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医学部を目指す中高生のためのイベント「医学を志す」〜横市医学部 Special Edition〜レポート

医学部を目指す中高生のためのイベント「医学を志す」〜横市医学部 Special Edition〜レポート
朝倉 太郎 先生

鶴間かねしろ内科クリニック 院長

朝倉 太郎 先生

目次
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2019年11月10日(日)、医学部を目指す中学生・高校生を対象としたイベント『医学を志す』〜横市医学部Special Edition〜が開催されました。今回は、120名以上の中高生とその保護者が参加。医師による講演や医大生を交えたグループワークなどを行いました。本記事では、当イベントの様子をお伝えします。

はじめに、当イベントを主催する現役医師と医学部生の団体AVENUE Educationの朝倉太郎先生よりご挨拶がありました。

朝倉太郎先生は横浜市立大学医学部の卒業生であり、AVENUE Educationの活動を通して医師を志す中高生たちを応援し、また、よりよい医療を共に目指す医療従事者を増やすことを目指しています。

朝倉太郎先生:

本日こちらにお越しの皆さんは、医学部を目指している、あるいは少しでも医師という道を考えている方々だと思います。

日本では、一般的に、医学部入学後は6年間勉強をしてすぐに医師国家試験を受けます。つまり医師になるためには、医学部を受験する前に「医師になる」という決意を持たなくてはいけないのです。しかし現実的には、家族など身近な人が医師でない限り、医師がどんな仕事をしているのか、その実際を知る機会は少ない。ですから私たちは、この活動を通して中高生の皆さんに医師という仕事をきちんと理解してもらい、明確な動機を持って医学部を目指してもらいたいと考えています。

私は、2003年に横浜市立大学医学部を卒業してから、さまざまな医師と共に仕事をしてきました。そのなかには、熱い情熱や理念を持って仕事をされている方々がいる。このイベントを通して、そのような素敵な医師たちを紹介したい、という思いもあります。本日はぜひ、充実した時間を過ごしてください。

次に、井上 祥先生(株式会社メディカルノート 代表取締役・共同創業者)より、『デジタル時代の情報発信』というテーマで講演が行われました。

井上 祥先生:

私は、メディカルノートという会社で、“医師と患者をつなぐ”を理念に掲げ、一般の方々に向けた医療情報の発信をしています。

中高生の皆さんは、生まれたときからインターネットが身近にあったかもしれません。しかし、私が10代の頃はまだスマートフォンなどはなく、パソコンですら今のように情報を検索できるという環境ではありませんでした。このように時代が移り変わるなかで、医学・医療の世界もアナログからデジタルへ大きく変化しています。玉石混交の情報が溢れるなかで、いかにして信頼できる医療情報を発信し、患者さんに届けるか。これは、社会における重要なテーマです。

まず、井上先生は、周りにいる医師たちのさまざまな生き方を紹介し、“医師が活躍する場の多様性”を伝えました。

井上 祥先生:

まずは、いわゆる“臨床”、日々患者さんと向き合い、病院で手術をしたりクリニックで診療をしたりする道です。こちらは、皆さんがもっともイメージしやすい医師像かもしれませんね。そのほかにも、新たな医療・治療法を開発する“研究”や、明日の医師を育成する“教育”の道、また、厚生労働省や外務省などで“医療政策”に携わる道、“企業”に勤めて医療・社会に貢献する道など、医師には多様な働き方があります。

つまり、“医学を志す”とは、多様な選択肢を持つことと言えるでしょう。

続いて、井上先生は、自身の経歴と予備校生時代に勉学に励んだ思い出を語りました。

井上 祥先生:

医師だった祖父からの期待を受けていて、幼い頃から漠然と、医師という職業を意識していました。また、もともとサイエンス(科学)が好きで、サイエンスを分かりやすく応用できるのが医学だと思っていたので、医師という仕事に興味があったのです。

ただ、中学・高校時代にはあまり熱心に勉強せず、予備校に通い始めてやっと真剣に勉強するようになりました。あの頃は、寝る時間以外はずっと勉強していた気がします。移動時間すらもったいなくて、英語のリスニングにあてていましたね。

1年間の浪人生活を経て、横浜市立大学医学部に合格。皆さんにお伝えしたいのは、今、もし成績が(かんば)しくなくても、しっかり集中して勉強すればきっと成績は伸びるということです。今はスポーツに打ち込んでいるとか、部活を頑張っているとか、そのような方も、絶対に諦めないでください。

初期研修医から大学院生のころ、たくさんの先輩に可愛がっていただきました。この時代が、私にとって現在につながるキャリアの原点だと思っています。2014年にメディカルノートを創業するときには、反対されることなく、「そうか、頑張れ」と応援していただきました。

自身のキャリアを考えるときには、世間にどう見られるかよりも、“自分に合っているか”を大切にしてほしいです。そして、もし自分に合っていると思う道ならば、自信を持って選択してください。

次に、井上先生は正しい医療情報の発信の重要性を説明し、メディカルノートで行っている情報発信の実例や戦略について話しました。

井上 祥先生:

後藤 悌先生(国立がん研究センター中央病院)らによる2009年の研究によれば、GoogleおよびYahoo日本語版の検索で得られる肺がんの情報のうち、正しい情報にヒットする確率は約50%、そして約10%は代替療法の広告であることがわかりました。一方、英語版Googleでは約80%の確率で正しい情報に出合うと言います。このように、日本において正しい医療情報を発信し、一般市民へ届けることの重要性は明らかです。

メディカルノートでは、検索、ニュース配信、アプリでの病院検索機能など、さまざまなアプローチで情報発信を行っています。さらに、学会や自治体、企業などと提携し、1つのメディアから医療情報のプラットフォームへと進化しつつあります。また、新たな試みとして医療マンガ大賞の活動に取り組んでいます。

臨床・教育・研究の第一線でご活躍される医師は、何とかして医療情報を届けようと努力されています。しかし、信頼できる医療情報がそこにあっても、誰からも見られなくては意味がありません。ですから、メディカルノートは、信頼できる医療情報をわかりやすく翻訳し、さらに必要としている方々に届けるプラットフォームでありたい。つまり、私たちの仕事は、一般市民が正しい医療情報にたどり着くためのタッチポイント(接点)をつくることなのです。

最後に井上先生は、講演のあとに続くグループワークに向けて、「情報の受信者」としての心構えと、正しい医療情報の見分け方のポイントについてお話しされました。

井上 祥先生:

熊本地震の直後、“熊本の動物園からライオンが逃げた”というデマ情報がTwitterで拡散されました。情報を流した人物は、災害時にデマを流し、業務妨害をしたとして、熊本県警に逮捕されました。このような情報を発信したら逮捕されることがある、という危機感を持つことはもちろん、情報の受信者として、「この情報は本当か?」という視点を持っていただきたいと思います。

井上 祥先生:

本日は、このような貴重な機会をいただきありがとうございました。皆さんはこれから、明日の医療、そして明日の日本をつくっていく方々です。まだまだ人生は長いですが、1日1日を大切に過ごしてください。たとえ医学部に行かないとしても、立派な大人になっていただき、一緒に日本の未来をつくっていきたいと思っています。

講演後には、朝倉先生と井上先生、そして参加者と保護者が集まり、記念写真の撮影が行われました。

続いて、医学部生を交えたグループワークが行われました。参加者はAからSまでのグループに分かれ、1つの症例をもとに議論しました。

【症例】52歳、男性

2か月前に、舌がんのステージ3と診断され、手術を受けた。術後、経過観察中に転移が見つかった。緩和医療をすすめたが、患者さんはそれを拒否。親戚からすすめられた海藻エキス(1本3万円)を摂っており、さらに、インターネットで見つけた怪しげな遺伝子治療(200万円)を受けているという。しかし、日々、病状は悪化している。そして、当院を再受診され、今後の方針について相談したいと話している。

この遺伝子治療は、「どんながんにも効果がある」とありえない謳い文句で広告されていた。治療効果が科学的に証明されている免疫療法(保険適応)とは異なるもので、研究段階であるためはっきりとした有効性が示されておらず、保険適応外であった。

グループワークでは、“あなたは医師としてどのように患者さんに伝えるか。また、今後、患者さんが正しい情報を選択していくために、どのようなアドバイスをするか”をテーマに、活発な議論が行われました。

グループワークの時間が終わると、2つのグループが選出され、ディスカッションの結論を発表しました。

グループCの代表者は、「まずは、患者さんに海藻エキスの治療の効果がないことを説明し、現状と緩和医療の必要性をお話しする。偽の情報を行政で取り締まろうという意見も上がったが、行政が全てを取り締まることは難しいと考えた。そして、患者さんに偽の情報が存在することを知ってもらい判断できることが重要なので、一般の方々に情報を見極める力を養ってもらうために小学校や中学校で教育する、あるいは事例をテレビCMにしたりインターネットで発信したりするという結論に至った」と話しました。

グループワークのあとには、朝倉先生より、「医師と患者との間で、情報の非対称性がある。医師としてどのようなことを意識して行動する必要があるか」というテーマで小論文(400〜800文字程度)の宿題が出されました。

イベントの最後には朝倉先生からのコメントや井上先生からの講評があり、中高生に向けて激励の言葉が贈られました。このようにして、2019年秋の『医学を志す』〜横市医学部Special Edition〜は、大きな拍手に包まれて終わりました。

 

次回の開催情報については、こちらをご覧ください。

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