院長インタビュー

プライマリ・ケア医療と地域包括ケアの拠点として地域医療を支える魚沼市立小出病院

プライマリ・ケア医療と地域包括ケアの拠点として地域医療を支える魚沼市立小出病院
布施 克也 先生

魚沼市立小出病院 院長

布施 克也 先生

目次
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新潟県魚沼市の魚沼市立小出病院は、2024年に設立から100年・医療再編から10年のダブルアニバーサリーを迎えます。

魚沼市のプライマリ・ケアと地域包括ケアを担うとともに、高度な医療の窓口として地域医療を支えている同院の役割や今後について、院長の布施 克也(ふせ かつや)先生にお話を伺いました。

外観
外観(提供:魚沼市立小出病院)

当院は1924年に設立された魚沼共済病院がルーツです。2015年の医療再編までは“県立小出病院”として地域医療を支えてきましたが、再編によって高度な医療部門は新設された魚沼基幹病院に移管し、主にプライマリ・ケアを担う病院に生まれ変わりました。その際に運営母体が魚沼市となり、名称を“魚沼市立小出病院”に改めています。

新潟県には7つの医療圏があり、当院があるのは魚沼医療圏です。魚沼医療圏は北魚沼と南魚沼、中魚沼のエリアに細分化され、それぞれ中核的な病院が配置されました。一方、同医療圏で2次救急(入院や手術を要する重症患者さんへの救急医療)と3次救急(生命に関わる重症患者さんに対応する救急医療)を担っているのが新設された魚沼基幹病院で、魚沼基幹病院を中心に地域の中核的な病院が連携し、医療圏全体で完結型の医療を提供しています。

当院を受診される患者さんは、自宅に近い病院を選択するという傾向が多いことから、ほとんどが魚沼市に暮らしている方です。近隣で入院施設があるのは当院と魚沼基幹病院に限られており、まずはプライマリ・ケアに強い当院を受診して、高度な医療が必要な患者さんは魚沼基幹病院に紹介するのが一般的な流れです。

また、急性期の治療が終わった患者さんは当院が引き継いでおり、魚沼基幹病院と強固な連携で地域医療を支えています。そのほか、魚沼市全域で訪問診療も行っており、地域包括ケアの拠点としても貢献しています。

当院の内科では、プライマリ・ケアを重視した医療サービスを提供しています。症例としては急性疾患から生活習慣病、慢性疾患、検診まで幅広く対応しており、場合によっては皮膚疾患についても診療するなど、他院で言うところの総合診療科のような役割を担っています。

こうした間口が広い診療ができるのは、自分たちで対処できなければどの病院の誰に相談すればよいのか、その引き出しをたくさん持っているためです。どのような症状で受診されても、2~3回目の診療までにしかるべき病院・診療科で受診できることを目指しています。

また、内科の鈴木 善幸(すずき よしゆき)先生は地域医療教育・研修センター長も務めており、当院の医師や看護師に加え、学生さんや研修医の皆さんに対しても、総合診療についてさまざまな面から指導していただいています。その成果が評価され、2023年には地域医療教育への貢献している証である住友生命福祉文化財団の“第17回地域医療貢献奨励賞”を受賞しました。

当院では内科のほかに、主に骨や関節、神経、筋肉などの運動器の病気を診療する整形外科、婦人科疾患や妊娠診断から妊娠30週までの妊婦健診などを診療する婦人科で常勤の医師が在籍しています。

また、外科と脳神経外科、リハビリテーションについては、魚沼基幹病院の医師によるサテライト診療を、脳神経内科と小児科、泌尿器科、皮膚科については大学病院の医師による診療が行われています。このように診療の間口を広げつつ、何かあったらまずは内科に受診いただき、必要に応じてほかの診療科やほかの医療施設を紹介できる体制を整えました。

当院は、情報共有ネットワーク“うおぬま・米ねっと”と連携しています。同ネットワークは患者さんの医療や介護の情報を共有する仕組みで、加入いただいた方の情報を参加施設が共有し、受診先が変わっても切れ目のない医療サービスを受けることができます。

特に当院があるエリアでは高齢化が進んでいますので、ネットワークを通して迅速に医療情報をやり取りできるのは患者さんには大きなメリットです。また、ネットワークには救急隊もアクセスできることから、119番通報を受けて現場に到着する前に、その方の医療情報を入手して迅速に対応することができます。これにより、搬送時間が短縮されます。

“うおぬま・米ねっと”には2024年3月末時点で約45,000人の方が加入し、参加している病院・診療所や調剤薬局は96施設、訪問看護・介護・福祉施設などは200事業所に達しました。魚沼市の高齢者人口の約8割、介護保険認定者の約9割が加入しており、地域医療を支える重要なシステムになっています。

当院では、2011年に地域医療再編成事業の一環として、『住民こそ医療資源』を合言葉に地域医療魚沼学校を開校しました。学校カリキュラムの3本柱は“住民が学ぶ”“専門職が学ぶ”“学生・研修医が学ぶ”で、病院だけでなく保健や福祉などの現場を教室としてさまざまな啓発活動を展開しています。

具体的には、病院内外での健康講座、小・中学校や高校での保健授業、病院での職業体験、また研修医のための総合診療医講座なども行っています。地域住民の皆さんが自身の健康を守り、ご家族の健康を守れるような情報を気軽に学べる場となっていて、2019年度までに延べ31,886人の方にご参加いただきました。

今後も住民参加・多職種連携の場を目指し、プログラムをさらに発展させていきたいと考えています。

地方ではへき地医療が課題になっています。当院がある新潟県も同様で、ここから山に30kmほど行った福島県との県境では高齢化率が50%を超えており、患者さんが病院に行くのが困難なケースがあります。

そこで訪問診療が必要になるのですが、山奥は積雪が想定され、訪問診療に行ったものの帰って来られなくなるというケースも想定しなければなりません。こうしたへき地医療の課題を解決するには、“うおぬま・米ねっと”のようなICT(情報通信技術)を活用した医療サービスを提供することが重要です。

たとえば、スマートフォンやパソコンを使ったオンライン・リモート診療なら患者さんの顔色も分かり、対面型に近い診療ができます。その際の課題は薬をどのようにして届けるのかということですが、遠隔で行う服薬指導と宅配便を組み合わせることで解決できます。都市部などではこうしたシステムができ上がっていますので、この地域でもその仕組みを整備して、たとえば東京の調剤薬局に参加してもらうのもよいと考えています。

魚沼市のマスタープランの合言葉は『暮らしやすいまち・暮らし続けられるまち』ですが、私たちはそこに『暮らし終えるまち』を加えて魚沼市医療公社の目標としています。「市民の生活を丸ごと支える」という覚悟を『わたしたちの専門は地域“魚沼”です』という病院クレドにし、市民が健やかに暮らし続けることを支え、病めるときは治療と療養で助け、そして安心して人生を終えられるお手伝いができる病院を目指します。

最後になりますが、当院は2024年で100周年を迎えます。さらに、この地域の医療再編から10年目にあたり、ダブルアニバーサリーという記念すべき年になります。大きな節目の年になることから、我々のこれまでの取り組みを振り返るとともに、地域の皆さんに対してはプライマリ・ケア医療の現場として、高度な医療の窓口として、そして包括ケアの拠点として、よりいっそうお役に立ちたいと考えています。市民病院である魚沼市立小出病院を今後ともよろしくお願いいたします。

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