研究、そして技術に磨きをかけることで、生殖補助医療の可能性を広げたい

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研究、そして技術に磨きをかけることで、生殖補助医療の可能性を広げたい

恩師の言葉と経験を生かし、不妊に悩む夫婦をサポートする葉山 智工先生のストーリー

横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 女性不妊 講師
葉山 智工 先生

父の影響で“医師”という職業に興味を持ち、高校の先生の影響で研究の道へ

医師を志したのは、やはり父からの影響が大きかったといえます。父は地元の小児科医として地域に貢献していたので、私は、幼い子どもの病気と日々向き合う父の話を聞いて育ちました。

具体的に将来の進路について考えることになる中学生・高校生の頃は、生物学と文学創作に夢中でした。私に目を掛けてくださる国語の先生がいて、その先生に作品を見てもらい、文学作品を作り上げるのが、もっとも楽しかったです。しかし、その先生は高校在学中にがんになり、約半年にわたる闘病の後に亡くなりました。病床よりくださった手紙には、「君には、新しいものを発見し、さらには発表してゆく能力があるので、それを生かすように」と最期の指導の言葉が記されていました。それら二つのことが、私が医師、および研究に進むきっかけとなりました。

研修医として出向いた先で、婦人科さらには婦人科系の研究が身近な領域に

最初から不妊治療の研究に興味を持っていたわけではありません。医学部生だった頃には、内分泌系や神経系の領域に進みたいと思っていました。しかし、ちょっとしたきっかけで、思いは変わることもあるもので、研修医として横浜市立大学附属病院や当院の産婦人科に勤務していたときに、産科、生殖・生育医学に対して興味を惹かれたのです。

興味深いと感じるきっかけになったのは、当時、横浜市立大学にある産婦人科の主任教授だった平原 史樹(ひらはら ふみき)先生(現・国立病院機構 横浜医療センター 名誉院長)の指導でした。そこでは、平原先生が患者さんと遺伝病との付き合い方について話をしているところに立ち合わせていただいたり、内分泌や生殖、不妊などに加え、更年期の方や若い方へのホルモン治療、月経が不安定な方への治療を提供していたりしました。

そのように、平原先生は遺伝病や婦人科系の病気に対して、多くの経験がある先生でした。「この先生から多くのことを学びたい」そう思った私は、婦人科の領域に進むことを決意したのです。

恩師からの言葉を胸に、医師としての経験を積んでいく

これまでも婦人科の医師として日々さまざまなことを学んできましたが、なかでも恩師からの教えは、私が医師として研鑽を積むうえでの核となっています。

まず、平原先生がよくおっしゃっていた「優しさの中にScienceを、Scienceの中に優しさを」。この言葉は平原先生の座右の銘であり、教室のテーマでもありました。そして、今となっては、私自身の原動力にもなっています。また、平原先生は医師として必要な知識を与えるだけではなく、優しさを内包した厳しさを持って指導してくださいました。そんな平原先生のような医師になれるよう、今も尽力しております。

現・スタンフォード大学 教授の中内 啓光(なかうち ひろみつ)先生は、“自由にのびのびと、へこたれずにやる”を研究の基本スタンスとしている先生で、大学院生だった頃にお世話になりました。中内先生の、「自分がやりたいと思ったことは、まずはやってみなさい」という言葉も、私の心に大きく響きました。その言葉を受け、たとえばアメリカ留学中も自由に研究に励むことができましたし、また現在では後輩にもそんなふうに研究に取り組んでもらいたいなと思うに至っています。中内先生のお言葉で、私自身の考え方や価値観が大きく変わりました。

最後にもう一つ、アメリカ留学中にお世話になったオレゴン健康科学大学のシュークラト・ミタリポフ先生からの、「国に帰ったら、そこでトップランナーを目指しなさい」という激励の言葉も挙げたいと思います。私に、「アメリカで学んだ技術を、自分が先陣をきって日本に取り入れていくことが大切なのだ」ということに気づかせてくれたのです。私は、アメリカで胚の顕微操作技術を習得してきました。その胚の顕微操作技術は、まだ日本で治療として行われておりません。将来的に日本でも可能になったときには、患者さんのお役に立てるように尽力したいと思います。

患者さんに喜んでいただきたい、だからこそ研究を重ねて技術に磨きをかける

不妊治療はとてもデリケートな分野で、患者さんは身体面でも精神面でも負担を感じてしまうこともあるでしょう。どれだけ治療を受けたとしても、妊娠にたどり着かないケースもゼロではないのが現状です。そのなかで、持っている知識や技術を生かし、どれだけ私の中のベストを尽くせるのか。そして、その先に、患者さんから担当してもらってよかったと言っていただけると、大変嬉しく思います。

しかし、実際に治療をしていると、まれに悲しい事態に直面してしまうこともあります。過去に、妊娠には成功したけれど、赤ちゃんが死産になる可能性が高いというケースがありました。「何かしてあげられることはないのだろうか」と深い悲しみにくれる患者さんの姿を見て考えた末に、患者さんが望むのであれば、死産となってしまった場合であっても、赤ちゃんを抱っこできるようにしてはどうかと提案したことがあります。結果的に、残念ながら死産となってしまいましたが、患者さんの希望で、赤ちゃんを胸に抱いていただきました。当時はまだ死産児に対するグリーフケア*が一般的ではなかったのですが、担当したスタッフみんなで作ったささやかな贈り物を赤ちゃんの棺に入れました。そして、患者さんの心情に寄り添いながら、患者さんと共に今後についての話し合いも行いました。その患者さんはしばらくの時を経て、「葉山先生に担当してもらえてよかったから、次の子どもを授かりたいと思った」と来院してくださいました。

残念ながら、不妊治療を行ううえでは、つらい結果を受け入れざるを得ないこともあります。それでも、できる限りのベストを尽くして未来につなげる。それは、医師としての人生でとても大きなポリシーになっています。

*グリーフケア:悲しみを抱えた方が希望を持つことができるように支援を行うこと

不妊治療の可能性を開いていきたい

私は幸いにも恩師と出会い、非才な身ながら、世界で新しい生殖補助医療技術の研究をさせていただきました。その多くはいまだ日本では倫理的な話し合いの途上にあり、患者さんに医療として届けるには未熟でありますが、数十年のスパンで見ると未来のスタンダードになってほしいと思っている治療です。

それを可能にするために、今後も研究と臨床の両方に尽力し、患者さんにとって必要な医療が適した形で提供されるよう、これからも生殖補助医療の可能性を広げていけたらと考えています。

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  • 横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 女性不妊 講師

    2003年に横浜市立大学医学部を卒業。研修医時代に、産科や生殖・生育医学に興味を持ったことがきっかけで、産婦人科領域を選択。2008年からは神奈川県立こども医療セン...

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    葉山 智工 先生の所属医療機関

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