子どもを授かりたいという希望がある一方で、それが難しいという不妊症は、カップルにとってとてもつらい悩みといえます。デリケートな問題であるものの、安全かつ適切な形での妊娠と出産を迎えるには、早い段階からの治療開始が大事なポイントです。
今回は、横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センターの葉山 智工先生に、不妊症と不妊症に対する検査、治療内容、診療の際に意識しているポイントについてお話を伺いました。
不妊症とは、“子どもを授かりたい健康な男女が、ある一定期間避妊をしないで夫婦生活をしても、妊娠しない”状態を指します。ここでいう“一定期間”とは、以前では2年間だとされていましたが、2015年の日本産科婦人科学会の定義変更により、2019年12月現在では1年間が目安とされています。
不妊症の原因は、男性にも女性にもありますし、両方に原因があることもあります。性別ごとに見る不妊症の原因になりうるものとして考えられるものには、以下のようなものがあります。
女性に起こりうる不妊症の原因の一例
男性に起こりうる不妊症の原因の一例
おおまかには、女性側に原因がある場合には“排卵が適切に行われない”、“卵管が詰まっている”、“子宮内膜になかなか受精卵が着床しない”、男性側に原因がある場合には“妊娠に必要な精子を届けられない”ことが、不妊症の原因の大部分を占めています。
このように、不妊症の原因には、“男性側と女性側のどちらかに原因があるケース”と“男性と女性の両方に原因があるケース”があります。しかし、不妊症の原因は一概に特定できるわけではなく、原因が不明であることも少なくありません。
女性に不妊症の原因があると考えられる場合には、内診・経膣超音波検査や子宮卵管造影検査、ホルモン検査、性交後試験(Huhnerテスト)などを行い、不妊症の原因となるものを調べていきます。また、男性に原因があると考えられる場合には、精液検査や泌尿器科的検査が行われます。
本記事では、女性に行われる検査について、詳しく説明していきます。
※男性に行われる検査については、『精液検査とは―動いている精子がどれだけいるか』をご覧ください。
子宮内膜症や子宮筋腫、クラミジア感染などの病気がないかを調べるために行われる検査です。超音波プローブと呼ばれる超音波検査機器を膣の中に挿入し、子宮や卵巣の状態を検査します。刻一刻と変わる女性の性に関わる周期を正確に把握することが可能です。侵襲性が低いので、治療中も頻回に行います。
卵管の詰まりや子宮に異常がないかを調べることを目的としており、子宮の形や卵管の閉塞、卵管留水症、卵管や子宮周辺の癒着の有無を確認する検査です。やや痛みの伴う検査ですが、妊娠するためには重要な検査の1つです。
血液検査を通じて女性ホルモンの分泌、甲状腺機能に異常がないかを調べるとともに、妊娠が成立しやすい時期に必要な分の女性ホルモンが分泌されているかを確認する検査です。月経周期に合わせて採血を行い、妊娠に求められるホルモンの状態を把握していきます。
妊娠が成立しやすい日に夫婦生活(性交)を行い、翌日に女性の子宮頸管粘液を採取します。その採取した粘液の中に、直進運動精子が認められるかを調べる検査です。認められない場合には、抗精子抗体*などについて調べていきます。
*抗精子抗体:精子を攻撃する抗体。
当生殖医療センターでは、女性に原因がある場合の不妊治療において、タイミング法や人工授精などの一般不妊治療に加え、生殖補助医療の分野である“体外受精”、“顕微授精”、“受精卵の凍結”、“融解胚移植”、“アシステッドハッチング”なども行っています。また大学病院の附属の生殖医療センターなので、“内科と連携して高度な内分泌管理を要する症例”、“外科治療を必要とする症例”、“若年がん患者さんのための妊孕性温存治療”、“遺伝学的な問題と向き合う症例”などを近隣の施設よりご紹介していただき診療しております。
不妊スクリーニング検査を行ったうえで、治療を開始します。治療は、タイミング法から始め、医師が効果を期待できないと判断した場合には人工授精を行います。
生殖補助医療は、一般不妊治療での対応が難しいと判断された場合に検討される治療方法です。
当生殖医療センターでは、婦人科や泌尿器科と連携し、婦人科系疾患や男性不妊を対象とした外科手術を必要とする治療にも取り組んでいます。女性不妊を対象とした外科手術は、妊娠しやすい状況を維持したり、改善したりするために行われています。主に婦人科では、子宮筋腫や子宮内膜ポリープの手術を腹腔鏡・子宮鏡下で行っております。
※男性に行われる治療については、『男性不妊で行われる3つの手術とは?』をご覧ください。
がんや配偶子形成不全がみられる患者さんに対して行われる治療です。女性の場合には卵子あるいは受精卵、卵巣組織、男性の場合には精子を治療前に凍結保存することで、将来の妊娠する機能を消失させないことを目的としています。特に、若年性の女性のがん患者さんに対しては、“卵子凍結”、“受精卵凍結”、“卵巣組織凍結”などの治療方法があり、患者さんのがんの種類や進行具合、状況を踏まえて決めていきます。
妊孕性温存治療の費用は行われる治療により異なりますが、1回の治療あたりおおよそ35~50万円がかかります。また、初回のみ初診料+カウンセリング料(5千円〈税別〉)が必要となります。
基本的に治療としての副作用が現れることは少ないとされていますが、治療のために使用する製剤によっては吐き気や嘔吐などの副作用が現れることがあるため、主治医とよく相談のうえ治療を進めていくことが大切です。
生殖医療センターは、日本産婦人科学会より着床前診断(PGT-M、PGT-SR、PGT-A)を行うことを許可された認定施設です。詳細は省きますが、横浜市立大学附属病院 遺伝子診療部と連携し、適切な遺伝カウンセリングを行ったうえで、取り組んでおります。
当生殖医療センターでは、不妊症に悩んで来院される患者さんに対し、積極的にコミュニケーションを図ることを大切にしています。
不妊症の悩みは大変デリケートなもので、長期間にわたる治療から不安やストレスを抱えていらっしゃる患者さんも少なくありません。その背景を踏まえ、患者さんのお話をしっかりと聞くだけでなく、患者さんの心理的な負担を少しでも軽くできるよう、少しでも心を開いてお話しいただけるような環境を整えるべく努めています。たとえば、医師に直接話しづらい悩みがあれば、看護師にご相談いただけるよう日本看護協会が認定する不妊症看護認定看護師も在籍しています。そのように、患者さんの不安を解消したうえで前向きな気持ちで不妊治療に臨んでいただけるよう、生殖医療センターや婦人科のみにとどまらず、病院全体で協力した診療体制を目指しています。
不妊症はとてもデリケートでつらい悩みですが、妊娠と出産を望まれる方には気軽にご相談いただきたいと願っています。
また、妊娠を希望される場合には、できるだけ早く不妊治療を始めていただくことをおすすめします。妊娠の成功率は、年齢を重ねるごとにだんだんと下がっていくといわれており、不妊治療では精神的にも体力的にも負担がかかりやすい側面があることから、それらを軽減するためにも、早めの治療開始が適しているといえます。
ご自身では難しいと思っていても、検査や治療を進めるなかで可能性が見えてくるケースも少なくありません。だからこそ、早い段階からの治療を考え、可能性があるときに行動することが理想です。ぜひ、ご自身たちだけで悩まずに、私たちに相談していただきたいと思います。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 女性不妊 講師
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 女性不妊 講師
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医
2003年に横浜市立大学医学部を卒業。研修医時代に、産科や生殖・生育医学に興味を持ったことがきっかけで、産婦人科領域を選択。2008年からは神奈川県立こども医療センターの産科、2009年からは横浜市立大学の産婦人科学教室にて自己研鑽を積む。
2014年には米国にあるオレゴン健康科学大学の胚遺伝子治療センターに渡り、生殖補助医療に対する研究に参加。帰国後は、横浜市済生会南部病院の産婦人科に勤めたのち、2019年からは横浜市立大学附属市民総合医療センターの産婦人科 生殖医療センターにて不妊症に悩む患者さんを中心に医療の提供を行っている。
葉山 智工 先生の所属医療機関
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