DOCTOR’S
STORIES
43歳で教授となり若手の育成に魂を捧げる冨田善彦先生のストーリー
2002年、私は43歳のときに山形大学泌尿器科の教授に就任し、それからは同大学泌尿器科教室の発展に全力を尽くしました。12年間山形の地で教育や研究に励んでいましたが、2015年、母校である新潟大学泌尿器科の教授へ異動が決定し、現在(2017年9月)は新潟大学で再び教室づくりに携わっています。
2002年から2017年現在までの約15年間、山形大学と新潟大学の2施設で、数々の後輩医師の指導を行ってきたことになります。比較的若い時期に教授職に就いたこともあり、「人を育てる」ことに関しては、自分の情熱の多くの部分を注いできたつもりでいます。
医局とは、学校のクラスや会社の部署と同じく、社会的集団の一種です。そして、それぞれの社会的集団にはほぼ間違いなくリーダーたるべき人間が少なくとも1人存在します。教授は、医局という社会的集団の「リーダー」でいなければならないということになります。
また、医局は「職能集団」だとも考えられます。たとえば板前さんがこぞって腕を振るう料亭や割烹の世界はまさに職能集団で、板前さんの世界は医師の世界とよく似ています。
板前さんの場合、生まれたときから料理人の職を目指す人はそう多くはいないのではないかと思います。様々な縁があり結果的に板前さんの道に行きついたという方が大多数です。
板前さんは職人ですから、日本古来の伝統的な教育制度のもとで技術を磨かなければなりません。最初は庭掃除や皿洗いなどばかりで、包丁を握らせてすらもらえないこともあるといいます。この期間は、辛抱のいる「修行」の期間なのだと思います。
しかしその期間が過ぎると、焼き物・煮物など調理面で徐々に仕事を任せてもらえるようになるのだといいます。そして少しずつできることの範囲が広がっていき、見習いから一人前の板前へ、さらにうえの立場へと成長していく構図です。
医師の世界もこれと同様です。なかには、「なんとなく」医師の世界に足を踏み入れたという方も決して少なくありません(私もその一人です)。正直な話、私は「なんとなく」医師になりましたし、卒業時も先輩医師に誘われるまま「なんとなく」泌尿器科の医局に見学にいきましたから、高校生時代から意識はしていましたが、医師や泌尿器科への熱い思いを持っていのかと問われれば、そういうわけでもない、と答えなければなりません。もちろん、医師、泌尿器科医になったからにはきちんと仕事をしなければならい訳ですし、頑張って「修行」してきたつもりです。
新潟大学医学部泌尿器科同窓、というよりは一門の先生方の大きな特徴として、手術など、さまざまなことを積極的に経験させてくれることがあります。
私が医学部を卒業したころは、すぐに専門科を決めて「入局」しました。その年(1985年)の10月には、生まれて初めて腎摘除術をさせていただきましたし、翌年(1986年)になって、経尿道的尿管結石破砕術(TUL)を経験させていただきました。もちろん、さまざまな経験をさせてもらうためには糸結びなど基本的なskillを自分でトレーニングし、「準備はできている」ことをアピールする必要があります。臨床、あるいは大学院での研究など、さまざまな方から多くのことを教えていただき、卒業からの15年程はあっという間に過ぎました。任される疾患や治療の領域が広がっていき、新薬の研究開発から腹腔鏡下手術など、最先端の医療に参加する機会も増えていきました。
その結果40才台前半に教授に就任することになり、今度は自分自身の修練から、人材育成のための集団「医局」のプロデューサー兼ディレクターという立場に立つことになりました。
医師は、上述のように職能集団ですが、非常に特徴的なところは、医学は科学(サイエンス)に基づいており、今後も進歩しつづけることを義務付けられているという点です。科学的思考を基礎に置きつつ、日々改革(イノベーション)を意識して臨床や研究、教育にあたらなければなりません。
これは非常に重要なポイントです。医師には「昨日と同一であること」は通用しないからです。似た症例はありますが、何から何まで全く同じ症例は一例としてありませんし、診断治療は迅速さが要求されます。だからこそ、医師には様々な状況に即座に対応できる一定以上の能力が求められますし、社会全体からそういった期待の目を向けられていると考えたほうが良いと思います。
また、医師はリーダーとして医療従事者をまとめ、より良いパフォーマンスを挙げることも期待されています。医師の集まり=医局のリーダーである教授の最大の役目は、これらのことを実践できる医師をひとりでも多く育成していくことだと思っています。
以前、海外から腹腔鏡手術の勉強のために半年間山形大学にこられた先生に指導を行ったことがあります。
医師法上、日本での医療行為はできませんでしたが、私はその方に自分の持っている腹腔鏡下手術のありとあらゆるテクニック、ノウハウを教えました。
その先生が帰国直前に私のところに挨拶にきてこういいました。
「冨田先生、さまざまなことを教えていただいてありがとうございます。しかし、先生はなぜあそこまですべてのことを私や他の先生に教えるのですか。先生が教えた相手はいずれ先生の競争相手になるので、先生は損をします。」と。
海外の医師の世界では教授と准教授が同じ専門分野で競うことも珍しくないといいます。彼がこのように思うのはむしろ自然のことかもしれません。しかし日本での職能集団の後進の育成は、多少の違いはあれ、同様の方法をとることが多いと思います。また、医師という特殊性から「患者さんのためベストのパフォーマンスを」という考えがあることも関係しているかもしれません。
私は自分の教えた若手医師が自分以上に素晴らしい技術を身につけて大きく成長し、患者さんがよい治療を受けられるのであれば、それでよいと考えます。ですから、自分の技術や知識を後進に全て教えることに全面的に賛成なのです。また、逆に、後輩から教えてもらうことも少なくありませんし、決して一方通行ではありません。
このことを彼に伝えると、なんだか不思議そうな顔をしていました。海外の人からすると不思議かもしれませんが、これこそが、日本の社会の強みの一つでもあると思います。
私は、泌尿器科学教室に、上下関係なく部下や後輩の意見を積極的に取り入れ、改善に結び付けてゆくような雰囲気を継続していきたいと思います。
知人から教わった話ですが、高級料亭で食事をしても、そこで食べた料理の記憶はやがてなくなってしまうそうです。一方、料亭の門をくぐり、打ち水がされた石畳を歩き、暖簾をわけて玄関に入った瞬間のすばらしい雰囲気、光景はお客さんの記憶から絶対に消えないといいます。
これを医療の世界に置き換えると、患者さんは自分がどのような手術を受けたかはいつか忘れます。ただし、初診の診察室で出会った先生の顔・声・印象は一生忘れない、ということになります。
ですから私は、若手医師の方には第一印象の重要性を大切にしてほしいと思っています。
医師の仕事は、人と人との関わりのなかで行われます。ですから、100%完璧な医療はないのかもしれません。
できる限り高いパフォーマンスをめざし、sincerity(真摯さ)をもって人に向き合い、やりがいを持って楽しく仕事をしている医師がさまざまな意味で「よい医師」なのではないでしょうか。私自身もそうありたいと思います。
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新潟大学医歯学総合病院
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