院長インタビュー

東京都千代田区の三井記念病院の取り組み-何よりも患者さんのための医療を目指し「ともに生きる」を実現したい

東京都千代田区の三井記念病院の取り組み-何よりも患者さんのための医療を目指し「ともに生きる」を実現したい
高本 眞一 先生

東京大学 名誉教授

高本 眞一 先生

この記事の最終更新は2017年07月14日です。

東京都千代田区に位置する三井記念病院は、最新の医療設備や治療法を導入しながら、良質の医療サービスを提供してきました。その背景には、何よりも患者さんを思い、医療を提供するという強い志と「患者とともに生きる」という理念を徹底する姿勢があります。より良い医療サービスの提供を目指し、病院づくりに尽力してこられた同病院の院長である髙本 眞一先生に、三井記念病院の取り組みについてお話しいただきました。

三井記念病院は、1906年(明治39年)、三井家総代三井八郎右衞門高棟が、私財を投じ創設した財団法人三井慈善病院がルーツになっています。

この三井慈善病院は、貧困により医療を受けることができない市民を救うため開院された病院でした。当時としては、日本で初めて患者さんから診療費をとらない病院として、多数の市民を救ったといわれています。

この三井慈善病院は、その後、財団法人泉橋慈善病院、三井厚生病院へと改称されていきました。そして、1970年(昭和45年)に三井記念病院と改称され、今日の当院にいたっています。

写真提供:三井記念病院

三井記念病院は当初、50床ほどの病院でしたが、徐々に拡大し、2017年現在は482床の総合病院として、最新の医療設備や治療法を取り入れながら患者さんへ良質の医療サービスを提供しています。

このように、病院の名称や規模、提供する医療サービスは時代とともに変化していきましたが、根本にある「何よりも患者さんのために」という思いは変わりません。現在でも、医療を必要とする方を幅広くサポートする病院として、地域住民の方を中心とする多数の患者さんへ医療サービスを提供しています。

写真提供:三井記念病院

当院の理念は、「患者の生命(いのち) を大切にし、患者とともに生きる医療を行い、より良い社会のために貢献します」というものです。この「患者とともに生きる」という理念を、私たちの病院では徹底しています。職員の入職式ではもちろんのこと、入職オリエンテーションなどでも繰り返し病院スタッフに伝えています。

当院で働くスタッフには、何よりもこの「患者とともに生きる」という理念の実現を求めます。それは医師や看護師に限らず、コメディカルや事務のスタッフであっても同様です。もちろん、高い技術力は必要ですが、それだけでは良い医療が実現できるとは限りません。

重要なことは、患者さんに寄り添い、ともに生きようとする姿勢です。現在、当院で働くスタッフは、この理念を理解し実践してくれている者ばかりです。

また、医療そのものは一人では実現できません。医療は、優秀な医師がひとりいれば実現できるようなものではありません。医療とは、チームでなされるものなのです。このチームには、医師や看護師だけではなく、薬剤師や栄養士、退院支援の事務など、多職種が含まれます。

チーム全員が患者さんを大切に思いながら、より良い医療サービスを提供することを目指してほしいと考えていますし、その実現のためにスタッフは一丸となり取り組んでいます。

19階にあるデイルーム(写真提供:三井記念病院)

当院は33の診療科を有し、いずれも高い技術力で患者さんに良質の医療サービスを提供しています。そのなかでも、特に循環器内科や心臓血管外科など循環器領域の治療には定評があります。これには、もともと三井記念病院の初代の木本誠二院長が優秀な心臓外科医であったことも関係しており、開院当初から、我々の病院には優秀な心臓外科医がそろっていました。

さらに、循環器領域の最新の医療設備や治療法も全国の病院に先駆けて実現してきましたし、良好な手術成績の実績もあります。その一例がTAVI(経カテーテル大動脈弁留置術)です。

当院では、2013年にTAVIを導入しました。TAVIとは、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう:心臓の左心室にある大動脈弁が狭くなり血液の流れが制限される状態)のために新たに開発された治療法です。

従来の大動脈弁狭窄症の代表的な治療法は、狭窄している大動脈弁を人工弁に取り替える大動脈弁置換術という開胸手術でした。この治療法は高い効果がある一方、患者さんへの大きな負担が課題となっていました。

そこで誕生した新たな治療法が経カテーテル大動脈弁留置術であるTAVIです。これは、機能が低下している大動脈弁を、カテーテルと呼ばれる医療用の管を用いて人工弁と置き換える治療法です。従来の術式と異なり、開胸や一時的な心肺停止をすることがないため負担が少ない点が特徴であるでしょう。

TAVIが導入されるようになり、これまで丸一日かかっていた手術が概ね1~2時間で済むようになるとともに、翌日から食事や歩行が可能になりました。これは非常に革命的なことです。

当院では、これまでに110件のTAVIの実績があり、さらに術後30日の死亡率は0.9%という非常に良好な成績を誇っています(2017年7月11日時点)。

ハイブリッド手術台(写真提供:三井記念病院)

TAVIのように高度な技術が要求される医療を実現するためには、高い技術力を持つ医師の存在が欠かせません。我々の病院には、優秀な医師がそろっていると自負しています。

たとえば、冠動脈のバイパス手術で高い実績を誇る医師は、5年間で手術の死亡者がゼロという良好な成績を残しています。また、後遺症などのリスクが高い脊椎(せきつい)の手術を得意とする医師もおり、全国から患者さんが集まってきています。さらに、白内障手術の新たな術式と器具の普及に努めるとともに、自らも高い手術実績を誇る眼科医もおります。

これらはほんの一例です。このように高い技術力を持つ優秀な医師の存在も、当院の大きな特徴であるでしょう。

当院の周辺には多数の病院があります。これら近隣の民間病院や大学病院とは、日頃から交流があり、患者さんのやりとりをするとともに、災害など有事のときには協力し合う体制を築いています。

また、我々のような急性期病院にとって、回復した患者さんをお戻しする在宅療養後方支援病院との連携は非常に重要です。当院には、お互いに患者さんのやりとりをし、連携を実現している病院があります。このように、周辺の医療機関とは、できる限り連携を実現しようとしていますし、今後はさらに力を入れる予定です。

地域連携委員会では、町内会の方や地元の医師会と交流の機会を持ち、顔の見える関係を築くよう努めています。

写真提供:三井記念病院

私は、医療は「何よりも患者さんのためでなければならない」と考えています。当然のことではありますが、医療は決して医療従事者の実績や利益のためになされるものであってはならないのです。そのためには、何が患者さんのためになるのか、常に真剣に考える必要があります。たとえば、私は今後、医師以外の職種がより幅広く医療に携われるよう、いっそう強化すべきであると考えています。

もちろん最終的な責任は医師がとるべきですが、本来、医療はチームでなされるべきものです。たとえば、特定看護師など医師以外の医療職の役割が拡大し、今まで医師の具体的指示のもとでしかできなかった医療行為を、リスクの低い特定のものに限って看護師など他の医療職も実施できるようになれば、よりよい医療サービスにつながるのではないでしょうか。

病気とは、少しの異変が重篤な状態につながりうるものです。それは、雨漏りを放っておくと建物全体が悪くなることをイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。

重篤な状態を避けるためには、少しの異変を見逃さず、病院を受診することが重要になるでしょう。当院は、患者さんに寄り添い、ともに生きる医療を実現したいと考えています。

  • 東京大学 名誉教授

    高本 眞一 先生

    三井記念病院の病院長で、東京大学医学部胸部外科の教授をつとめた心臓血管外科のエキスパート。「髙本式逆行性脳循環法」という心臓血管外科手術中の脳虚血を防ぐ術式を開発し、弓部大動脈瘤手術の成功率を飛躍的に高めたことで知られている。医学教育にも熱心に取り組んでおり、東京大学医学部時代は教務委員長として「医の原点」という医師としてのあるべき姿を考える授業を行い、多くの学生に影響を与えた。自身の家族を病気で亡くした体験を通じての考えを綴った『患者さんに伝えたい医師の本心』は、広く医療従事者、患者さんに読まれている。

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