院長インタビュー

自由な環境での療養を─福井記念病院の取り組み

自由な環境での療養を─福井記念病院の取り組み
高屋 淳彦 先生

医療法人財団青山会 副理事長、医療法人財団青山会福井記念病院 院長、社会福祉法人クオレ 理事長

高屋 淳彦 先生

この記事の最終更新は2018年06月05日です。

神奈川県三浦市で精神科患者さんの治療に尽力する福井記念病院は、開院当時から開放病棟での治療を行っており、当時の精神科医療の先駆的存在でした。現在もさまざまな取り組みを行いながら、患者さんの治療に尽力しています。また、精神科医療を受けた患者さんが地域に戻っても安心して生活できるように、訪問診療の充実や法人内の老人保健施設との連携に力を入れています。同院が行っている取り組みについて、医療法人財団 青山会 福井記念病院 院長 高屋淳彦先生にお話を伺いました。

 

福井記念病院全体写真(福井記念病院よりご提供)
 

福井記念病院は、三浦市で認知症を含む精神科医療を提供しながら、精神科疾患の患者さんの訪問診療や訪問看護などの在宅医療にも尽力しています。精神の病気で入院していた患者さんが退院後も地域で生活していくために、訪問診療や訪問看護でサポートをしていくことはとても重要です。当院では開設当初より開放病棟での精神科患者さんの治療を実践してきました。開放病棟での治療は前身である初声荘病院が開院された当時から行っており、開設者である福井東一先生の考えのもと現在も開放的な環境のなかで精神科治療を行っています。

地域に向けた講演会(福井記念病院よりご提供)

 

前身にあたる初声荘病院でも行われていた開放病棟での精神科患者さんの治療は、今でこそ当たり前のように行われていますが、開院当初の1963年では精神科の患者さんの入院治療は閉鎖病棟で行うことがほとんどでした。閉鎖的な空間で、患者さんが長期入院をするのでは、病状もよくならないと考えた福井先生は「患者さんを自由な環境で療養させるほうがよい」として、1959年に葉山診療所を開設し、1963年に診療所を病院にしました。

 

開院当時からの福井先生の考えを伝統的に守り、開放病棟での療養環境の提供に尽力しています。

 

ストレスケア病棟ホール(福井記念病院よりご提供)

 

精神科医療のなかで急性期を担うスーパー救急病棟を2018年6月より開始しました。スーパー救急病棟は、精神科救急入院料病棟のことを指し、一般的な一次救急などの救急患者さんの受け入れを行う病棟とは異なる点が特徴です。スーパー救急は精神疾患のなかでも急性期の治療後に、訪問看護や訪問診療など次の医療を切れ目なく提供し、患者さんが安心して地域に戻れるようにする医療提供です。

当院では、精神科救急入院料病棟の認可取得に向けて実績を積んで参りましたがスーパー救急の受け入れが可能となったことにより、より地域の方々が安心できる精神科疾患の治療が行えると考えています。

頭部CT(福井記念病院よりご提供)

 

2017年4月に当院のサテライトクリニックとして青山会津久井浜クリニックを開院しました。駅からほど近い場所で、物忘れ外来や児童思春期外来、精神科デイケアの提供をしています。たとえば、児童思春期外来では思春期特有の問題や悩みに対して一人ひとりに時間をかけて診療しています。成人やご高齢の方の精神科診療も重要ですが、同じくらい思春期の子どもたちの心に寄り添うことも重要だと考えています。

さらに、入院治療や施設入所などが必要な患者さんやご希望される患者さんには、当院や介護老人保健施設なのはな苑への入所をご案内することができます。

クリニックを治療の窓口として、必要なときには病院へ入院するなどして地域での治療を受けられる体制をつくっていければよいと思います。

 

福井記念病院よりご提供
 

認知症で入院されているご高齢の患者さんのなかには、認知症だけでなく糖尿病脳梗塞など別の病気を合併している方も少なくありません。そのような患者さんに対しては認知症の治療だけでなく、糖尿病などの治療も並行して行っていかなければなりません。当院では内科の医師が常勤しており、精神疾患だけでなく内科合併症に対しての治療にも対応することができます。また、病室には酸素配管が配備してあり呼吸状態が悪い患者さんでも対応することが可能です。

 

当院には歯科の医師が常勤して、歯科治療室での口腔ケアを行っています。長期にわたり入院治療を行っていると歯が弱くなってしまったり、抜けてしまったりすることもあります。そのため、入れ歯が必要になる患者さんもいます。そういった患者さんのために、常勤している歯科の担当医が口腔ケアをし、必要であれば入れ歯の手配などをしています。

閉鎖病棟や施設のなかには同じように歯科での治療や内科的な治療が必要な患者さんも多くいる場合があります。そのため、長期入院になる患者さんには口腔ケアが重要になります。

閉鎖病棟や施設に入院されている患者さんを歯科や内科を併設している病院に連れていくのに看護師や介護スタッフは2名以上必要になります。院内に歯科を併設することで、スタッフの負担軽減にもつながりますし、歯科の医師も入院している患者さんと接する機会があるため、処置などがすぐに行えると考えています。

 

私は、精神疾患の患者さんも入院治療が終われば地域に戻るべきだと考えています。そのために、急性期医療のあとには在宅医療などでサポートしていく必要があります。医療法人財団青山会では、急性期医療を提供する当院以外にも老人保健施設や訪問看護ステーションを併設しています。これらの施設と連携していくことで、患者さんが地域で安心して生活できるようになりますし、なにかあった際には老人保健施設や当院への入院対応を行えます。

 

当院では、患者さんが地域でも生活していけるように、訪問診療でのサポートに力をいれていきます。

 

当院では刑事事件の精神鑑定も行っています。精神鑑定では、被疑者や被告人の事件当時や現在の精神状態を鑑定し、その鑑定結果は裁判での判決材料になります。また、精神鑑定の結果は被疑者や被告人、裁判官や近年では裁判員制度により選出された裁判員の方々の前で提示しなくてはなりません。当院では主に神奈川県下で起きた事件の精神鑑定を引き受けており地域への医療提供だけでなく社会の中での役割を果たすことにも力を入れています。

 

高屋先生

福井記念病院は、患者さんが地域で生活していけるように治療だけでなくさまざまなサポートをしていきます。患者さんに病気があることで地域から出されてしまい、必要な治療が受けられないことはあってはならないことです。しかし、その患者さんの地域の方々がすべてサポートするには、みなさんにとっても負担がかかる部分や、対応が難しい患者さんには当院を頼ってほしいと思います。患者さんは病院で一度療養して、落ち着いて治療を受けてから地域に戻ってほしいと考えています。当院が開院した当時は精神科病棟に入院するともう退院して地域に戻ることは極めて困難と考えられていました。そのような時代に開放病棟での治療が重要だと考え、当院が開院したことは大きな意味を持っていると感じています。

福井先生の考えを伝統的に守りながら、時代や地域のニーズに対応した医療の提供に尽力してまいります。

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