ハプロ移植の研究を進め、白血病に苦しむ患者さんを一人でも多く救いたい

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ハプロ移植の研究を進め、白血病に苦しむ患者さんを一人でも多く救いたい

常識に捉われず、血液内科の分野で治療と研究に尽力する小川 啓恭先生のストーリー

大阪暁明館病院 血液内科部長
小川 啓恭 先生

医学部に入り、医師としての職業の責任とやり甲斐を知った

両親からのすすめがあり、医学部を受験しました。実際に大阪大学医学部に入り、学んでいくなかで、医師の仕事は病気という人間の最大の災いを解消できる可能性があるというところにやり甲斐を感じましたし、身の引き締まる思いがしました。

もともと遺伝子に興味があり、血液内科か神経内科に進みたいと考えていました。研修医期間を終えて、関連病院で内科の診療を担当していたとき、“サラセミア”という遺伝性血液疾患の患者さんとその家族に偶然出会いました。サラセミアは、グロビン鎖の合成が障害されることでヘモグロビン異常をきたして発症する病気です。つまり、遺伝子レベルでの原因が解明されていたのです。当時は、今のようには病気の根本的な原因が分からないことも多かったように思います。そのような時代にあって、遺伝子レベルでメカニズムが解明できる可能性がある血液疾患の治療と研究に魅力を感じ、興味を惹かれました。これが、血液内科を目指すことになった理由です。

大阪大学には血液疾患を扱う講座(教室)が、微生物病研究所内科、旧 第二内科、旧 第三内科の3つありました。中でも、第三内科は自由で明るい雰囲気があり、なぜか心惹かれるものがありました。そのため、私は山村 雄一(やまむらゆういち)先生が率いておられた第三内科に入り、当時できたばかりの血液グループで臨床と研究を始めました。

白血病治療、恩師との出会い

かつて、白血病を治すことは“夢物語”でした。私が血液内科の世界に足を踏み入れた1980年代は、日本における骨髄移植治療の黎明期。私は、日本で早くから白血病に対する骨髄移植を行っていた大阪府立成人病センター(現 大阪国際がんセンター)で、正岡 徹(まさおか とおる)先生の下、最初に血液内科の研修を受けました。当時、大阪府立成人病センターをはじめ、黎明期の移植医療にあたっていた3施設では、移植に関しては連戦連敗の燦々たる状況でした。それでも、私は上記センターでの研修を通じて、血液を専門とする医師のレベルの高さを目の当たりにし、移植の難しさと血液内科医としての基本的な考え方を教わりました。

大阪大学の第三内科に戻ってきてからは、岸本 進(きしもとすすむ)教授、続く岸本 忠三(きしもとただみつ)教授の下、血液研究室の杉山 治夫(すぎやまはるお)先生のご指導で、血液の診療と研究に明け暮れました。

“診療も研究も世界のトップを目指す”という杉山先生の方針に沿って、連日、深夜まで研究室の全員が仕事をしていた記憶があります。特に、岸本忠三先生の手法とバイタリティには圧倒されました。すでに世界的な免疫学のオーソリティーであった岸本先生は海外の学会などによく出かけられていて、日本にいるのは週末くらいだったような記憶があります。病棟回診やカンファレンスのときには海外の学会で得た知見を披露し、私たちを鼓舞してくれたものです。

岸本先生がおっしゃっていた「他人と同じことをするな。二番煎じではなく、パラダイムシフト(常識/概念を変える)を引き起こすような新しいことにチャレンジしなければいけない。重箱の隅をつつくような仕事はするな」という言葉は、私の中にある、医師として、研究者としてのあり様に大きな影響を与えました。

ハプロ移植で、白血病の患者さんに治療の可能性を広げたい

小川先生

これまで、血液腫瘍疾患に対する診断や化学療法、造血幹細胞移植などの治療を行ってきました。私は、目の前の患者さんに対して、そのときどきで最高の治療をしてあげたいという思いが強かったと思います。そのためには、常識に捉われない姿勢を保つように心がけました。大学で診療を行い、研究をするものは、今でいうエビデンスだけにとらわれていては、何も生み出させないと思っていました。そのような基盤のなかで、独自の”ハプロ移植*”が生まれてきたと思います。そして、現在も、 “兵庫医科大学型ハプロ移植”の完成と普及活動をライフワークと捉え、取り組んでいます。

白血病に対する造血幹細胞移植のうち、ドナーから提供された造血幹細胞を使う“同種造血幹細胞移植(同種移植)”は、当初、血縁者間でHLA(白血球の型)が一致するドナーを見つける必要がありました。現在では、血縁にHLAが適合するドナーが見つからない場合には、骨髄バンクを介して骨髄の提供を受けることが可能ですが、骨髄バンクに登録後、ドナー/レシピエント間のコーディネートに長時間を要することが多く、その間に病状が進行してしまいます。また、血縁者でドナーが得られない患者さんに対しては、公的臍帯血バンクを介して臍帯血移植を行うこともできますが、生着不全や移植後の造血回復の遅延といったリスクがあります。このような課題を背景に、近年では、HLAが半分一致するドナーからの移植である“ハプロ移植”が数多く施行されるようになりました。

HLAが半分一致する確率は、親子間で100%、兄弟姉妹では50%、いとこは25%です。このように、ハプロ移植はドナー不足の改善に大きく貢献しました。これまでは、移植を必要としていても、移植可能なドナーが存在しないため、治癒を諦めた患者さんが多くいたことを考えると、ハプロ移植は白血病患者さんに治療の可能性という光をもたらす一助になっていると思います。

実際に、「もう治療は難しいので、ホスピスで緩和ケアを行いましょう」と言われて希望を失っていた患者さんが、ハプロ移植で治療することができ、元気になった姿を見られたときには、この上ないやり甲斐を感じます。

*ハプロ移植: HLA半合致同種造血幹細胞移植。血縁者の間でHLAが半分適合し、半分適合しないドナーから移植を行う方法

白血病で苦しむ患者さんを救うために、よりよい治療法を追求していく

血液内科で扱う病気にはさまざまな種類があります。そのうちのひとつである白血病は、先ほどもお話ししたように、かつて治らない病気でした。しかし、近年の血液疾患に対する診断、治療の進歩は目覚ましく、白血病に関しても徐々に有効な治療法が開発されてきました。

このように進歩を続ける血液疾患の治療、白血病の治療。そのなかで、いつも「目の前の患者さんに、その時代の最高と思われる治療を提供したい」という思いで診療にあたっています。

今後は、ハプロ移植、その中でも特に“兵庫医科大学型ハプロ移植”について基礎研究と臨床の両面からアプローチし、症例とデータを蓄積することを目標としています。そして、その成果を統計学的および科学的に証明し、そして白血病で苦しむ患者さんを救うために、よりよい治療法を追求していく所存です。

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