病気です。皮膚は広い範囲で赤くただれ、こするだけで皮膚がむけます。口や唇、目などの粘膜も赤くただれて、痛みを伴います。症状が急速に進行するため、早急に入院して治療を受ける必要があります。早い段階で適切な治療を受けることで回復は可能ですが、症状の範囲が広い場合や、高齢者、合併症を抱える方などでは命に関わることもあります。
スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)という病気も中毒性表皮壊死症と同じような症状が現れます。この2つの病気は症状の範囲(面積)により区別されています。皮膚や粘膜の症状が体の狭い範囲に限られている場合はスティーブンス・ジョンソン症候群と診断されます。一方、症状が体の広い範囲に及んでいる場合は中毒性表皮壊死症と診断されます。
なお、中毒性表皮壊死症はTEN(toxic epidermal necrolysis)とも呼ばれ、発生頻度は、100万人当たり年間1.0人と考えられています。
原因
中毒性表皮壊死症の詳しい原因は分かっていません。多くの場合、薬剤に対する免疫学的な反応が関係していると考えられています。抗菌薬、解熱消炎鎮痛薬(市販の風邪薬、痛み止め、熱さまし)、循環器疾患治療薬、消化性潰瘍治療薬などさまざまな薬剤が原因になると考えられていますが、最近では、抗がん薬による報告が増えています。
最近の研究では、一部の薬剤による中毒性表皮壊死症は、特定の遺伝子素因を有する人に発症しやすいこと分かってきました。
また、薬剤だけでなく、ウイルス感染症やマイコプラズマ感染症などの感染症がきっかけとなって発症することもあります。
症状
発症すると、38℃以上の発熱、体がだるくなる、食欲がなくなるといった症状とともに、皮膚と粘膜にさまざまな症状が現れます。特に皮膚だけでなく、粘膜の症状が初期から強く出る場合は、中毒性表皮壊死症である可能性が高くなります。
皮膚
皮膚は広い範囲で赤くなり、水ぶくれやただれができます。また、皮膚を軽くこすっただけでも、やけどのように皮膚がむけます。これをニコルスキー現象といいます。
粘膜
口や唇、鼻の中の粘膜が赤くなり、ただれて痛みを感じます。白目が赤く充血し、目やにが出ます。また、尿道や肛門周辺などの粘膜にも同じような症状が現れ、痛みや出血を伴うことがあります。
スティーブンス・ジョンソン症候群からこの病気に移行するケースが多い一方、症状が非常に急速に現れる場合もあります。いずれにしても、発症すると重症化するため、疑わしい症状がある場合には速やかな治療が必要です。
原因となる薬剤を使用してから症状が現れるまでは、約2週間以内であることが多いものの、数日以内の場合や1か月以上経過していることもあります。
検査・診断
中毒性表皮壊死症は、皮膚や粘膜の症状、発熱の有無、ほかの病気による症状でないかの確認により診断されます。
検査としては、血液検査や皮膚を一部採取する皮膚生検を行います。肝機能や感染により生じる抗体などを確認します。また、胸部や腹部の画像検査、消化管の内視鏡検査などが行われることもあります。
原因となる薬剤を特定するためには、リンパ球刺激試験(DLST)や皮膚パッチテストが行われることがあります。DLSTでは採血し、血液からリンパ球を取り出して、疑われる薬剤を添加して反応を確認します。皮膚パッチテストは、疑われる薬を含ませたシール状のパネルを背中の皮膚に48時間ほど貼り付ける検査です。パネルを剥がしてから数時間から1週間後の皮膚の反応を見て判定を行います。
治療
発症した場合、早急に治療を開始する必要があります。薬剤が原因と考えられる場合には、疑いのある薬剤をすぐに中止します。点滴などによる全身状態の管理を行い、皮膚や粘膜などに生じている炎症の抑制、症状のある部位からの感染予防などを行います。また、目の充血などの症状がみられる場合は視力障害などの後遺症につながる可能性があるため、治療や経過観察が必要となります。
具体的な治療としては、ステロイド薬の経口または点滴投与を行います。そのほか、症状によっては、免疫グロブリン療法や血漿交換療法が行われます。患者の状態などに応じた治療が行われます。
ステロイド療法
大量のステロイド薬を飲んだり点滴で投与したりします。特に、重症の方や症状の進行が速い場合、目に症状がみられる場合は、薬を早く全身に投与するために約3日間点滴で投与し、その後数日間は飲み薬に切り替えます。飲み薬の投与量や投与期間は、回復の様子をみながら調整されます。
免疫グロブリン療法
ヒト免疫グロブリン製剤を約5日間投与します。ただし、肝臓や腎機能障害がある方では行えないことがあります。通常、ステロイド療法では十分に回復しない場合に行われます。
血漿交換療法
カテーテル(医療用の細い管)を使って血液の一部を体の外に取り出し、血液から原因物質を取り除いて体内に戻す治療法です。1回の治療あたり2〜3時間、患者は横になって過ごします。通常は2回行うと効果がみられますが、回復が十分でない場合は約2週間にわたって治療を行うこともあります。この治療は、ステロイド療法や免疫グロブリン療法が有効でない場合や、何らかの理由でそれらの治療ができない場合、症状が再発した場合などに選択されます。
皮膚や粘膜、目の治療
皮膚や粘膜の炎症がひどく痛みを伴う場合は、シャワーなどで患部を洗浄した後、アズレンやワセリンなどを含む軟膏を塗り、ガーゼなどで覆います。目に症状がある場合には、病状に応じて、ステロイド点眼薬や抗菌点眼薬が使用されます。
再発予防
治療により回復した後は、再発防止に努めることが大切です。
薬剤が原因となって発症した場合は、その薬剤名や成分名を記録して服用を避けましょう。また、自己判断で市販薬を服用することは最小限に抑えること、服薬が必要な際は過去に中毒性皮膚壊死症を発症した旨を伝えることも必要です。
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