和歌山県和歌山市にある和歌山県立医科大学附属病院は、県内唯一の特定機能病院として、高度な医療の提供と研究、人材育成に取り組んでいます。地域の基幹的な病院として保健医療に貢献し続ける同院の役割や今後について、院長の西村 好晴先生に伺いました。
当院は1945年、和歌山県立医学専門学校附属医院として開設されました。同年、空襲によって建物が焼失しましたが医療を継続し、1947年には和歌山県立医科大学附属医院として病棟を開設。その2年後には附属医院を附属病院と改称し、次々と病棟を建設していきました。
1999年には紀三井寺キャンパスに新築移転しました。キャンパスを上空から見ると楕円形に見えますが、それはこの場所がもともと廃場になっていた紀三井寺競馬場跡に移転したためです。
和歌山県の医療圏としての特徴は、縦に長く、北部と南部で医療格差があることです。当院を含め、医療体制が充実している病院は北部地域に集中しているため、当院ではドクターヘリを運用するなどして、和歌山県全体の高度急性期医療を担っています。
また当院は和歌山県内で唯一の特定機能病院であり、高度な医療の提供と研究開発、評価、医療人材の教育や研修などができる病院として、厚生労働大臣の承認を得ています。
特定機能病院の役割でもっとも重要なのは、一般病院では対応できない疾患や症例に対して、地域の皆さんに高度な医療を提供することだと考えています。そこで当院では重点診療領域についてセンター化を進め、脳卒中診療の充実・発展に取り組む“脳卒中センター”や、子どもへの高度専門医療の提供と家族ケアを主導する“小児医療センター”、心臓血管病診療の充実と発展を目指す“心臓血管病センター”などを開設し、高度で専門性が高い医療サービスを提供しています。
また、新しい医療技術・システムを積極的に導入しており、たとえば従来から進めてきたロボット支援手術の分野では、整形外科で人工関節置換手術用の支援ロボットを導入したほか、2台のロボットを泌尿器や消化器などのがんの手術で活用するのに加え、2023年からは心臓血管外科でロボットによる心臓手術も行っています。
当院は、1989年にICU病棟を中心とした高度集中治療センターを開設しました。その後、1999年にER(救急外来)と日本型3次救急医療の機能を加え、2011年には高度救命救急センターとして認可されています。
救急外来では“救急患者さんは断らない”をモットーに、1次救急(入院や手術を伴わない医療)から3次救急(生命に関わる重症患者に対応する救急医療)の患者さんまで、24時間体制で診療にあたっています。設備の面では高度な緊急処置に対応する重症処置ベッド(5床)のほか、オーバーナイトベッド(12床)を有しています。このベッドは、地域の診療所などで夜間診療が困難な場合に患者さんを受け入れ、経過観察をした後、診療が始まったかかりつけ病院へ転送するシステムで、2012年から運用しています。また、ドクターヘリについては2003年から運用を始め、当院の救急医がフライトドクターとして搭乗しています。
このように当院の救急医療体制は非常に充実していることから、2023年度には厚生労働省による救命救急センター充実段階評価で、全国5位(全国304施設中)の評価をいただきました。
当院では、重点診療部門について診療科や職種の垣根を超えて治療する“センター化”を推進し、診療体制の強化と充実を図っています。最近では2023年11月に心臓血管病センターを開設しました。心臓血管病の領域は、もともと心臓外科と循環器内科の連携によるハートチームで診療していましたが、腎臓内科や放射線科、リハビリテーション部、臨床工学センター、患者支援センターなど他部門・多職種のスタッフが参加することで、総合的に診療できる体制が強化されました。今後は脳卒中センターとの統合も視野に入れながら、診療体制の充実をさらに図っていく予定です。
また、早期発見が難しく、他のがんに比べて治りにくいといった特徴がある膵がんについては、2019年に膵がんセンターを開設し、膵がんの診療と研究に取り組んでいます。2021年からは膵がんドックを開設し、膵がんの早期発見・早期治療ができる体制が強化されました。
和歌山県には、患者さんのカルテや検査、投薬状況といった医療情報を参加医療機関が共有する医療連携システム“青洲リンク”があります。この仕組みは、地域の皆さんに安心して医療サービスを受けていただくため、そして、災害が発生した場合に迅速かつ適切な医療サービスを提供するため、当院をはじめ県内基幹病院を中心に2011年に立ち上げました。現在は県内の中核的な病院と地域の病院・診療所、薬局などの医療機関が参加し、より効率よく患者さんに医療サービスを提供できるようになっています。
和歌山県は南海トラフ地震が発生すると、大きな被害を受ける可能性があると言われています。そのような事態に陥った場合には、青洲リンクは大きな武器になるはずです。
“青洲リンク”という名称は、江戸時代末期に全身麻酔による外科手術に初めて成功した、和歌山県出身の医師「華岡青洲」に由来します。華岡青洲のように医療分野で大きく貢献し、地域の皆さんに安心・安全な医療を提供していきたいとの思いを込めました。
当院は安全で質の高い医療を地域の皆さんに提供することを第一の目標に掲げ、日々診療に取り組んでいます。それを実現するためには、医療設備の充実や診療体制の強化に加え、患者さんと接している全ての職員の満足度を高めること、つまり、職員の皆さんが快適に働ける職場環境を整備することが欠かせません。折しも昨年(2024年)4月から医師の働き方改革がスタートし、当院でも医師の長時間労働改善に向けた取り組みを行っているところです。今後も地域の皆さんに安全で良質な医療を提供するための努力は惜しみません。ご理解とご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。