神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床...
金城 瑞樹 先生
鶴間かねしろ内科クリニック 院長
朝倉 太郎 先生
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
内門 大丈 先生
医学部を目指す中高生のためのイベント『医学を志す』が、2018年3月18日に聖光学院で開催されました。
3回目の開催となった今回は、WHOで活躍された経験を持つ医師 小野浩一先生の講演会と、グループワーク、医師・医学生との交流会、個別相談会なども設けられ、医師という職業を深く知ることができるイベントとなりました。
本記事ではこのイベントの様子をお伝えします。
(前回の『医学を志す』の様子は、『医学部を目指す中高生のためのイベント 第二回「医学を志す」レポート』をご覧ください。)
本日は、医師に興味を持って医学部を目指している中学2年生から高校2年生までのみなさんが集まっています。
中学生・高校生は、これからいろいろな知識や経験を積み重ねていく年齢です。しかし、日本では皆さんの年齢で「医学部へ行く!」「医者になる!」と決めなくてはいけません。そのため、漠然とした医師へのイメージだけで進学を決め、実際に医学部に通いだしてから「あれ、こんなんじゃなかった」となってしまう人も少なからずいます。
この「医学を志す」という企画は、みなさんに医師という職業をより理解してもらうために立ち上げました。
また、私は15年医師をしていますが、素晴らしい医師に数多く出会ってきました。その医師たちが、どのような気持ちで医学に向き合っているのかを知ってもらうと同時に、医師の多様な活躍の仕方についても知っていただきたいと思います。
この「医学を志す」という企画で、いろんな形で活躍しているドクターの仕事を知ってもらい、皆さんの「志」がより具体的なものになってくれたら良いと思っています。
今回の講師は小野浩一先生です。小野先生は眼科医であるとともに、公衆衛生学のスペシャリストです。名古屋市立大学を卒業後、公衆衛生学分野で有名なジョンズ・ホプキンズ大学を経て、WHOで活動されました。そこで発展途上国の医療政策などに関わり、特にラオスにおいてはトラコーマ*の撲滅の達成に関わられました。現在は順天堂大学眼科学にて准教授を務め、眼科医として活躍されています。今回は、世界の保健機関に所属し、国際的な活動を経てきた小野先生より、医師のキャリアパス、そして公衆衛生学について講演いただきます。
トラコーマ:目に発症する感染症のひとつ。結膜の炎症を引き起こし、感染を繰り返せば失明に至ることもある。
一般的に医師とは、病院やクリニックで「患者を診る人=臨床医」と捉えられがちです。
しかし、臨床以外のさまざまな分野で活躍している医師もいます。
たとえば、研究者や、厚生労働省や国連、ユニセフなど行政や公的機関、WHOなど世界的な保険機関で働くという道があります。
私が勤めていたWHOでは、公衆衛生という領域に、世界中の医師が携わっていました。
公衆衛生とは、病気の予防や、早期発見、早期治療を推進する分野です。日本でいえば、保健所で行われるような仕事の多くが、公衆衛生に関連するものといえます。
たとえば、みなさんに身近な、インフルエンザやHIV、梅毒といった感染症の予防や、学校保健(学校の保健室での活動)なども、公衆衛生の領域です。そのほか、四日市ぜんそくや水俣病などの公害について、原因となる毒物を見つけたり、毒物と病気の因果関係を見つけたりすることも、この分野の取り組みです。
こうした取り組みによって、苦しんでいる多くの人々の治療への道筋をつける、ということが公衆衛生の大切な役割です。
このように公衆衛生は、地域や国、世界という広い視野で、病気の予防や早期発見、早期治療をする役割を担っています。
さて、私が公衆衛生を学ぼうと思ったときに、当時は、日本には学ぶ環境と教える人が少なく、海外に行くしかありませんでした。そして、日本の常識と海外の常識は、大きく異なることを理解しました。
たとえば、薬物中毒を例にとります。
日本では、薬物の乱用そのものを禁止しています。
一方、アメリカやヨーロッパでは、薬物の乱用そのものを止めることが難しい場合、薬物乱用を止めるのではなく、注射針の使いまわしをなくして、B型肝炎やHIVなどの広がりを抑えることに注力します。そのため、薬物を使った注射針を回収し、新しいものを無償で提供するようなことも行われることもあります。
もちろん、この方法が人道的と言えるかどうか、議論の余地は多分にありますが、このように日本の常識と海外の常識は、大きく異なるのです。
私がWHOで行ったラオスでのトラコーマの撲滅についてお話を進めたいと思いますが、まず、トラコーマという病気についてお話しします。
トラコーマは、クラミジア・トラコマチスという細菌によって引き起こされる結膜の炎症で、気温が高く乾燥した、発展途上国に多い病気です。2016年にWHO(世界保健機関)が発表したデータによると、トラコーマによる失明もしくは失明の恐れのある人は190万人という報告があります。
トラコーマはハエが媒介します。菌を持ったハエが顔や目に触れることで感染が誘発されます。劣悪な衛生環境からは多くのハエが発生するため、トラコーマが流行します。その結果、何度も感染を繰り返し、失明に至ってしまうわけです。
日本であれば、トラコーマのような結膜の感染症は、眼科で治療すればその多くが治ります。ちなみに日本では、1960年代までは確認されていた病気ですが、すでに撲滅しています。
一方、ラオスのような発展途上国では、日本のように治療できる環境はとても少なく、悪くなる前に治療をしなければ、感染の連鎖や失明する人が抑えられません。
また、発展途上国では、薬を買うお金があるのか、処方した薬をきちんと使ってくれるのかといった「環境」のことにも注目しなければなりません。つまり、目の前の病気のことだけでなく、患者の環境や行動まで視野を広げて考えなければならないのです。
病状が重症化する前に治療をすれば、トラコーマで失明する人は減らせます。でも、それでは撲滅につながりません。
撲滅をするためには、病気の感染源を断たなければいけません。そのためには、治療よりも予防のほうに注力すべきだ、という考えにたどり着きます。
たとえば、感染の媒介であるハエの発生を抑えるために、「木陰がすべてトイレ」ではなく、穴を掘るだけの簡易トイレの作り方や使い方を教えるだけでも、衛生環境は改善します。
加えて、ハエを捕まえる罠をペットボトルで作ったり、その方法を教えたりします。このとき、高価なハエ取り装置をプレゼントするのではなく、壊れても自分たちで直せる仕組みを教えることで、その後も継続して対策していくことを促します。
そして、このような仕組みや仕掛けを使い続けてもらえるよう、実践したことを評価していく機会のきっかけをつくり、活動をコントロールしていくことも、とても重要です。
このように、トラコーマに対して、早期発見、早期治療という医学の基本に立ち返りながら、治すよりも予防することが大切だという優先順位をつけ、対策を実践していくことが必要です。
こうした活動を通して、トラコーマへのアプローチを加速させていくことで、私たちはついには撲滅という結果を出すことができました。
私のラオスでの「トラコーマの撲滅」という経験を踏まえて、問題を解決するためのロジカルシンキングの5つのポイントをぜひ身に着けてほしいと思います。
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5つのポイントの中でも「優先順位をつける」ことは大切です。
トラコーマの撲滅では、治療以上に予防が必要であると判断し、予防に関する取り組みに注力しました。目の前のことだけでなく、広い視野で中長期の視点で優先順位を導き出せるかどうかが重要です。
そして、取り組みを実行するだけでなく、失明者数や結膜炎の割合など測定可能な数値を用いて、実践の結果を評価することも重要です。モニタリングを行いながら改善策を講じることで、問題をよりよく解決していくことができます。
中高生のみなさんには少し難しいところもあるかもしれませんが、ぜひ問題解決のためのロジカルシンキングを身につけて、さまざまな問題に取り組んでいただきたいと思います。
小野先生の講演後は、実際に「問題を定義する、問題の規模を把握する、優先順位をつける、実践する、評価する」というステップを踏みながら問題を解決していくグループワークが行われました。
テーマは「中高生のスマホ依存」です。グループに分かれて医学生スタッフのサポートのもと、それぞれが積極的に自分の意見を出し合い、活発な議論が行われました。
まず「スマホ依存」についてどのようなことが問題であるかを考えます。今回はスマートフォンやタブレットを使って、スマホ依存の現状を調査しながら意見を出し合いました。
グループで話し合いながら、付箋と模造紙を使って意見をまとめていきます。
グループで意見をまとめた後は、意見の発表が行われました。各グループからさまざまな意見が出されました。
<問題の定義>
<問題の原因>
<問題解決の方法>
今回のグループワークでは、議論の結果だけでなく、「なぜこのように考えたのか」という議論の過程についても発表が行われました。
発表が終わると小野先生より総評がありました。
小野先生:
「このテーマは、企業などが仕事として考案するとなれば1日がかりで検討するような内容です。それを今日は45分間という短い時間でよくまとめてくれました。問題解決に向けて積極的な議論が行われてよかったです。気付いた点としては、実現可能性についてもっとコミットして考えられたらよいと感じました。挙げていただいた意見のなかでは『アプリやゲームを開発する』『通信会社に規制を作ってもらう』といったものがありましたが、これらはどれほど実現が叶いそうでしょうか。より実践的に、という観点もぜひこれから取り入れてもらえたらと思います。」
グループワークの後は、本イベントに招かれていた現役医師の先生方から、参加者のみなさんへメッセージが送られました。
内門大丈先生(湘南いなほクリニック院長):
「医師という職業は、一人の患者さんにどのように寄り添うか、という人としての道徳心が大切な仕事です。人間としての力を高めて医師を目指してほしいと思います。」
稲森正彦先生(横浜市立大学医学部 医学教育学主任教授):
「グループワークで中高生のみなさんが、優先度や重要度、実現可能性を考慮しながら短時間で意見をまとめていたことに感心しました。このように周りと助け合い、取り組む姿勢は、医師になってから『多職種連携』というかたちで求められるものです。ぜひこの姿勢を今後に活かしていっていただけたらと思います。」
井上祥先生(株式会社メディカルノート取締役):
「今日は『公衆衛生』という分野に初めて触れた方もいたのではないでしょうか。社会に出ると初めての内容にどんどん立ち向かっていかなければなりません。今日のイベントはよい訓練になったのではないでしょうか。医師になるまでには大変なことがたくさんありますが前向きに取り組んでほしいと思います。」
続いて自治医科大学医学部 心理学研究室教授の髙瀬堅吉先生が、「医学部に求められる学生とは?」というテーマで医学部入学者に求められる能力についてお話しされました。
皆さんは、医学部で求められているのはどんな学生かご存知でしょうか。『医学部ではどんな学生が求められるか』と質問すると、多くの人は、筆記試験で問われる頭の良さ、面接から伝わる性格、そして意思の強さではないか、と答えます。
しかし実は求められる学生像は学校・学部によって異なり、その基準は学校のホームページなどに明記されているのです。
各大学が定める『3つのポリシー』を聞いたことがあるでしょうか。
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この3つのポリシー(理念)をみると、入学者に求める能力が具体化されています。これらは文部科学省 中央教育審議会のガイドラインで定められており、各大学のポリシーの策定内容が厳しく評価されています。そのため各大学は3つのポリシーをしっかりと描かないといけません。医学部を目指すみなさんには、これらのポリシーをしっかりと確認して医学部を選ぶことが望ましいでしょう。
また、将来みなさんが医師になる時代には、高齢者が増え、地域との連携が医療業界のトレンドになっていきます。そういう時代に求められる医師像と自身がマッチするかどうかも検討するとよいでしょう。そして医師には「臨床医」だけでなく、研究・行政・産業といった活躍の場もあります。臨床医の適性がなくても、違うかたちで医師として活躍する道があるということも確認してみるとよいでしょう。
どのような場所でも「求められる人材」というのは「適性がある人材」ということです。
適性があるということは、「志」を持っていること、そして「環境が合っていること」で決まると思います。志はもちろん必要ですが、志を持って活動したいと思っても、取り組みがその環境で求められていないときは、その場での適性があるとは言えません。
ですから自分の適性をよく知り、適性のある環境を選んでいくことはとても大切なことでしょう。今日の話からさまざまなことを吸収し、自分の適性を調べていけたらよいのではないかと思います。
続いて、高野橋夏月さん(自治医科大学3年生)、木山拓海さん(日本大学3年生)のお二人から医学部を目指すみなさんへメッセージが送られました。
高野橋さんは、実際の時間割や友人とのエピソードを紹介しながら、学生生活について具体的にお話しされました。
高校時代に水泳の大会で全国2位という成績を残した木山さん。課外活動と受験勉強の両立のコツをお話しされました。
最後に医師・医学生との交流・個別相談の時間が設けられました。
毎回好評のこの企画は、医師や医学生に受験や学生生活、医師という職業についてざっくばらんに質問ができる貴重な時間となっています。
次回の「医学を志す」は、八戸市立市民病院 院長兼臨床研修センター所長の今明秀先生をお招きして、2019年8月19日に開催を予定しております。興味のある中高生の方々は参加してみてはいかがでしょうか。
▼以下より直接参加申し込みができます。
神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床教授、東林間/鶴間 かねしろ内科クリニック 理事長、杏林堂クリニック 院長
鶴間かねしろ内科クリニック 院長
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
金城 瑞樹 先生の所属医療機関
朝倉 太郎 先生の所属医療機関
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医
1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。
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