院長インタビュー

“患者さん中心”の医療を形に――チーム医療を進める慶應義塾大学病院

“患者さん中心”の医療を形に――チーム医療を進める慶應義塾大学病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

東京都新宿区に位置し、1920年(大正9年)の開院以来、日本の大学病院医療の一端を担ってきた慶應義塾大学病院。初代病院長・北里 柴三郎博士が掲げた「基礎・臨床一体」の精神は、今も変わらずこの地に息づいています。

現在、同院が最も注力しているのは、診療科の枠組みを超えて1人の患者さんに寄り添う、横断的な医療体制の構築です。新しい医療を地域へ還元し、患者さんが住み慣れた場所で安心して過ごせるよう、「一気通貫」の医療を追求する福永(ふくなが) 興壱(こういち)病院長に、その思いを詳しく伺いました。

私たちの病院は、北里 柴三郎博士を初代病院長として歩みを始めました。北里博士が残された「基礎・臨床一体」という言葉には、研究の成果を速やかに新しい医療として患者さんに還元するという、強い決意が込められています。この信条は今も私たちの原動力であり、特定機能病院として高度な医療の提供や開発、そして次代を担う医療人の育成に努めています。

一方で、私たちは大学病院だからといって、決して敷居を高くしてはいけません。患者さんに寄り添い、何でも相談していただけるような、温もりのある存在でありたいと思っています。

新宿区を中心としたこの地域は、高齢化が進む一方でお子さんの人口も増え、たとえば小学生の児童数はこの10年で22%増加している(2024年5月時点)という特徴があります。そうした多様なニーズに応えるため、私たちは地域の医療機関との役割分担を非常に大切にしています。最近、ありがたいことに当院の稼働率が上がっているのですが、それは単に患者さんが増えたということではありません。地域の先生方としっかりと連携し、私たちが担うべき治療を終えた後は、住み慣れた地域の病院へスムーズにお返しするという循環が、うまく機能し始めた結果だと実感しています。

当院の大きな特徴の1つに、多くの「診療センター」が存在することが挙げられます。北里博士は「各診療科の分立をやめよ」とも説かれました。その精神に基づき、私たちは診療科の垣根を取り払い、複数の科が連携して1人の患者さんを支える体制を整えています。

たとえば呼吸器センターでは、内科、外科、放射線治療科、さらには病理診断科の先生方も含め、週に一度集まってカンファレンスを行っています。1つの病気に対し、手術がよいのか、薬物療法がよいのか、あるいは放射線やゲノム解析をどう組み合わせるのがよいのか。それぞれの専門家が顔を合わせて議論を尽くすことで、患者さんにとってよりよい治療方針を導き出すことができるのです。手術だけでなく放射線治療という選択肢も、最初の段階から放射線治療科の医師を交えて議論できるため、患者さんの年齢や体力、生活背景まで含めたうえで治療方針を組み立てることができます。

患者さんを中心に考えれば、当院全体にある診療科を横断する「横串」の仕組みこそ、大学病院のあるべき体制だと考えています。

がん診療において私たちが重視しているのは、「一気通貫」の医療です。
当院ではいわゆるがんの3大療法による集学的な治療をベースに、再編・拡充した腫瘍センターによる48床を備えた外来化学療法室(2026年4月時点)でお仕事や生活を続けながら治療を受けていただくことができます。さらには、がんゲノム医療中核拠点病院として個々の患者さんの遺伝子の特徴に基づいた治療を行うための検査なども実施しています。

また、現在は全ての診療科に「緩和ケア担当医(リンクドクター)」の配置を進めています。緩和ケアは、決して治療を諦めることではありません。積極的な治療を行っている段階から、心の痛みや体のつらさに寄り添い、将来地域へ戻った後の生活までを見据えてサポートしていく。そうした切れ目のない体制こそが、患者さんの安心につながると信じています。

治療が難しいとされるような複雑な症例に対しても、私たちの組織力は大きな力を発揮します。例として大血管浸潤腫瘍治療センターでは、一般・消化器外科、呼吸器外科、泌尿器科、心臓血管外科、産婦人科、整形外科、小児外科に加え、消化器内科、腫瘍センター、循環器内科、救急科などさまざまな診療科の医師が、即座に連携してチームを結成します。

通常、複数の診療科にまたがる治療を行う際は、それぞれの科の調整に時間がかかることも少なくありません。しかし、先ほども述べたように、当院は日常的に「横のつながり」ができているため、必要な専門家がパッと集まり、すぐに動き出すことができます。
この「顔が見える関係」があるからこそ、患者さんになんとかよくなっていただきたいという思いを具体的な治療の形にしてすぐに提供できる。それが当院の大きな強みです。

私たち慶應義塾大学病院は、当院だけで医療を完結させようとは考えていません。むしろ、当院は「地域を支えるための1つのピース」でありたいと思っています。

年に3回ほど「医療連携推進フォーラム」を開催し、地域の先生方へ私たちの知見を共有しているのもその一例です。そこではたとえば、赤ちゃんの頭の形を整える治療など、地域の先生方にとってまだ馴染みの少ない領域について情報共有を行い、当院の医療を知っていただいています。

また、地域医療機関との連携を推進する「慶應メディカルパートナーシップ」に登録されている先生方から、24時間いつでもご相談いただける救急ホットラインも開設しています。このホットラインでお電話いただければ、救急医が直接電話に出て迅速に判断し、必要であればすぐに入院を受け入れることが可能であり、現在多くの先生方に頼っていただいています。
高度な治療は私たちがしっかりと行い、状態が安定した後は地域でお支えいただく。こうした役割分担こそが、患者さんにとって負担が少なく、地域の先生方も安心できる形であり、当院もその考えの下、地域医療に力を尽くしています。

私は多摩の自然豊かな場所で育ち、近所の方たちがワイワイと集まるような賑やかな家で過ごしました。幼い頃は、自転車に乗って農家のおじさんたちを訪ね歩く「Dr.コトー」のような、地域に根ざしたお医者さんに憧れていました。

そんな私の医療観に大きな影響を与えたのが、他院で看護部長まで務めた私の叔母の存在です。彼女からは医療現場の厳しさと共に「決して傲慢になってはいけない」と何度も言い聞かされました。その教えは、病院長となった今も私の心に深く刻まれています。

地域の患者さんにお伝えしたいのは、ぜひご自身の近くに、何でも話せる「かかりつけの先生」を持っていただきたいということです。その先生方と私たちが手を取り合い、1人の患者さんを生涯にわたって長く支えていく。そんな未来を目指して、私たちはこれからも努力を続けてまいります。何か困ったことがあれば、いつでも当院の扉を叩いてください。

医師の方へ

様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。

学会との連携ウェビナー参加募集中
実績のある医師をチェック

Icon unfold more