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やって後悔した方が、やらないで後悔するよりもよい

DOCTOR’S
STORIES

やって後悔した方が、やらないで後悔するよりもよい

常に“For Others”の精神で患者さんを診る織田 成人先生のストーリー

千葉市立海浜病院 救急科統括部長
織田 成人 先生

兄の影響で医学部への進学を決意

「医者は人のためになる仕事だよ」

進学に悩んでいた私に、兄がそんな言葉を投げかけてくれたことがあります。勉強はできるほうだったので、高校の先生からは「東大の理科I類を受けてみろ」と言われたり、はたまた自分の興味は工学の分野にあったりと、将来についてどうしようか迷っていた時期でした。

当時、私は高校2年生。優秀で勉強ができる兄の背中を追いかけるために、同じ高校へ入学し、鹿児島市内の下宿で暮らしていました。兄は高校卒業後、東京大学医学部への進学が決まり、晴れて医学生としての道を歩み始めた頃だったと思います。夢に向かって駆け抜けていく兄の姿を見て、「兄と同じ医師を目指そう」そんな思いが私の心に芽生え始めました。今振り返ると、尊敬している兄に大きな影響を受けていましたね。その後、千葉大学医学部へ無事合格することができました。

父の教育への思い「船乗りには反対だ」

生い立ちの話に戻りますが、高校時代、工学分野に興味を持つ以前は“船乗り”になろうと考えていました。それというのも、我が家は父方の祖父の代からカツオの一本釣り漁船に乗っており、父も叔父も親戚も船乗りだったので、自分も将来は海に出るのが順当かな、と考えていたのです。とは言っても、私は魚を釣る方ではなくて、外国航路を周る船長になりたかったのですが。

しかし、私の父は「将来は好きなことをしてよい」と言いながらも、船乗りになることには反対していました。貧しさから大学へ進学することができなかった父だからこそ、子どもたちにはちゃんとした教育を受けさせたいと考えていたのだと思います。そんな両親の思いが功を奏したのか、私を含む4人兄弟の全員が進学校へ進学し、男3人は全員が医師に、妹は学校の先生になりました。

もし両親が家業を継ぐことを望んでいたり、医学部への進学を反対したりしていれば、こうして医師になることはしかったでしょう。

医師になったからには自分の手で助けたい——​​外科から救急科へ

千葉大学医学部を卒業後、最初にキャリアをスタートさせたのは“外科”でした。もともと緊急手術が好きで、薬で治すのではなく、自分の手で行う手術で患者さんを助けたいという気持ちが強かったためです。しかし、当時は“救急科”というものがなく、救命救急センターも全国にわずかしかなかったので、元より選ぶことができませんでした。

そこで外科に入局し、8年勤務した後、当時の上司である平澤 博之(ひらさわひろゆき)先生(現名誉教授)の紹介でアメリカのデューク大学(Duke University)へ2年間留学し、研究に励みました

その後、留学先を紹介してくれた平澤先生が千葉大学病院の救急部・集中治療部の初代部長に就任しました。それは千葉大の外科と救急が大きく分かれた分岐点だったと思います。当時の私も外科医ながら、救急医学会に所属していましたし、留学から帰国後の1988年には、救急部・集中治療部で働く道を選びました。そうして、現在は救急科統括部長として勤務しています。患者さんの生死に関わる救急の仕事は、とても大変な分野ではありますが、それにも勝るやりがいがあります。

若手医師に伝えたい“3つのこと”

私が若手医師の皆さんに伝えたいのは、“病気よりも人を診る”、“色んなことに興味を持つ”、“常に新しい知識に目を向ける”の3つです。

病気よりも人を診る

“患者さんのバックグラウンドまで考えてこそ最適な医療につながる”というのが私の持論です。患者さんは多種多様です。ですから、医師は必ずしも病気を治すことだけが正解なのではなく、その人に合わせたものを提供すべきであると考えています。入局した外科の先輩方が患者さんと真摯に向き合っていたので、私自身がそんな風になれたのは、先輩方の影響が大きいです。

色んなことに興味をもつ

人から頼まれたら断れない性分だということもありますが、何かを頼まれても、これは経験したら面白いかな? 将来自分の役に立つかな? という気持ちのほうがいつも勝ります。自分の得意なことしかしなければ、視野が狭まってしまいますから。

常に新しい知識に目を向ける

先代の千葉大救急治療医学の教授は、どんなときも学問や科学的な根拠に基づいた治療(アカデミック・クリティカルケア)を重要視していました。そのため、私が2代目の教授になったときは、その考えを踏襲しつつ、前教授のときからはじめた抄読会(しょうどくかい)*も引き続き行うことにしました。医師であればどんなときも新しい知識や科学の進歩に目を向けなければいけないと思ったからです。

*抄読会:医師たちの勉強会。定期的に開かれ海外の文献や論文を読み合う

行動規範を決めた“For Others”の精神

初めて聞いたのは高校生のときなのに、今でも忘れることができない言葉に“ For Others (人のために) ”というものがあります。これを教えてくれたのは、当時通っていた高校の栗山(くりやま)校長でした。

自分の人生に大きな影響を与えてくれたのは兄であり、次に先代の教授である平澤先生なのは間違いありませんが、私の精神的な部分の基盤になったのは、栗山校長の“ For Others ”だったと思います。栗山校長はいつも「自分のためにではなく、人のためになることをしなさい」と仰っていたので、3年間の高校生活ですっかり頭に刷り込まれましたのかもしれません。“ For Others(人のために) ”の精神は、医師になってからも私の行動規範になっています。

よい医療とは“患者さんのためになるもの”

私にとってよい医療とは、“患者さんのためになるもの”に尽きます。高度な医療は全ての方にすればよいというわけでも、末期患者さん全員に延命治療をすべきだとも思いません。

以前、エホバの証人である患者さんを診察したことがあります。その方は、ヘモグロビンの値が通常よりもグンと下がっていましたが、信仰上の理由で、輸血を拒否されていました。最終的に助けることはできましたが、どんなときでも優先するのは患者さんの意思ということには変わりはありません。だからこそ、適切な治療を選択する要素として、患者さんのバックグラウンドを知り、最先端の医療知識を知る必要があるのです。

そうやって日々多くの患者さんを診ていますが、うまくいくことばかりではありません。たとえば“臓器移植”です。移植を受ける患者さんや、術後の患者さんの集中治療、臓器を提供する方の脳死判定もこれまで担当してきましたが、臓器移植は全ての方に合うわけでも、100パーセントの方が必ず助かるという治療方法でもありません。患者さんが望む結果を出すことができなかったときは落ちこみますし、そんな時は家族が大きな支えになってくれます。しかし、医師として落ち込んでいるばかりでは駄目なので、過去の反省を前向きに捉え、次の医療へ活かすよう心がけています。

やって後悔した方が、やらないで後悔するよりもよい

2019の3月5日に、『症例から学ぶ救急集中治療医学』という最終講義を行いました。講義では、助けることは難しいだろうとされていた超重症患者さんの治療・回復症例を3人ご紹介したのですが、そのうちの2人の元患者さんが講義を聞きにきてくれたのです。講演後には花束までちょうだいし、そのときは感動のあまりうるっとしてしまいました。

また、当日の講義中にも紹介しましたが、私は“ Challenge ”と“ Just do it ”という言葉を大切にしており、「やって後悔した方が、やらないで後悔するよりもよい」という考えのもと仕事をしてきました。このマインドはぜひ後輩の医師たちにも伝えられればと思っています。

織田先生

専門分野の選択に悩む医師たちへ

若い頃は“興味がなくても取り組む”ことをモットーとし、後輩の医師たちにもすすめていましたが、今ではそれが必ずしも正しいわけではないと感じます。自分に合うものでないと続けることは難しく、結局は辞めてしまいますから。

長期に渡り救急科で働いてきて思うのは、ここはさまざまな症状の患者さんを助けることのできる診療科だということです。患者さんの腹痛ひとつとっても、多くの原因や症状があるために、判断に迷うこともあるでしょう。しかし、それが救急科の面白いところです。私のように“人が好き”で“あらゆる症状の患者さんと向き合いたい”医師には、救急科医の道をおすすめしたいですね。

ここだと思って決めた診療科が、必ず自分に合っているかなんて最初は誰にもわかりません。自分の性格や好きなものをよく考えて決めてみてください。

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