神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床...
金城 瑞樹 先生
鶴間かねしろ内科クリニック 院長
朝倉 太郎 先生
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
内門 大丈 先生
2018年8月19日(日)医学部を目指す中高生を対象としたイベント「医学を志す」が、聖光学院で開催されました。4回目の開催となった今回は100名以上の中高生が参加し、青森県にある八戸市立市民病院の院長である今明秀先生の講演会や、グループワークが行われました。
また、2018年11月11日(日)には、横浜市立大学医学部学園祭 “Yokohama Medical Festival” 内の企画として「医学を志す」〜横市医学部 Special Edition〜が開催され、150名以上の中高生とその保護者等が参加されました。
今回はこれらのイベントの様子をレポートします。
前回の「医学を志す」のレポートはこちらをご覧ください。
朝倉先生:
「医師になりたい」と思ったとき、日本では、まず医学部に入学する必要があります。つまり、中学生・高校生の時点で自分の将来を決定しなくてはいけません。
しかし皆さんは、医師が実際どのような考えを持って、どのような仕事をしているのかについて、知らないのではないでしょうか。
「医学を志す」は、これから医師を目指す皆さんに医師の実情をお伝えし、そのうえで医師になる志を持っていただいたいという想いで始めました。
金城先生:
今回は講演会の講師として、青森県の八戸市立市民病院の院長である今明秀先生にお越しいただきました。今先生は、八戸市立市民病院に、たった1人で救命救急センターを作り上げた先生です。重症な病気や外傷など、命にかかわる状態の患者さんを救うべく、日々奮闘されていらっしゃいます。
本日は「ドラマを超える劇的救命」というテーマでご講演いただきます。めったに聞くことができない貴重なお話を聞くことができる機会ですので、皆さんにとって充実した1日になることと思います。
今先生:
私がまだ若い頃、大型車にはねられた女の子が病院へ運ばれてきました。すでに意識はなく、脈拍も弱く、冷や汗をかいていて、一目みて内臓が破裂していることがわかりました。胸からお腹までを大きく切開すると、大出血が起き、肝臓が破裂している様子がみられました。すぐに心臓を直接つかみ、心臓マッサージを開始するも、女の子の意識は元には戻りませんでした。
「何とかして助けることができたのでは…」
そこから私は、助かるはずの命を何としてでも救うべく、救命救急医として修行を続けて、今に至ります。その女の子の手術記録は、今も机の中に大切にしまっています。
皆さんは、普段「命」を感じたことはありますか。「まだ子どもだから考えたことはない」「亡くなるのは大人や高齢者でしょ」と思っている方は多いでしょう。
本日は、医師を志す皆さんに「命」を感じていただくために、私がこれまで行ってきたことについてお話しします。
私が医師になった理由は「命を救いたい」と思ったためです。自治医科大学へ入学し、卒業後は青森県のへき地で数年間勤務しました。たった1人でへき地での診療所の勤務も経験し、村の人々から信頼をされ充実した毎日を送っていました。
卒業して4年目、外科医になる研修を開始しました。小さな病院であったため、外科だけでなく、内科、産婦人科、耳鼻いんこう科、整形外科、麻酔科などの診療も経験して、医師としてどのような診療もできることの重要性を知ったのもこのときです。
外科医として働いていた1995年、警察庁長官狙撃事件という日本を震撼させる事件が起こりました。被害者の國松孝次警察庁長官(当時)は、銃弾によって大動脈、胃、腎臓などが貫通していたものの、日本医科大学付属病院で治療を受け、何とか一命を取り止めることができました。
予測生存率(患者さんの全身状態から割り出される生存率)が50%を下回っている患者さんの命を救うことを、私は「劇的救命」と呼んでいます。
「自分も人の命を劇的救命するために、もっともっと技術に磨きをかけたい」
この事件をきっかけに、そう強く思った私は、40歳を間近にしていた頃、外科医としての安定した生活を捨て、まったく知らなかった外傷の手術や救命医学を学ぶために、日本医科大学付属病院の救命救急センターの門を叩きました。
日本医科大学付属病院で6年間学んだあと、45歳の頃に青森県に一流の救命救急センターを作るために八戸市立市民病院へ行きました。
当時、私以外に救命救急医はおらず、たった1人で救命救急センターを立ち上げることになり、4つの目標を掲げました。
このような目標を掲げて動き始めた約1年後、東北地方が医師不足に陥り、私たちの病院も影響を受け医師数が大きく減少しました。
この状況を脱するために、私は研修医教育責任者を兼務し、研修医を育成するためにさまざまな工夫と努力をしました。すると、3年後には研修医が1学年約20名も来るようになり、1人だった救急専門医は20名ほどにまで増加したのです。
救急専門医は順調に増加していきましたが、人数が増えただけでは病院の近くにいる患者さんは助けられても、遠くにいる患者さんの命は救えません。
そこで、救命救急センターで育てた救急専門医のマンパワーで、ドクターヘリを開始しました。
ある日、2歳の女の子がトラックにはねられたとのことで当院にドクターヘリ要請が入りました。現場は当院から50kmほど離れた場所でした。ドクターヘリは時速200kmで飛行するため約15分で現場に到着し、事故発生から約30分後には病院へ向けて出発することができました。女の子は肝臓が破裂していて、予測救命率は約30%でしたが、何とか救命することができました。ドクターヘリの活躍が、「劇的救命」につながったのです。
しかし、ドクターヘリは、悪天候時や夜間など、視界が十分に確保できない場合には飛行することができません。しかし、夜間であっても、どんなに天候が悪くても、救命救急を必要とする患者さんはいます。
そこで、私たちはロンドンにおける「ドクターカー」を見習いました。ロンドンでは、ドクターヘリが飛ばない時間は、医師が乗ったドクターカーが現場に向かい、車内で治療を開始します。これを真似て、2010年にドクターカーを開始しました。開始からおよそ8年経過し、これまでの出動件数は9,000件以上にのぼります。
天候や時間帯によって、ドクターヘリとドクターカーを使い分けていますが、天候については判断が難しい場合があります。
たとえば、日中、こちらの天候は良好であったとしても、着地点である現場の天候が悪くなると予想される場合、ドクターヘリーで現場に向かったとしても、病院へ引き返すことができないことが考えられます。このように判断に悩む場合には、ドクターヘリで現場へ向かうと同時に、ドクターカーも現場へ向かいます。これを私たちは「サンダーバード作戦」と呼んでいます。
どちらかの出動が無駄になってしまう可能性もありますが、それでも救えるべき命を救うことには代えられません。
さらに、私は移動緊急手術室の開発にも挑戦しました。病院の外で人工心臓を装着するための手術ができれば、救える命はもっと増えます。そこで、2012年から車内で手術ができるドクターカー「移動緊急手術室」の開発を始めました。これは世界初の試みであったうえに、当時の日本の医療制度上、「病院の外では手術をしてはいけない」という決まりがあったため、非常に難しい挑戦でした。しかし、移動緊急手術室の必要性を訴え続け、2016年6月についに移動緊急手術室の実現に至ったのです。
移動緊急手術室は、救急要請が入ったらドクターカーに後続する形で現場へと向かいます。ある日、川で溺れて、河口まで流されてしまった女性の救急要請が入りました。ドクターカーが先に現場に到着し、女性の救助にあたっている間に、移動緊急手術室のセッティングを行います。女性は心肺停止状態であり、移動緊急手術室内ですぐさま人工心臓、人工肺を装着する手術を行いました。病院に戻って1か月ほど治療したあと、女性は後遺症なく歩いて自宅に帰りました。移動緊急手術室がなければ、女性の命を救うことはできなかったかもしれません。
ここまでの話を聞くと、「医師はこんな大変な仕事を毎日しているんですか」「遊ぶ時間があるんですか」と思うことでしょう。確かに、救命救急医の仕事は緊迫していて、忙しいものです。しかし、私は趣味でスノーボードをしていますし、家族との時間も大切にしています。子どもが小さいときには、よく一緒に遊んだり、学校の行事にも参加していました。時間を上手に使いながら、私生活も充実させている医師はたくさんいます。
医師の仕事は、マイナスの状態からゼロに近づけるように、もともと元気だった人を元の体に戻してあげる仕事です。その到達度が、達成感につながります。
「命を救う」というのは人類として、非常に大切で素晴らしいことだと思っています。それを仕事としてできるチャンスが与えられているのであれば、ぜひ踏み出していただきたいと思います。
今明秀先生の講演後はグループワークが行われました。
グループワークは、2035年に起こると考えられている医療問題に対して、「SWOT分析」という手法を用いて解決策を考えるものです。
SWOT分析とは、社会や組織が有している「内部環境」と「外部環境」を把握したうえで、今後の改善策を考える手法です。
内部環境としては「強み(STRENGTHS)」と「弱み(WEAKNESSES)」、外部環境としては「機会(OPPORTUNITIES)」と「脅威(THREATS)」の4つの枠組みに分類して、現状の分析を行います。それぞれの頭文字から「SWOT分析」と呼ばれています。
グループワークでは、2035年に起こると考えられる医療問題をいくつか出したあと、意見を出し合いながら、解決に向けて取り組む課題を1つ決定しました。
そして、医療や医学、医師が抱える「強み・弱み・機会・脅威」を挙げたうえで、課題解決策について意見を出し合い、SWOT分析に基づいて模造紙にまとめました。
グループで意見をまとめた後は、各グループによる発表が行われました。中には、進んで発表者になる参加者もいました。
AIと医師の付き合い方、財源不足による医療関係者の減少、少子高齢化問題など、2035年に起こると考えられるさまざまな課題について、活発な意見発表が行われました。
講演後のグループワークでは「2035年の医療問題と解決法」という課題に対して、「SWOT分析」という手法を用いてチャレンジしてもらいました。
時間も短く、非常に困難な課題でしたが、すべてのグループが発表まで行うことができました。
今回は最優秀発表賞を決めましたが、最優秀発表賞を受賞したグループは、医療が持つ弱みまでしっかりと分析されていて、堂々とした発表でした。
今回のイベントでは、進路が医学部に決まっていない段階の生徒さんに対して「医師の仕事を見てきなさい」と送り出してくださった中学校・高校がありました。
また、イベント終了後には一人の生徒さんから直接以下のようなメッセージをいただきました。
「医学部を受験するか決めていないが、実際の医師の仕事を見たことは貴重な経験になった。今後はほかにもさまざまな活動に参加して、さらに理解を深めて自分の将来に向き合っていきたい」といったメッセージです。
情熱を持って働く医師の姿は、情熱を持って働く大人の姿です。
「医学を志す」に参加し、実際にその姿を見ていただくことで、将来を考えるきっかけとなれば、それはとても嬉しいことです。
11月11日(日)には、 横浜市立大学福浦キャンパスにおいて「医学を志す」〜横市医学部 Special Edition〜が開催されました。
横浜市立大学医学部学園祭 “Yokohama Medical Festival” 内の企画として開催された今回は、150名以上の中高生とその保護者等が参加されました。国立病院機構相模原病院の内科系診療部長・循環器科医長である森田有紀子先生の講演、その後講演内容にちなんだグループワークが行われました。
朝倉先生から、本会の趣旨の説明がなされました。
朝倉先生:
「医学部に入るということは、医師になるということ。医学部に入る前に、医師の仕事、そこに込められている思いを知ってほしい。しっかりとした志を持って医学部に入学してきてほしい。この企画はそのために開催しています。」
ご講演の前半ではカテーテル治療の画像・動画もご提示いただきながら、「24時間365日」循環器医療の最前線で奮闘する姿をご紹介いただきました。
後半では、先生ご自身のキャリアを積んでこられた経験、さらには医師へのアンケート結果を交えて女性医師のキャリアの現状、キャリア形成に関するサポート体制をお話いただきました。限られた医療資源の中で、一部に負担のかかりすぎることのないサポート体制の構築、というとても難しいテーマでした。
森田先生:
「いまだジェンダーギャップがある中、育休・時短勤務などの子育てに対する支援制度は必要です。しかし限られた人員で働いている現状、残された方々の負担が増えてはいけません。
ワークライフバランスをとりながら仕事していくためには、まず仕事をしたい気持ちが大事です。そして家庭の理解、さらには同僚、職場の理解が必要です。さらに、その方々のワークライフバランスも考える必要があります。
そして男女共同の方向を目指すのであれば、意思決定権がある立場に立つ女性も増えなければいけません。そのため、その立場へと引き上げていく人も必要です。目標とされるキャリアモデルの存在で、若い世代がこうなりたいと続いてくれればと思います。」
「みんなが理想とするキャリア形成をするには?」というテーマのもと、今回は特に妊娠・出産・子育てに焦点を当てて、キャリア形成を継続させるために必要なサポート、考え方についてグループワークを行いました。
参加者は中学1年生から高校2年生まで、男女半々ずつ総勢100名を超えました。
「女性医師のキャリア形成」に関しての内容が中心の講演・グループワークでしたが、男子生徒も自分達の問題である、とばかりに積極的に議論に参加していました。中学1年生までも積極的に発言している姿から、昨今話題になっている問題であり、関心が高いことが伺われました。
多くの意見が出た中で、2グループが発表しました。仕事のシフト制、フリーランス制、など制度設計から、男性医師が休職しやすい雰囲気づくりまで、なるほどと思わされる意見が出されました。
一方、議論が深まらなかったグループも見受けられました。短時間で仕上げるには困難なテーマだったと思いますが、深く考えるよい機会となったのではないでしょうか。
最後に朝倉先生から、
「今日話し合った内容はとても大切なことです。家に帰ってからもう一度考えてみてください。また、ご家庭や学校でも話し合ってみてください。」
とコメントがありました。今日の議論がよいきっかけとなることを願います。
終了後のアンケートでも、男子中高生から多くの当事者意識を持つ意見がありました。さらに、一人の女子中高生から「今日の森田先生の講演を男性に聞いて欲しい」との意見もありました。現状を見て、感じるところがあるのでしょう。次の世代が安心して医療を仕事として選べるよう、やるべきことは山積みであると考えさせられました。
次回の「医学を志す」は、福井大学医学部付属脳神経内科学科長・准教授である濱野忠則先生をお招きします。現役の医大生による講演や交流会、個別相談会も開催予定です。
開催日程は、2019年3月24日(日)で、今回と同様に聖光学院にて行います。
ポスターのQRコードからLINE@に登録し、メッセージを送ることで申し込みができます。医学部進学を目指している中学生・高校生の参加をお待ちしています。
神奈川県内科医学会 幹事、糖尿病対策委員、大和市医師会内科医会 会長、横浜市立大学医学部 臨床教授、東林間/鶴間 かねしろ内科クリニック 理事長、杏林堂クリニック 院長
鶴間かねしろ内科クリニック 院長
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
金城 瑞樹 先生の所属医療機関
朝倉 太郎 先生の所属医療機関
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医
1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。
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