“自分だったらこんなふうにしてほしい”という医療を実践したい

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“自分だったらこんなふうにしてほしい”という医療を実践したい

治療を通じて患者さまの人生にも寄り添う金城 瑞樹先生のストーリー

神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床教授、東林間/鶴間 かねしろ内科クリニック 理事長、杏林堂クリニック 院長
金城 瑞樹 先生

自分が助けられた医療の世界に恩返しがしたいという思いで医師に

幼い頃に小児喘息を患っていたため、度々発作を起こしては、夜中に病院で点滴や吸入をしてもらったり、入院したりという幼少時代を過ごしました。症状が悪化して、大学病院に行くようなこともしばしば。そのことが影響してか、物心ついたときには「医師っていい仕事だな」と感じ、医療に対する感謝の気持ちが芽生えていました。幼い頃から音楽が好きだったのでオーケストラの指揮者になりたいと思ったり、考古学への憧れを抱いたりしたこともありましたが、成長していくなかで、医師の道が一番自分に向いているのかなと考えるように。何より自分が患者として医療や医師に本当にお世話になったので、私自身が医師になることで医療の世界に恩返しができればいいなという気持ちがありました。それが医師を志したきっかけです。

出会いが導いた、糖尿病診療への道

横浜市立大学医学部に入った当初は、小児喘息の経験をふまえて小児科医になろうと思っていました。ところが、大学5年生の頃に田中(たなか) 俊一(しゅんいち)先生(現・医療法人みなとみらい 金沢内科クリニックグループ 理事長)の糖尿病の授業を受け、それがとても面白く、一気に糖尿病診療への興味が湧きました。その感情のままに田中先生の門をたたいたところ、「毎週、勉強に来い」と言っていただけたのです。

それから、毎週のように医局に遊びに行き、大学院の先生をはじめとする多くの先生方、糖尿病分野の大先輩方にかわいがっていただきました。普通、学生は医局に入り浸ったりしないので特殊な経験でしたが、とても幸せなことだったと思います。先生方とは、ありがたいことに今も交流が続いています。皆さん、今も多方面でご活躍されていますから、助けてもらうことも多々。そして、私ができることは微力ながら協力させていただいています。

この医局にとどまらず、学生時代の出会いは今の私に多大な影響を与えています。大学時代、硬式テニス部に所属しており、この部活動を通じて入学当初から上級生と垣根なく接することができました。1年生にとって、5年生や6年生というのは口もきけないほどの雲の上の存在です。しかし、テニス部での活動のおかげで、当時から今も変わらず交流が続いています。皆さんさまざまな分野でご活躍されているので、「病診連携をしましょう」といったようなお話をいただくことも。結果的に、当クリニックの患者さまが病院での治療が必要になった場合は病院で診ていただき、状態が落ち着いたら当クリニックに戻ってくる、という病診連携の体制が整いました。

今振り返ると、改めて私自身は学生時代の出会いに支えられていると感じていますし、通ってくださっている患者さまに還元できているのではないかなと思います。

患者さまの背景や人生観をも尊重したい

糖尿病の患者さまを診療するうえで目標としているのは“できる限り合併症を起こさずに元気に長生きして楽しい人生を送っていただく”ことです。

糖尿病というのは単に血糖値が高くなる病気ではなく、生活習慣病の中でもさまざまなことが複雑に絡み合い、よくするのがなかなか難しい病気です。厳しい食事制限や運動を行わないとよくならない。では、それを実施すればよいと思われるかもしれませんが、それらは医師である私でも“実行できるだろうか”と不安になるほど厳しいものです。

医師になりたての頃は、血糖値やHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)といった糖尿病の数値ばかりを追っていました。数値を改善するためには生活に制限が必要となりますから、当然、患者さまにもそれを求めます。しかし徐々に、これは患者さまにとって幸せなことなのだろうかと疑問を感じるようになりました。

それからというもの、患者さまの置かれている社会的な背景や人生観といったものをできる限り尊重しながらも、病気を治療していく道を模索する必要性を感じるように。であれば、患者さまが命を落とす可能性のある合併症、心筋梗塞や脳梗塞へのケアを重視することが重要だろうと思い至りました。ひいては患者さまの血管がどうなっているのか、動脈硬化がどこまで進んでいるのか、これらをまず把握しようと。その結果、心筋梗塞、脳梗塞の発症数が改善されたのです。

もちろん糖尿病網膜症の予防のために眼底出血もチェックします。透析が必要にならないように腎臓のケアも行います。このように動脈を中心とした治療をし、眼底出血や腎臓に関してもフォローすることで、糖尿病およびその他の高血圧症、脂質異常症などの病気、生活習慣病の患者さまが命に直結する合併症におびえることなく、人生を謳歌(おうか)できる状況が作れるようになりました。

金城瑞樹先生

患者さまのために携帯電話は常時オンコール

驚かれることが多いのですが、私は患者さま全員に携帯電話の番号をお伝えしており、「診療時間以外の時間帯、夜中や休日であっても、本当に困ったときはかけてください」とお話ししています。これは、患者さまにとって、体調の異変に備えるお守り代わりのようなもの。私としても、連絡をいただければ状況に応じた最善の策を講じることができます。

今でも思い出すと泣いてしまいそうになる患者さまがいらっしゃいます。30歳代の男性患者さまから日曜日の朝に電話をいただいたことがありました。「昨夜から右半身の動きが悪い」とおっしゃいます。私は脳梗塞を疑い、病院と救急車の手配を行いました。電話から30分後には治療が開始され、その後、後遺症もなく回復されました。「先生が日曜日に電話を受けてくれたおかげです」と言ってくださいましたが、私はただ電話を受けて必要な手配をしただけ。それでも、結果的に素早い対応につながり、患者さまの命を守ることができたので、本当によかったなと思います。この患者さまは遠方に引っ越されたのですが、今も定期的に通ってくださっています。それが私にとっても本当にうれしいことなのです。

私の携帯は常にオンコールです。大変ではない、というとうそになるかもしれませんが、私の携帯電話の番号を知っていることが患者さまの安心につながれば、それでよいと思っています。何より、患者さまの命を救うことにつながるのなら、医師冥利(みょうり)に尽きます。

かつても、そして今も怒ってくれる存在

お世話になった先輩、先生方はたくさんいらっしゃいます。中でも恩師といえるのは、中島(なかじま) (しげる)先生(現・中島内科クリニック 院長)です。

医師になって2年目の頃、大学病院で糖尿病専門外来を持たせていただき、中島先生に本当にゼロから糖尿病を教えていただきました。単に糖尿病の知識だけではなく、糖尿病の患者さまとどのように関わり、気持ちを理解するかということを深く学びました。

ほかにも新しい病院の糖尿病専門外来の立ち上げや、大学で行う糖尿病のイベントといったさまざまな新プロジェクトをご一緒させていただきました。それらをとおして、医師として・人としての知識や経験を得て、さらに精神的にも成長できたのです。

中島先生が開業される際には、副院長として中島内科クリニックで外来を担当させていただきました。今だから言えますが、本当はそのまま中島先生の後についていこうという漠然とした思いがありました。しかし、しばらくしてから中島先生が「おまえも開業しろ」と、背中を押してくださったのです。「なんて心の大きい人だろう」と思いました。一般的には後進を育てて都合よく使うこともあると思うのですが、中島先生はあっさり手放した。そのおかげで今の私があります。中島先生がいなければ、今の私の医療はありません。

もう1つうれしいのは、中島先生は今も私を叱ってくれること。「これは駄目だぞ」と容赦なく一喝してくれます。この歳になると誰も叱ってくれませんから、本当に貴重でありがたい存在ですね。

クリニックが家族のような存在になれるように

誰しもが、いつまでも元気に楽しく生きていきたいという思いを持っているでしょう。糖尿病の患者さまについていえば、元気に楽しく生きていくためには、糖尿病の治療を行いつつ、合併症などの事故が起きないようにすることが大きな目標になります。それを実現するためには、定期的にクリニックに通っていただかなくてはなりません。ですから私たちは、患者さまに“通いたい”と思っていただけるようなクリニックであることを重視しています。そのために、クリニックが患者さまにとって家族のような存在であることが大事だと思うのです。

患者さまの家族になるためにはどうしたらいいか、という模索の結果ともいえますが、私たちはいくつかのイベントを開催しています。たとえば、“かねしろウォーク”。皆で楽しくワイワイお話をしながら歩くイベントです。どれくらいの距離を歩くと低血糖が起きたり足が痛くなったりするのかなど、このイベントで分かることはたくさんあります。もちろんスタッフを配置しているので、何かあればすぐに対処します。患者さまに生活のなかで気をつけるポイントをお伝えすることができる、楽しさあり、教育ありのイベントです。

また、糖尿病の患者さまにとってはやはり食生活が大事なので、管理栄養士が作った食事を食べて体感していただく“かねしろキッチン”というイベントも行っています。「こんな工夫をすると、おいしい物が作れるのか」という発見があるようです。

また、1型糖尿病を中心としたインスリン注射をやっている患者さまのための“かねしろトーク”も年に数回行っています。インスリン注射をしていて困ったことを共有したり、共感できる仲間を持ったりすることで、皆さまが治療を頑張れるような環境を作ることを意識しています。

ほかにも、患者さまの才能を発表していただく“かねしろ文化祭”も行っています。絵を描いたり、陶芸をしたりと、皆さん多才なのです。それらを展示して、「こんな素晴らしい方がいるのだな」と、相互理解を深めています。

一般の方に向けた“糖尿病教室”も開催しています。糖尿病がどういう病気なのか、合併症や治療法などについて1時間半かけてみっちりお伝えするのです。この糖尿病教室に参加された方からは、糖尿病への理解が深まったというご意見をいただきました。

目指す医療のあり方

私が目指す医療というのは、ただ採血をして数字を見て薬を出すという診療ではなく、患者さまが楽しく過ごし、長生きできる治療を提供することです。そのために、“自分だったら、もしくは自分の家族だったらこんなふうにしてほしい”という医療を実践しています。

私にとって当クリニックのスタッフは家族であると考えていますが、患者さまも同じ家族だと思って診療をしています。これからもその理念を変えずに、患者さま、スタッフと共に歩んでいきたいと思っています。

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