神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床...
金城 瑞樹 先生
鶴間かねしろ内科クリニック 院長
朝倉 太郎 先生
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
内門 大丈 先生
2017年8月20日、医学部を目指す中高生を対象にしたイベント「医学を志す」が、聖光学院にて開催されました。これは、現役医師と医大生(主に横浜市立大学の学生)から構成されたAVENUE Educationのみなさんが主催となり、講演やグループワーク、質疑応答などを通じて医学とは何かを考えていくイベントで、今回で2回目の開催となりました。(第一回「医学を志す」の様子は『医学部を目指す中学生・高校生のためのイベント 第一回『医学を志す』 レポート』をご覧ください。)本記事ではこのイベントをリポートします。
AVENUE Educationは医学部を目指す中高生に対し、医師の持つ価値観を共有し、医師になるための明確なビジョンを持った教育を提供する、現役医師と医大生(主に横浜市立大学の学生)からなるグループです。SNS を使った医療情報の提供から、講習会・家庭教師指導による受験指導まで、医学部を目指す中高生をサポートしています。
そのAVENUE Educationが企画・運営するイベントである「医学を志す」は、講演やグループワーク、質疑応答などを通じて中高生のみなさんが医学についてじっくりと考えることができるようなプログラムとなっています。2回目の開催となる今回は、医学部を目指す中高生が約80名集まりました。
はじめに、東林間かねしろ内科クリニック院長の金城瑞樹先生、鶴間かねしろ内科クリニック院長の朝倉太郎先生による開会の挨拶・イベントの趣旨の説明が行われました。
お二人の先生方からは「医学部を目指すということは、医師を目指すということ。明確な動機をもって医師を目指してほしい。」とメッセージがありました。
続いて内門大丈先生(いなほクリニック)による講演が行われました。内門先生は、いなほクリニックグループ共同代表、湘南いなほクリニック院長を務めており、認知症在宅医療を推進しています。
今回は「医師という仕事〜多くの死と向き合う中で」というテーマで、内門先生ご自身の現在・過去・未来についてお話しされました。
以下、内門先生の講演内容です。
私はいなほクリニックグループの共同代表として、在宅療養支援診療所を運営しており、通院が困難な患者さんを24時間365日体制で診療しています。私が院長を務める湘南いなほクリニックは、全国におよそ4%しかない精神科を標榜している在宅療養支援診療所で、私は特に認知症の診療に精力的に取り組んでいます。
さて、みなさんは認知症についてご存知でしょうか。人間は年齢とともに体のさまざまな機能が低下していきます。通常は知識、記憶言語など知的な機能である認知機能も年齢とともに緩やかに低下していきますが、認知症の患者さんはあるときから急速に認知機能が低下してしまいます。
高齢化に伴って日本では認知症の患者さんが増加しており、2025年には65歳以上の5人に1人が認知症になるといわれています。
先ほど述べたように認知症の患者さんは増加していますが、それにもかかわらず認知症の専門医は少ないのが現状です。たとえば平塚市内で日本老年精神学会の専門医資格・日本認知症学会の専門医資格の両方を取得しているのは現時点で私のみですので、いかに専門医が少ない分野であるかわかっていただけるかと思います。さらに在宅医療において認知症を専門で診ている医師は全国的にもかなり少数で、みなさんが医師になる頃もこの分野の人材は不足していると考えられます。ですから、医師としてこういう選択肢もあるということをみなさんにはぜひ知っていただきたいです。
ここからは私の過去についてお話ししたいと思います。私は小学生のときに読んだ、徳田虎雄先生と井村和清先生の著書がきっかけで医師を志すようになりました。徳田先生の実弟を亡くした経験から医師を目指したエピソードや、井村先生の自らが病に蝕まれながらも最期まで医師として生き抜いた姿勢に、幼いながらも非常に感銘を受けたのです。また、私自身が実体験として家族の死を経験したことも大きなきっかけとなりました。私には姉がいましたが、私が生まれる前に喘息で亡くなってしまいました。もし私たち家族に医学的知識があれば、姉は亡くならなかったかもしれないと考えた私は、医学的知識の普及の重要性を感じ、現在は認知症の分野で啓発活動にも力を入れています。
私の実家は自営業で、金銭的に苦しい時期もあり、高校生のときにはファストフード店でアルバイトをしていました。大学に入ってからはロッカーの搬入、レンタルビデオ店、パチンコ店、飲食店、家庭教師、葬儀社などさまざまなアルバイトを経験しました。特に葬儀社では約4年間働き、ここで人の死と向き合った経験が今の仕事につながっていると感じます。
2004年より2年間、レビー小体型認知症を発見した小阪憲司先生(横浜私立大学医学部名誉教授)の後押しもあって、幸運なことに成績優秀でなければ留学が難しいといわれている米国フロリダ州のメイヨークリニック・ジャクソンビルに留学しました。留学中は4本の筆頭著書論文、10本の共著論文を執筆するなど日々研究に没頭していました。そして、今年度改定となったレビー小体型認知症の新しい診断基準の論文(McKeith IG et al. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: Fourth consensus report of the DLB Consortium. Neurology 2017;89(1):88-100) のリファレンスの中に留学中に発表した2本の論文も引用されました。(Uchikado H, Lin W-L, DeLucia MW, Dickson DW. Alzheimer disease with amygdala Lewy bodies: a distinct form of alpha-synucleinopathy. J Neuropathol Exp Neurol 2006;65:685–697.) (Fujishiro H, Tsuboi Y, Lin W-L, Uchikado H, Dickson DW. Co-localization of tau and alpha-synuclein in the olfactory bulb in Alzheimer's disease with amygdala Lewy bodies. Acta Neuropathol 2008;116:17–24.)
私がここでお伝えしたいのは留学中の実績ではなく、医療というのは自分一人の力で行えるものではないということです。みなさんが取り組んでいる受験勉強は一人でコツコツと努力する部分が大きいかもしれませんが、医療というのは多くの人たちの協力が必要です。2年間の留学によって、研究はもちろんのこと、あらゆる場面でチームとして団結することの大切さに気づくことができました。
ここまで私の現在・過去をお話ししましたが、未来というのは誰にもわかりません。しかし私は、未来というのは現在の延長線上にしかないと考えています。つまり現在の自分が何を考え行動しているのかということが大切です。
みなさんはなぜ医師を志すのでしょうか。私は医師を志す理由はなんでもいいと思っています。しかし、みなさんには、次の3つのことを心に留めていてほしいと考えます。
・普遍的な価値を大切にする
たとえば困っている人がいたら手を差し伸べよう、悲しんでいる人がいたら話を聞いてあげよう、というような普遍的な価値というのはやはり大切であると考えます。
・つながりを大切にする
私が小阪先生に出会ったことやメイヨークリニックに留学できたこと、いろんな研究に携わることができたこと、そしてこの場にいることも人と人とのつながりがあったからこそだと感じます。
・継続することを大切にする
私は1998年頃から認知症に携わるようになり、今ではこうして私の取り組みに興味を持ってくださった方から声をかけていただけるようになりました。しかし、まだ長い道のりの途中であると日々感じています。医師になるということは決してゴールではないのです。私はライフワークとして認知症に向き合っていますが、これからも大きなことを成し遂げようとするのではなく、日々小さなことを積み重ねていくという姿勢を忘れずに医師を続けていきたいと考えています。
内門先生の講演後は「認知症と共生する社会を創るにはどうすれば良いか?」というテーマで、グループワークが行われました。
中高生がそれぞれグループに分かれると、まず医学生のサポートのもと認知症がどのような病気であるか、認知症と共生するためにはどのようなことが必要であるか意見を出し合いました。
認知症の問題点や、具体的にどのように認知症と共生していくのかを話し合いながらまとめていきます。
グループでの話し合いの際に、積極的にリーダーシップをとり、発言している生徒さんがいらっしゃったので、お話を伺うと「前回は自分から話すことができなかったので、今回は積極的に議論に参加しました。」とおっしゃっていました。他校の生徒さんの様子に刺激を受けたことが成長のきっかけとなったようです。また、終了後に行ったアンケートでも、グループワークでの同じ医学を志す同世代との議論に大きな刺激を受けたとの意見が多くありました。
話し合って意見をまとめた後はグループごとに発表を行いました。発表では認知症の問題点や認知症と共生するための具体的なアイデアが多数挙がりました。
中高生のみなさんから出た意見をいくつか紹介します。
〈認知症を理解する〉
〈認知症の方と共生する〉
〈認知症を予防する〉
意見のまとめ方や発表の仕方はさまざまで、グループごとの個性溢れる意見発表会となりました。
グループワーク後、井上祥先生(株式会社メディカルノート)、米澤将克先生(災害医療センター)、そして内門大丈先生から、グループワークを終えたみなさんへお話がありました。
井上先生「グループワークでのみなさんの柔軟な発想に驚きました。特に義務教育で認知症・医療について学ぶ機会を設けるというアイデアは面白いと感じました。」
米澤先生「医師になってからもグループワークを行う機会はたくさんあります。意見を出すことだけでなく、さまざまな意見をどのようにまとめるかということも大切です。」
内門先生「認知症という難しいテーマでしたが、みなさん積極的に議論に参加していて感心しました。私自身が学ばせていただいた部分もたくさんありました。」
続いて現役医学生の木下魁(かい)さん(横浜市立大学5年生、AVENUE Education学生代表)と櫻井達哉さん(自治医科大学6年生)のお二人から学生生活の様子などのお話がありました。
木下魁(かい)さんは、医師を目指したきっかけや、横浜市立大学での充実した学生生活についてお話しされました。
櫻井達哉さんは、自治医科大学の受験・入試や独特のプログラムについてお話しされました。
最後に医師・医学生と交流する時間が設けられました。今回は「大学生活」や「受験勉強」など、テーマごとにブースが設置されました。中高生のみなさんはそれぞれ興味のあるテーマのブースへ足を運び、熱心に質問したり悩みを相談したりと医師・医学生と積極的に交流を行いました。
ご参加いただいた医師の先生方と聖光学院 工藤校長先生(写真中央)
閉会の言葉として金城瑞樹先生(東林間かねしろ内科クリニック院長)のお話の後、第二回「医学を志す」は終了となりました。
終了後のアンケートでは、医師の仕事を具体的に実感できたという意見が多くありました。中高生のみなさんにとって漠然とした、憧れでしかなかった医師という仕事が、内門先生の講演や医師・医学生達との対話を通して具体的な目標に変わっていったのではないでしょうか。
また、参加された生徒さんからAVENUE Education宛に「医学部進学を目指すか悩んでいたが、今回参加したことで決心がついた」とメールが届き、朝倉先生は「『医学を志す』が医師を目指す勇気を与えられたとうれしく思うとともに、一人の人生を変えることにもつながるものでもあると責任の重さを痛感しました。」と語りました。
次回の「医学を志す」は2018年3月18日に開催される予定です。順天堂大学眼科学講座 准教授 小野浩一先生の講演をはじめ、今回同様にグループワークや医師・医学生と交流する時間も設けられます。興味のある中高生の方々は参加してみてはいかがでしょうか。
神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床教授、東林間/鶴間 かねしろ内科クリニック 理事長、杏林堂クリニック 院長
鶴間かねしろ内科クリニック 院長
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
金城 瑞樹 先生の所属医療機関
朝倉 太郎 先生の所属医療機関
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医
1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。
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