何が患者さんのためになるのかを考えて行動する

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何が患者さんのためになるのかを考えて行動する

好奇心を原動力に、ロボット手術の発展に力を尽くす志賀 淑之先生のストーリー

NTT東日本関東病院 ロボット手術センター センター長
志賀 淑之 先生

病弱だった少年時代に抱いた医師への夢

幼少期の私は、今では信じられないくらい小柄で病弱な少年でした。10日に1回は体調不良で学校を休んでいましたし、日々の薬の服用に加えて年に2回は入院して精密検査を受けなければならないほどで、病院には何かとお世話になる機会が多かったです。そんな幼少期を送っていたためか、小学校高学年の頃には自然と“自分と同じような子どもたちを守る小児科医になりたい”という夢を抱いていたのを覚えています。

小児科医になりたいという思いは中学・高校時代も貫き通し、そのまま勉強を頑張って医学部に進学しました。医学部生時代も途中までは小児科医になる一心でいたのですが、実習の途中で挫折してしまったのです。

実習中に外科系への方向転換を決断、泌尿器科の道へ

私の学生時代は実習で全ての科を回ることがカリキュラムとして定められていました。その過程で、小児科病棟に入院している子どもたちの診療を担当させていただいたのですが、大学病院の小児科に入院している子どもたちはほとんどの場合、重症例です。幼い頃から重い病気と闘い続けてきた子と、その子を必死に支え続ける親御さん。まだ若かった私には、親御さんと子どもの気持ちを十分に汲み取ることができませんでした。うまくコミュニケーションがとれずに、患者さんとご家族とのコミュニケーションがだんだんと心の重荷になってしまったのです。それを自覚した瞬間、“自分には小児科医は務まらないかもしれない”と迷いが生じてしまい、最終的に、小児科ではない別の科に進むことを決めました。

では、どの分野に進もうか——。そう考えなおしたとき、比較的器用だったのと、プラモデル工作などの細かい作業が好きだったこともあり外科系、特に小児外科に興味を持ちました。さらに小児外科に入院している子どもは泌尿器系の奇形が比較的多いという特徴があったため、“小児外科を目指すのであれば泌尿器をきちんと勉強しないと”と思ったのが泌尿器科に目を向けた最初のきっかけです。

実際に泌尿器科で実習を受けてみて、私は泌尿器科の面白さにすっかり夢中になってしまいました。泌尿器科は子どもだけではなく、老若男女全ての患者さんに対して、診察から診断、手術、薬物療法、看取りまでを自分の手で行える診療科です。さらに、当時は泌尿器科疾患に対する腹腔鏡(ふくくうきょう)手術が間もなく導入されるだろうというタイミングであったため、細かい作業が好きな私にはぴったりの領域かもしれないと直感的に思ったのです。

このようにして、私は泌尿器科への道を歩む決意をしました。

国際学会で受けた衝撃、ロボット手術発展のために動き続けた日々

泌尿器科医として駆け出しの頃は率先して手術件数の多い地方を回っていたので、多様なバックグラウンドの医師たちと一緒に研修を受ける機会が多かったように思います。自分が育った環境以外の医師と交流できる機会は本当に貴重なものでした。

いろいろな病院で手術経験を積ませていただいているなかで、あるとき、パリで開催される国際学会に参加させていただく機会がありました。参加してみて一番驚いたのは、ロボット手術に関する発表がそれなりの割合を占めていたこと。当時の日本でロボット手術はほとんど見向きもされていなかった。たしかにロボット手術が海外で急発展しているうわさは耳にしていたものの、国内ではまだ国の認可すら下りていない。“ああ、日本はこんなにも立ち遅れているのか……”と非常に大きな衝撃を受けたことを覚えています。同時に、“これからは日本でもロボット手術を導入しないと”という新たな目標が自分の中にできた瞬間でもありました。

その後、泌尿器専門病院である大和病院(現・東京腎泌尿器センター大和病院)の院長に就任したタイミングで、私はいよいよ本格的にロボット手術に打ち込みました。ロボット本体から周辺機器、前立腺肥大症治療用レーザーのデバイスなど、必要な機器を一通り整備し、ひたすら手技の上達とロボット手術のチーム育成に力を尽くしました。昔は自他共に認める開腹手術の人間でしたが、ロボット手術に力を入れ出してからは徐々にロボット手術を行う割合が増えていき、現在では私の行う手術の大多数がロボット手術となっています。

さらに、NTT東日本関東病院 ロボット手術センターの立ち上げを含めて、さまざまな施設でロボット手術や腹腔鏡手術、前立腺肥大症レーザー治療、尿路結石症手術などのスタートアッパーとしての経験も積んできました。もしかすると、ゼロから新しいものを立ち上げる活動が好きなのかもしれません。

“医療×IT技術”の確立と普及を目指して

きっかけは1人の医師との出会い

最近ではロボット手術に加えて、泌尿器科医療における3DやVR技術の開発と導入、泌尿器ナビゲーション手術の構築、これらを用いた教育などにも力を入れています。

3DやVRを泌尿器科医療に取り入れようと思ったきっかけは、杉本(すぎもと) 真樹(まき)先生(帝京大学冲永総合研究所 特任教授/Holoeyes株式会社 取締役兼COO)との出会いが大きく関係します。

杉本先生はもともと、モバイルPCを使って学生に解剖学を教えたり、プロジェクションマッピングを手術に導入したりと、積極的にITを医療に取り入れていた先生です。大和病院の院長に就任する4年前の2006年、私はたまたま新聞で杉本先生の紹介記事を見かけており、“面白い人だな”と思ってその記事を切り抜いて保管していました。

2010年に大和病院院長になったとき、私はモバイルPCによる診療情報管理システムの導入を検討していました。どうすれば導入できるだろうかと考えていたとき、2006年の記事に載っていた杉本先生のことを思い出したのです。この先生に聞けば突破口が開けるかもしれないと思い、ご協力いただけないかという電話をかけてみました。まったく面識がない医師からの相談にさぞかし驚いたことと思いますが快くOKしてくださり、特別非常勤講師として大和病院に来ていただくことになりました。それから少しずつ、ロボット手術にVR技術を組み入れ、1つのシステムとして構築していったのです。このシステムはNTT東日本関東病院のロボット手術センターでも応用的に実践しています。

私を3DやVRという技術に出会わせてくれた杉本先生との出会いは、私の医師人生の中でも非常に大きな出来事であり、杉本先生こそ、私の人生を変えた方だと思っています。

後輩医師が自分と同じ手術映像を頭の中で描けるように

今の目標は、自分が現役医師でいられる残りの期間に、泌尿器科に興味を持ってくれる外科医をできる限り育てることです。そのためにも、3DやVRといったツールをもっと駆使していきたいと思っています。

たとえば後輩医師に手術指導をする際にも、CT・MRI画像を立体化するナビゲーションシステムが役立ちます。私が口頭で専門的な解説をしても、後輩医師と指導医には経験値、読影力、想像力に差があるため、彼らの頭の中で描いている絵(手術中の視野イメージ)と私の頭の中で描いている絵はまったく同じにはなりません。

そのギャップを埋めてくれるのがナビゲーションシステムで、患者さんの体が立体化されるため、“体の構造がこうなっているからここを切ればよいのか”と、視覚的に理解しやすくなります。指導医と研修医がともに同じ立体を見ながら技術を教えられることで、研修医は納得しながら技術を学ぶことができ、結果的に多くの医師がスムーズに手術をマスターできるのです。これからも、ナビゲーションシステムを教育に応用しながら、後輩育成に取り組んでいきたいです。

好奇心を原動力にして、前向きに動き続ける

これまでの私の医師人生は決して成功の連続ではなく、むしろ挫折や失敗をした経験のほうが多かったかもしれません。今でも小さな失敗はしますし、“もっとうまくできたはず”、“もっとこうするべきだった”と思うこともよくあります。

失敗続きでくじけそうになったときは、常に“好奇心”を原動力に変えて乗り越えてきました。少しでも面白そうだなと思ったことは、仮に自分には向いていないかもしれないと思っても“やってみる”。なぜなら、たとえその結果が失敗に終わっても、“やってみる”行動自体は1つの経験値として人生の糧になるからです。やらずに後悔するよりは、きっと得られるものがたくさんあるはずと信じて、1つ1つ前向きに取り組んできました。

その行動を積み重ねた結果が、今の自分自身の考えにつながっているのかもしれません。

病気を治すのは患者さん自身。医師の役目はそのお手伝いをすること

医師とは“病気を治す”のではなく、あくまで“病気を治すお手伝いをさせていただく”ための職業であり、その感覚をいつまでも大切にしたいと考えています。

私は外科医ですから、患者さんが病気を治すお手伝いをするためにもっとも力を入れるべき点は、できる限り体への負担が少ない手術をして病気を再発させないようにすることです。よい結果を出すための手段が先に述べたロボット手術であり、ナビゲーションシステムなのです。

私はこれからも“患者さんのためになる”と思った技術を積極的に導入し、患者さんを支える役割であり続けたいと思っています。

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  • NTT東日本関東病院 ロボット手術センター センター長

    1994年より泌尿器科医師としてキャリアを積む。泌尿器腫瘍・がんのロボット手術を専門とし、術後の負担を減らす臓器温存手術を心がけ治療に取り組む。NTT東日本関東病院...

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